別人のように
スーパーの駐車場。
ひと組の夫婦が買い物をするため、
車から降りて店へ向かう。
先週末は散々な目に遭った。
子供が押したカートが妻にぶつかり、
怪我を負わせたにもかかわらず、
母親は謝罪するどころか、
そのまま立ち去ってしまった。
幸い大事には至らなかったものの、
二度と関わりたくない――男はそう思っていた。
「今夜は何にしましょうかね。」
「今日は麺が食べたい気分だな。」
そんな他愛ない会話を交わしながら店へ向かう二人。
その時、男の視界に見覚えのある姿が映った。
「あの人は……。」
忘れるはずがない。
妻にカートをぶつけ、
そのまま逃げていった親子だった。
あの日の怒りが胸の奥から込み上げてくる。
妻はまだ気付いていないようだ。
余計な騒ぎは避けたい。
男は何事もないように歩き続けることにした。
しかし、その女性はこちらに気付き、
真っすぐ歩み寄ってくる。
「……。」
男は反射的に妻をかばうように前へ出た。
また何か言われるのか。
そんな緊張が走る。
異変を察した妻も女性に気付き、
不安そうに男の背へ身を寄せた。
女性は二人の前で立ち止まると、
深々と頭を下げた。
「あの時は、大変失礼いたしました。」
突然の謝罪に、男は言葉を失う。
「あの後、自分の至らなさを深く反省いたしました。
本当に申し訳ありませんでした。」
先日の態度が嘘だったかのような変わりように、
男は困惑するばかりだった。
「いえ……私は大丈夫ですので。」
妻が戸惑いながら答えると、
「寛大なお心に、心より感謝申し上げます。」
女性は再び深く頭を下げた。
「今後は子供たちへの躾も、
これまで以上に徹底してまいります。」
そしてもう一度頭を下げる。
「重ねてお詫び申し上げます。申し訳ありません。
このあと急ぎの用事がございますので、
これで失礼いたします。」
そう言い残すと、女性は静かに立ち去っていった。
あまりにも別人のような変わりように、
二人はしばらくその場に立ち尽くしていた。
「あの時とは、まるで別人だな……。」
「ええ……私も驚きました。」
男は去っていく女性の後ろ姿を見つめながら、
小さくつぶやく。
「いったい……何があったんだ?」
女性は最後まで一度も振り返ることなく、
人混みの中へ消えていった。
それ以来、彼女を知る人々は口を揃えてこう語る。
「まるで、別人のように変わってしまった」と。




