第38話 本音
狭いと思っていたこの場所も
大吾がいないだけで随分広く感じられた。
「・・こんな事言っちゃいけないのは
わかってるんだけどさ」
洋は煙を鼻から吐き出してから
俺と翔太の顔を交互に見た。
「・・正直言うとさ。
俺、大吾が死んでホッとしてるんだ」
何とも言えない空気がこの場を包み込んだ。
俺も翔太も何も言わなかった。
洋が大吾のことを快く思っていなかったのは
わかっている。
そして少なからず翔太も
洋と同じ感情を持っていたはずだ。
それでも。
2人が大吾と過ごした時間は短くはない。
気まずさからか
洋は続けざまに煙草を吸った。
翔太は煙草を指に挟んだまま動かなかった。
俺は新しい煙草に火を点けた。
「・・ほ、本音を言うと僕も」
翔太が誰にともなく小さな声で呟いた。
翔太の指の煙草からぽとりと灰が落ちた。
「そうだろ?なっ、なっ!」
洋の顔がぱっと明るくなった。
「う、うん」
翔太は力なく頷いた。
それから2人は俺の方へ視線を向けた。
「・・俺は大吾とは付き合いが短いから
・・よくわからない」
転校生という身分を利用して俺は誤魔化した。
俺の答えが想定外だったのか
2人は何とも言えない表情を浮かべた。
「・・でも、
それなら何で2人は大吾と遊んでたんだ?」
俺の質問に2人は顔をしかめた。
そして洋は吸いかけの煙草を
地面に押し付けて消すと徐に口を開いた。
「実は俺、大吾に弱味を握られてたんだ」
翔太が驚いたように洋を見た。
「ひ、洋も?
じ、実は僕も・・」
2人は顔を見合わせた。
「どんな弱味か、聞いてもいいか?」
俺は2人を交互に見た。
「ひ、洋が言うなら僕も言うけど・・」
「な、何だよ、翔太。
お、俺もお前が言うなら・・」
そこで2人は口を噤んだ。
俺は2人が話し出すまで待つことにした。
俺はそっと煙を吐き出した。
「・・俺は、
万引きしてるところを大吾に見られた」
先に口を開いたのは洋だった。
「どうして万引を?
洋の家は金持ちなんだろ?」
「去年から俺んちも小遣い制になったんだ。
俺の成績が悪いからさ」
小遣い制になったものの、
長年染みついた習慣からは
すぐには抜け出せない。
金のなくなった洋は万引きという手段で
欲しいモノを手に入れたのだ。
「し、翔太も言えよ。
俺が言ったんだから」
洋が唇を尖らせた。
「えっ、う、うん・・」
それでも翔太は話すのを躊躇っていた。
俺と洋の視線が自分に向けられていることに
耐え切れなくなったのか、
翔太は煙草を咥えると、
大きく吸い込んから一息に煙を吐き出した。
それから渋々と口を開いた。
「ぼ、僕は・・
いやらしい本を持ってることを
茜ちゃんに言うって脅されて・・」
「何だよ、そんなことかよ」
「洋にはわからないよ僕の気持ちなんか」
翔太は顔を真っ赤にして反論した。
「まあまあ、落ち着けよ。
もう終わったことだろ?」
2人を宥めながら
俺は「終わった」という自分の言葉に
非情な響きを感じた。
「そうだね。
洋もこれ以上お金を取られないし安心だね」
「そ、それを言うなら翔太だって、
殴られることもないし良かったじゃないかよ。
それに大吾はケチなだけで
金には困ってなかったようだぜ」
2人の会話をぼんやりと聞きながら
俺は別のことを考えていた。
「なあ、ということは
茜も大吾に弱味を握られてたのか?」
翔太と洋は顔を見合わせた。
「どうかな?
茜ちゃんが俺達と遊ぶようになったのは
ここ1年くらいだよな?
なあ、翔太」
「そうだね。
去年の夏休みが始まる前だったよね」
「その時の茜の様子はどうだったんだ?
嫌々付き合ってたんじゃないのか?」
「うーん、そういう感じじゃなかったと思うよ」
「だな。
茜ちゃんは
嫌なことは嫌ってはっきり言うからな。
女の子だから大吾も茜ちゃんは
特別扱いしてたぜ」
そういえばジュースの買い出しは俺と翔太で、
煙草の保管は翔太、ライターは洋。
それらを考えると
確かに茜は優遇されていたと言える。
「ということは、
茜は自分の意志で仲間に加わったのか?」
翔太と洋はふたたび顔を見合わせた。
「そうなのかなぁ」
「考えたこともなかったな」
2人は腕を組んで首を傾げた。




