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条例都市  作者: こころ
42/45

佐野拓樹

ひと際大きな通路の先。

重厚な扉の前に、メグミは立っていた。

この扉の向こうに、全てを知る男がいる。

この街の市長。

そして――自分にとって、父親のような大きな存在。

メグミは一度、深く息を吐いた。


コンコン。

「......どうぞ。」

中から聞こえる、久しぶりの声。

「失礼します。」

一言告げ、部屋の扉を開く。

帽子を外し、部屋へ入る。

奥にある大きな窓を背に、一つの机が置かれていた。

その机に座る、小柄な男。

見た目はかなりの年配だ。

しかし、その姿からは年齢を感じさせない威圧感があった。

男は入ってきたメグミを見つめ、目を細める。


「久しぶりだな。メグミ。」

「市長。今回、お聞きしたいことがあり、参上しました。」

「聞きたいこと?」

「はい。」

メグミは市長を真っ直ぐ見つめる。

「杉野ありすについてです。」

「......ありす?」

市長の表情が、わずかに変わった。

その変化を、メグミは見逃さなかった。

「そして、佐野拓樹についても。」

「......。」

市長は何も答えない。

「タクロウのことです。」

その名前を口にした瞬間、市長は静かに目を伏せた。

「君は......そこまで知っているのか。」

「はい。」

「そうか......。」

市長は小さく息を吐く。

「それで?」

「二人は、どういう関係だったんですか?」

しばらく、沈黙が続いた。

やがて市長が、静かに口を開く。


「......恋人だった。」

「......。」

メグミの目が見開かれる。

タクロウ。

自分が師と仰ぐ男。

その男が――。

ありすの恋人だった。

「では......。」

メグミは、言葉を選ぶように口を開いた。

「なぜ、タクロウは今になってALICEへ干渉しているんですか?」

「それは、本人に聞くべきだろう。」

「市長は知らないんですか?」

「......知っている。いや......正確には、心当たりがある。」

「なら、教えてください。」

メグミは一歩、机へ近づく。

「その目的は?」

市長は答えない。

ただ、窓の外へ視線を向ける。

「......まだ、その時ではない。」

「その時って......いつですか?」

「君が、自分自身のことを知る時だ。」

「......私自身?」

市長は、それ以上何も語らなかった。


「なぜ、私自身なのでしょう。」

「......。」

市長は答えない。

「市長!!」

思わず声を荒らげるメグミ。

部屋に、その声が響いた。

市長はしばらく黙ったまま、メグミを見つめていた。

やがて、小さく息を吐く。

「......すまん。」

そして、静かに口を開いた。

「それが......彼女との約束だからだ。」

「......約束?」

メグミの表情が変わる。

「彼女とは......杉野ありすですか?」

「......。」

市長は答えない。

その沈黙が、何よりの答えだった。

「......私から言えるのは、それだけだ。」


それ以上、何を聞いても無駄なのだろう。

メグミはそう悟った。

「......分かりました。」

小さく頭を下げる。

「失礼します。」

メグミが部屋を出ていく。

重厚な扉が閉じる。

静寂が戻った部屋で、市長はしばらく扉を見つめていた。

やがて、ゆっくりと机の引き出しへ手を伸ばす。

引き出しを開けるとそこには、一枚の古い写真が入っていた。

若き日のありす。

そして、その隣に立つ一人の青年。

佐野拓樹。

市長は写真を手に取る。

写真の裏には、薄れかけた文字で二人の名前が記されていた。

『ありす 拓樹』

しばらく写真を見つめたあと、市長は静かにそれを伏せる。

「......拓樹。」

小さく、その名を呟く。

そして――

「......なぜ、今になって。」

誰もいない部屋に、その言葉だけが響いた。


メグミが知った、タクロウとありすの関係。

そして、市長が口にした「約束」。

メグミ自身のことを知る時とは、一体どういう意味なのか。

ありすは、市長に何を託したのか。

そして、タクロウはなぜ今になって動き始めたのか。

いくつもの疑問を抱えたまま、メグミは一人、廊下を歩いていた。

そして、誰に聞かせるでもなく、小さく呟く。

「......ありす。あなたは......。」


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