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黄昏は悲しき堕天使達のシュプール  作者: Mr.M
二章 Renewal 5月

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25/137

第25話 不法侵入

中ノ島小学校は市街地の近くにあり、

小学校の周りは比較的地価の高い地域だった。

俺達は綺麗に区画整理された住宅街を

大吾を先頭に歩いた。

昔からある家々の中に

高層マンションがポツポツと建っていた。

20年後にはこの勢力図は大きく変わる。

高層マンションが立ち並び、

古くからの民家は姿を消す。

この時、空はまだ明るかった。

ふいに大吾が足を止めた。

真新しいマンションの前だった。

マンションの銘板には

「Paradise Garden 中之島」

と書かれていた。

マンションの1階には花屋と薬局が入っていて、

残る1階部分は駐車場になっていた。

いわゆるピロティ式の建築物だった。

3人の中の誰かがここに住んでいるのだろうか。

しかし。

大吾達はエントランスには向かわずに

裏の駐車場の方へと回った。

俺は3人の後を追った。


3人の足は

駐車場の奥にある門扉へと向かっていた。

2m近くある門扉の前で3人は立ち止まった。

翔太がノブに手を掛けたが

当然開かなかった。

「おい」

「了解」

大吾の言葉に洋がノブに足をかけた。

そのまま飛び上がり門扉の上部を掴むと

あっという間に洋の体は門扉を越えて

向こう側へと消えた。

すぐに扉が開いて洋が顔を出した。

「いくぞ」

大吾が俺に言った。

嫌な予感がした。

こんな手段で侵入するということは、

当然3人の中にここの住人はいない。

すなわちこれは住居侵入罪に該当する。

馴染みのある言葉で言えば不法侵入。

つまり犯罪である。


エレベーターに乗り込むと、

翔太が最上階である11階のボタンを押した。

それを見た俺は

どこかの部族が儀式で行うという

バンジージャンプを思い出した。

まさかとは思ったが、

完全に否定できないのが

子供の恐ろしいところだった。

時に子供の考えは大人の想像を遥かに超える。

大吾は俺を仲間に加えると言ったが

それは建前で、

ここに連れて来ることが目的だったとしたら。

そして最上階から俺を突き落とそうと

考えているとしたら。

将来死傷事件を起こすような人間だ。

それに大吾がその気になれば

俺を突き落とすことなんて容易いだろう。

俺はポケットの中の彫刻刀を握り締めた。

エレベーターは途中でとまることなく

11階に着いた。

翔太、洋に続いて大吾が降りた。

俺は躊躇っていた。

「どうした。早く来いよ」

振り向いた大吾が声を荒げた。

今ならエレベーターを閉めて

逃げることができるか。

いや、多分無理だろう。

俺はポケットの中にある彫刻刀を握りしめたまま

エレベーターを降りた。


大吾の後ろを歩きながら

俺はその背中に意識を集中させた。

向こうで洋が外階段へと続くドアを

開けるのが見えた。

外階段なら

俺を突き落として

事故に見せかけることも容易い。

周りに目撃者はいない。

翔太や洋が

「遊んでいる最中に落ちた」

と証言すれば事故として処理されるだろう。

目撃証言ほど当てにならないものはない。

人の記憶は曖昧だし、

目撃者が嘘を吐いていないことは

証明すらされないのだ。

証人が常に善意であるとは限らないのにだ。

前を歩いている大吾が

外階段のドアへ手を掛けた。

逃げるなら今か。

「今更やめるとは言わせねえぞ」

振り向いた大吾の眼がギラリと光った。

獲物を狙う猛獣のような眼だった。

「・・わかってる」

俺は大吾の動きに注意しながらドアを抜けた。

翔太と洋の姿が

上へ続く廻り階段の踊り場へ消えていくのが

見えた。

この上は・・。

俺と大吾も後に続いて階段を上った。

踊り場でUターンしてさらに階段を上る。

上りきったところは行き止まりになっていた。

そして不思議なことに

先を行っていたはずの2人の姿が

そこにはなかった。


その答えはすぐに見つかった。

踊り場の若干低い天井に丸い穴が開いていて、

そこに梯子が見えた。

2人はあの穴の中へ消えたに違いない。

「おう、ここから上に行けるから

 お前が先にいけよ」

大吾はそう言って俺の背後に回った。

「あっくん、早くおいでよ」

「ジャンプすれば手が届くぜ。ひひひ」

穴から翔太と洋の声がした。

俺は若干の逡巡の末、

意を決して梯子の一番下に飛びついた。

下の大吾を警戒しつつ

一段一段しっかりと足をかけて梯子を上った。

穴を抜けると

そこは周囲が高い壁で囲まれた空間だった。

頭上には明るい空が広がっていた。

解放感はあるが

それでも決して広いとは言い難い空間だった。

それは中央に鎮座している

巨大な貯水タンクのせいだった。

とにかくここなら突き落とされる心配は

なさそうだった。

翔太と洋は思い思いの場所に腰を下ろしていた。

しばらくして大吾が穴から顔を出した。

大吾は肩で大きく息をしていた。

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