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条例都市  作者: こころ
41/45

目的

メグミが立ち去ったあとも、タクロウはしばらく天井を見つめていた。

「……気が付き始めたかな。」

小さく呟き、頭を掻く。

そして、ゆっくりと立ち上がると、部屋を後にした。


長い廊下を歩き、一つの扉の前で足を止める。

周囲を確認してから、扉を開ける。

部屋の中には、古びた端末が一台だけ置かれていた。

タクロウは端末の前に座り、電源を入れる。

しばらくして、画面に一つの表示が現れた。


SYSTEM CORE

ALICE:正常


タクロウは、黙って画面を見つめる。

「……もう少し。」

キーボードに手を置き、いくつかの操作を行う。

そして――


ERROR

SYSTEM COREへのアクセスは禁止されています


「……やはり、一人では無理か。」

タクロウは小さく息を吐いた。

ポケットから、一枚のカードを取り出す。

古びたカード。

そこには、薄れかけた文字で一つの名前が記されていた。


『佐野 拓樹』


しばらくその名前を見つめたあと、

タクロウは端末の脇に置かれていた古いファイルへ手を伸ばす。

表紙には、こう記されている。

『開発責任者 杉野ありす』

その下には――

『システム構築協力 佐野拓樹』

タクロウは、そっとファイルに手を触れた。

「……ありす。」

静かな部屋に、その名前だけが響く。

「もう、十分だよ。」

目を伏せる。

「君は……十分すぎるほど頑張った。」

再び、ALICEの画面へ視線を戻す。


SYSTEM CORE

ALICE:維持


その表示を見つめるタクロウの表情が、わずかに曇る。

「……これ以上、苦しませるつもりはない。」

そして――

「俺が終わらせる。」


任務を終えたメグミが、自室へ戻ってきた。

椅子に腰を下ろし、深く息を吐く。

「……あの娘ができて一年。」

倉庫で見つけた、ありすの記録。


あの一文が、何度も頭の中をよぎる。

『あの娘』

おそらく、あの写真に写っていた赤子のことだ。


しかし――

メグミは、そこからさらに調べていた。

ありすに子供がいたという記録。

その出生記録。

それらを調べても、該当するものは何一つ見つからなかった。

まるで――

最初から、その子供など存在しなかったかのように。

「……何を隠している?」

メグミはあの部屋で見つけた写真を思い出す。

写真の中で、静かに眠る赤子。

その子を抱いている女性。


杉野ありす。


そして、ありすの記録に残された『あの娘』という言葉。

「市長は……何を知っている?」

そして、もう一人。

「……タクロウ。」

ありすを知っている男。

自分に体術を教えてくれた師。

そして今、ALICEへ何らかの干渉を続けている。

「ありすは……何を残したんだ?」

メグミは目を瞑る。

その胸の中で、一つの疑問が生まれていた。


――あの写真に写っている子供は、誰なのか。

今はどこにいるのか。

「この子を見つけるのが、鍵か......。」

呟くと、椅子から立ち上がる。

窓辺に立ち、外を見ながら考えこむ。


メグミは窓辺に立ったまま、外の街を見つめていた。

整然と並ぶ建物。

規則正しく行き交う人々。

そして、そのすべてを監視する無数のカメラ。

この街は、ALICEによって管理されている。

だからこそ――。

「……存在しないはずがない。」

メグミは呟いた。

写真に写っていた、あの赤子。

ありすが残した記録には、確かに『あの娘』と書かれていた。

それなのに、出生記録は存在しない。

「だったら……。」

メグミは机の上に置かれた端末へ視線を向ける。

「誰かが、記録を消した?」

再び椅子へ戻る。

端末を起動し、ありすに関係する記録を一つずつ呼び出していく。


研究記録。

開発記録。

医療記録。

そして――関係者名簿。

その中の、一人の名前。


『佐野 拓樹』


「……。」

メグミの指が止まる。

その人物について記された資料の一部が、意図的に削除されている。

『閲覧権限がありません』

「……佐野拓樹。」

小さく、その名を口にする。


それだけだった。

しかし――

その名前が、ありすの記録の中に存在していた。

そして――。

自分が師と仰ぐ男。

タクロウ。

「……タクロウ。」

メグミは再び、その名を呟いた。

窓の外を見つめる。

「あなたは……一体?」


別の場所では――。

タクロウが、一枚の古びたカードを握りしめていた。

そこに記されている名前は。

『佐野 拓樹』

そして彼の目の前では、ALICEが静かに稼働し続けていた。


SYSTEM CORE

ALICE:維持


「……もう少しだ。」

タクロウはカードをポケットへ戻す。

「待っててくれ、ありす。」

静かな部屋に、その声だけが響いた。

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