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Appleも恋したデザインの神様。Dieter Rams が遺した「時を超越する美」の正体

#人類を変えた足跡シリーズ物語 第七十三回

1932年5月20日

「白雪姫の棺」からiPodの遺伝子へ。BRAUNの黄金期を築いた Dieter Rams の軌跡

『Less, but better(より少なく、しかもより良く)』――。この簡潔にして深遠な一節は、数多のデザイン書の表紙を飾り、私たちの心に刻まれてきた。無駄を極限まで削ぎ落とし、されど細部に宿る洗練。それは現代のクリエイターたちにとっての聖典であり、世界を席巻する巨大企業がこぞって掲げる美学の源流でもある。そして、そのすべての中心にいるのが、Appleの元最高デザイン責任者である Jonathan Ive が心から崇拝した伝説のデザイナー、Dieter Rams である。


1932年5月20日、Dieter Rams は「温泉の街」として知られるドイツの Wiesbaden に生を受けた。幼少期からデザインに対する並外れた情熱と天賦の才を見せていた彼は、地元の学校で建築を学び、瞬く間にその才能を開花させていく。


1953年に学校を卒業した Rams は建築事務所に身を置くが、型に嵌まった退屈な日々に、やがて心が離れていった。彼はほどなくしてその職を辞し、当時はまだ世に広く知られていなかった BRAUNブラウン社へと、一人のデザイナーとして足を踏み入れる。この決断が、Rams 自身の運命のみならず、BRAUN の、ひいては世界の工業デザインの歴史を根底から塗り替えることになるとは、まだ誰も知る由がなかった。


1956年、Rams は一台の音響システムを世に送り出す。後に Hans Gugelot との共作として歴史に刻まれる「SK 4」は、息をのむほどにシンプルで、あまりにも美しかった。純白の筐体に、すべてを見通せるかのような透明なアクリル製のカバー。その下には、精緻を極めた操作部が静かに佇んでいる。カバーを押し上げ、音楽が空間に流れ出すその一連の流麗な体験は、作り手が込めた美の気配が、そのまま使い手へと手渡されるかのようであった。


この Dieter Rams の傑作は BRAUN の名を一躍世界に知らしめ、人々はその姿を畏敬を込めて「白雪姫の棺(Schneewittchensarg)」と呼んだ。これを機に Rams は頭角を現し、BRAUN のデザインの核として、次々と世界を揺るがす名作を生み出していく。すべての角を削ぎ落とし、美しい円の調和だけで構成された電卓「ET66」。完璧な一体感を持ち、精密に並んだグリッドとダイヤルが調和する、いわば“iPodの先祖”とも言えるポケットラジオ「T3」。そして、無限の組み合わせによって空間に秩序をもたらす壁面収納システム「Vitsœ 606」……

挿絵(By みてみん)

数十年にわたり、Dieter Rams は工業デザインのあらゆる領域で無数のクラシックを築き上げ、BRAUN をデザインの頂点へと押し上げた。半世紀が流れた今、世界は激変し、企業の買収や理念の変遷とともに、かつての黄金時代は遠い過去の光景となったかもしれない。しかし、Dieter Rams が遺した作品たちは、時代という名の荒波を軽々と飛び越え、今なお後世のクリエイターにインスピレーションを与え続け、世界中の美術館に永久に収蔵されている。それらは時を超越した「美」そのものとして、私たちの世界に永遠に息づいている。

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