第26話 儀式
「それで。
俺は一体何をすればいいんだ?」
俺は大吾の呼吸が落ち着くのを待ってから
訊ねた。
「翔太あれを」
大吾が俺に視線を向けたまま
翔太の名前を呼んだ。
大吾に言われた翔太が鞄から取り出したのは
煙草の箱だった。
翔太は大吾と洋に1本ずつ煙草を手渡した後で、
俺の前に箱を差し出した。
「取れよ」
大吾の声がした。
俺がそれに従って1本取ると、
洋がポケットからライターを出して、
慣れた手つきで火を点けた。
俺は煙草を口にくわえて
洋の差し出す火に近づけた。
「口を付けて吸うんだ。
そうしたら火が付くぜ。
ひひひ」
軽く吸うとジジジジという音と共に
煙草の先が赤く光った。
同時に煙が口内に侵入してきた。
俺はそれをゆっくりと吸い込んだ。
鈍く重い空気が肺を圧迫した。
俺はむせて咳込んだ。
軽い眩暈にも似た感覚に襲われて
頭がクラクラとした。
30歳の時に禁煙を誓ってから、
かれこれ5年ぶりの喫煙だった。
「はっはっは。
よし、これでお前も仲間だ」
大吾は笑いながら自分の煙草に火を点けた。
翔太と洋もそれに続いた。
何のことはない、
大吾達は喫煙の共犯関係で結ばれていたのだ。
どうやらこれが儀式の正体のようだった。
この時代。
煙草は大人の嗜みだった。
喫煙者は堂々と煙草を燻らせていた。
まさか20年後には
肩身の狭い思いをすることになるなんて、
誰も想像すらしていないだろう。
そして。
中学生になって不良と呼ばれる道へ
足を踏み入れると、
皆が決まって煙草に手を出した。
しかし。
彼らも別に煙草が美味しいと
思っているわけではない。
ただ格好をつけたり周囲に合わせたりと
思春期特有の理由があるのだ。
それでも小学生で煙草に手を出すのは
早すぎるし異様だった。
大吾と洋はともかく、
翔太に関しては意外だった。
さらに。
茜も仲間ということは
彼女も煙草を吸っているのだろうか。
どちらにせよ。
共犯関係で結ばれた人間関係は
いずれ崩壊する。
そして。
翔太が煙草の
洋がライターの
保管係という点に俺は大吾の狡さを感じた。




