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もう1つのロストテクノロジー  作者: 維岡 真
第1章 周期と位相

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19/81

押し返し

屋上。


風が強い。フェンスが唸り、空気が乾いた音を立てて流れていく。

志乃は塔を見ていた。見ているというより、目がそこから外れない。


胸の奥に波が来る。


まだ揺れの時刻ではない。

昼と夜の中間。どちらの山にも当たらないはずの時間。


なのに、突然――波が立ち上がった。


(今じゃない)


志乃は反射で抑え込む。

外へ出さない。内側へ。沈める。呼吸を深く、意識を底へ落とす。


その瞬間。


遠くのスカイ・ピラーの光が、一瞬だけ強くなった。


“明滅”ではない。脈打ちでもない。

薄い揺れが整えられたような、光の密度の上昇。塔が、ほんの一拍だけ正しい呼吸を取り戻したみたいに見えた。


古本が端末に視線を落とす。画面を拡大し、数値の変化を追う。


「逆位相が……減った?」


西野が息を呑んだ。

冗談も、否定も出てこない。ただ事実だけが重く落ちる。


志乃は、膝の力が抜けそうになるのを堪えた。


自分が――“押し返した”。


意図していない。狙ってもいない。

ただ抑え込んだだけなのに、塔のほうが応答した。


でも確かに。


塔の波が、わずかに安定した。


共鳴点。

双方向。


志乃は初めて理解する。


塔に引かれているだけじゃない。

自分も、塔に影響を与えている。


夜。


記者会見。


東都研究都市・管理局は発表する。言葉は慎重に選ばれ、責任の輪郭だけが曖昧に削られている。


「現在、霊気循環に不安定要素を確認しています。安全確保のため、一部出力制限を実施します」


“危機”という言葉はまだ使われない。

“異常”も、必要以上には言わない。


けれど都市は察した。


灯りが消えた三秒は、忘れられない。

あの暗転は、噂ではなく体験として全員の中に残っている。


周期は23時間20分。

揺れはさらに早まる。


昼と夜が、数日で重なる。

二回が近づき、境界が溶け、揺れが「時間」を越える。


そして志乃は――


意図的に押し返せる可能性を、持ってしまった。

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