決断
警告音が鳴り響く廊下を、メグミとカナメが走る。
職員たちは原因を調べようとしているが、誰も状況を把握できていない。
「隊長、これは一体......。」
「分からない。だが、タクロウのところへ行けば何か分かるはずだ。」
走り続けるメグミの端末に、通知が響く。
「この忙しい時に。」
画面を見ると、ダイチからの通話連絡だった。
走りながら、通話に出る。
「何だ?」
「隊長!街の監視映像に異常が!現場対応中のヨシキたちからも
監視通知の件で連絡が入っています!!」
「わかっている。」
「隊長は今どちらに?」
「その原因の元に向かっている。」
「さすが!私も向かいますか?」
「いらん。ダイチは現場指揮を任せる。」
「承知です!・・・・・・こ、これは・・・・・。」
「何だ?」
「・・・・・・画面に、何か・・・・・・・!!」
思わず足を止めるメグミ。
「おい、ダイチ?」
通話は既に切れていた。
「隊長?」
「通話が切れた。」
「え?」
「途中で、声が途切れた。」
「これも、ALICEが原因でしょうか。」
「わからん。タクロウの元に急ごう。」
「はい。」
カナメと二人、走り出した。
「ありす、一体、何をしようとしている?」
タクロウは端末を操作していた。
しかし、いくら操作しても、画面が変わることはなかった。
「タクロウ!」
メグミの声に、タクロウが振り返る。
「......隊長。来たんですか。」
いつもの気の抜けた口調。しかし、その表情には明らかな緊張が浮かんでいる。
メグミは画面を見つめる。
『最終判断プロセス』
「これは何だ?何をした!」
「......私にも分かりません。こんな処理が組み込まれていたなんて」
「カナメ。何か聞いていないか?」
「私も、わかりません。」
舌打ちをし、画面を見る。
二人が嘘をついているようには見えない。
一体、ALICEはどうなったというのか。
タクロウが停止操作を試みても、システムは受け付けない。
『SYSTEM COREへのアクセスは禁止されています』
「......またか。」
タクロウが呟く。
メグミは、その言葉に反応する。
「タクロウ。お前は以前から、ALICEを止めようとしていたな?」
「......。」
タクロウは答えず、端末を操作している。
「ありすを眠らせるために。」
「......はい。」
「やはり。」
「......いつから気が付いていたんですか?」
「真意に気が付いたのは、市長と話終えた先ほどだ。」
「そうですか。」
「ありすのためか?」
「......隊長。先ほどのお話、覚えておられますか?」
「話......?」
「我々『執行部』や『更生』されたメモリの話です。」
「ありすの脳が使われている......。」
「そうです。つまり、ありすが全ての記憶を受け取っている。」
メグミは言葉を失った。
執行部に選ばれた人々の記憶。
更生された人々の記憶。
それらすべて、ありすの中に蓄積されているのだとしたら。
「......それは。」
「私は、もう解放したかったんですよ。」
端末を操作する手を止めず、タクロウは画面を見続けている。
その言葉の意味を理解したと同時に、警報が鳴りやみ画面が切り替わった。
『最終判断対象を確定しました』
メグミたちは画面を見つめる。
『条例都市管理システム』
「......この街そのものを、判断するというのか?」
メグミは画面を見つめた。
人々を守るため作られた街。
その街を守るため、ありすは自らの命を差し出した。
そして今、ALICEは――
その街そのものを判断しようとしている。
――一体、何を。
やがて、画面に新たな表示が現れた時、三人に緊張が走った。
『最終判断まで、残り――』
鳴りやんだ警告音。
端末の画面を見つめ、市長は静かに呟いた。
「ありす、君はそう判断するんだな。」
何かを悟ったように、市長は椅子から立ち上がった。
そして、窓の向こうに広がる街を見つめる。
自分の理想を叶えた街だった。
理不尽な思いをすることなく、誰もが安心して暮らせる街。
ありすの協力がなければ、実現することはできなかった。
しばらく街を見つめた後、市長は小さく呟いた。
「私も、潮時か。」




