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条例都市  作者: こころ
47/55

カナメ

激しい頭痛と共に、映像が頭の中に映し出された。

そこにいた、見知らぬ女性。

自分を見つめる、優しい目。

そして――

「あなたは、私が守るから。」

あの言葉。

「......私は、彼女を知っている?」

「隊長......。」

タクロウが差し出す手を、とっさに払いのけた。

「......今のは?」

「タクロウ、私に何かしたのか?」

「......憶測ですが。」

タクロウは静かに答えた。

「ALICEの記憶メモリに近づきすぎて、反応したのかと......。」

「なぜ、ALICEの記憶メモリに?」

「それは......。」

タクロウは言葉を濁し、視線を逸らした。

「......タクロウさん。」

タクロウの背後から、静かな声と共に、カナメの姿が現れた。

「もう、隠し通すことはできません。」

「カナメ?なぜ、お前もここに?」

「隊長のことを、ずっと見守ってきましたから。」

カナメはメグミに視線を向ける。

「タクロウさん、もう隠せないです。」

そう言うと、メグミに向かって話し始めた。


「お察しの通り、隊長は『高野恵美』さんの複製体です。」

「そして、生みの母であるのが、『杉野ありす』さんです。」

「生みの母?」

「ええ。そうです。」

「『高野恵美』さんの遺伝子を持つ複製体を生み出すために、

最も適合した人物。それが『杉野ありす』さんだったのです。」

「何を、言っている?」

「ありすは、このシステムの創始者だろう。なぜそれが、複製体の母体に?」

「隊長の疑問もごもっともです。」

タクロウが割って入ってきた。

「ありすは、このシステムの構築を行いながら、

もう一つのプロジェクトを進めていたんですよ。」

「それが、『複製体育成計画』です。」

「複製体......。」

「実験は、失敗続きでした。」

カナメが続ける。

「ある時、複製体のコアとなる部分を取り出すとき、

ありすさんの血液が混じってしまいます。」

「その時に、細胞が今までにない反応を示したそうです。」

「それを見たありすさんは、自分が遺伝子との適合率が高いと考え、

自分の体内で育てれば、と考えに至ったそうです。」

「そんなことを......。」

「結果、七回目の実験で出産に成功したのです。」

驚愕の事実を聞き、メグミは再び頭を押さえた。

「カナメ。お前はなぜ、その話を?」

問いかけるメグミに、カナメは答える。


「私の母が、この計画の管理担当の一人だったからです。」

「母?」

「ええ。母はありすさんと一つの研究を進めていました。」

「研究......複製体育成計画か。」

「ありすさんは出産後、自分に何かあった時のために、

いくつかの記録を母に託しました。」

「記録?」

「はい。隊長の出生記録と、頼み事を一つ。

私は母の傍で、その話や記録を見て育ちました。」

「では、その母上に話を聞かせてもらえれば......。」

「それは無理です。」

「なぜ?」

メグミの問いかけに、カナメの表情が曇る。

「カナメの母は、既に他界してます。」

答えたのは、タクロウだった。

「……そう。」

メグミは、俯いた。

新たに知った事実。


自分が複製体であること。

そして、自分を生んだのが杉野ありすであること。

そのありすが、自分の出生記録を誰かに託していたこと。

しかし――

その人物も、もういない。

「……母上は、いつ亡くなった?」

「隊長……。」

「答えて。」

カナメは少し黙ったあと、静かに答えた。

「私が執行部に入る、少し前です。」

「そう……。」

メグミは再び、手を額に当てた。

すると、また頭の中に映像が浮かぶ。

白い部屋。

ベッドに横たわる女性。

その隣に立つ、ありす。

そして――

小さな赤ん坊を抱くありすの姿。


「……ありす。」

思わず名前が口からこぼれる。

「隊長?」

メグミは顔を上げた。

「カナメ。」

「はい。」

「母上が預かったという……もう一つの頼み事。」

カナメの表情が変わった。

「それは……何だった?」

しばらく沈黙が続く。

やがてカナメは、ゆっくりと口を開いた。

「……私も、内容までは知りません。」

「知らない?」

「『危険視予測演算処理システム』の最終工程ということくらいです。」

「最終工程?他、誰が知っている?」

カナメは答えない。

その様子を見て、メグミは気づいた。

「……タクロウ。」

「……。」

「お前は知っているのか?」

タクロウは目を伏せた。



重い沈黙が部屋を包む。

カナメは、しばらく俯いたままだった。

やがて、ゆっくりと顔を上げる。

「......一つだけ。」

「何?」

「ありすさんが、母に最期に託した言葉です。」

メグミは息を呑む。

カナメは、少しだけ目を伏せる。

「『この子が、幸せに生きることを』」

その言葉を聞いた瞬間。

メグミの頭の中に、再びあの女性の姿が浮かんだ。

優しい目。

自分を抱く腕。

そして――

「あなたは、私が守るから。」



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