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条例都市  作者: こころ
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失われた年月

気が付くと男は自宅の前に立っていた。

いつものようにドライブへ出掛けたはずだった。

それが条例違反者として連行され、長い年月を過ごすことになるとは思ってもいなかった。

「久しぶりの我が家か……」

会社は解雇されているだろう。

友人との繋がりも失われているかもしれない。

もしかすると、この家ですら既に他人のものになっているのではないか。

そんな不安を抱えながら鍵を差し込む。

カチャリ。

鍵は問題なく回った。

恐る恐る扉を開く。


見慣れたリビング。

壁に掛けられた時計。

テーブルの上に置かれた読みかけの雑誌。

何一つ変わっていない。

「帰ってこられたんだ……」

男は安堵し、そのままベッドへ倒れ込んだ。

その時、携帯電話が鳴った。

画面には友人の名前が表示されている。

男は目を見開いた。

恐る恐る電話に出ると懐かしい声が聞こえてくる。

「お、起きてたな。よかった。」

「おお、久しぶりだな。」

「久しぶり?おかしなこというな。昨日も電話で話たろ?」

「え?」

「なんだ寝ぼけてるのか。それで明日大丈夫か?」

どことなく会話がズレている感覚がある。

「明日ー?」

男としては彼と話すのは数年ぶりだ。

繋がりが切れずにつながっていたことはうれしいことだった。

しかし、彼は「明日大丈夫か?」と聞いてきた。

数年前になにか長期で約束なんてしていただろうか。

男は混乱する。

「明日ってー。」

「おいおい、寝ぼけてるな。」

笑い声と共に

「明日、合コンだろ?」

と言われた。

「?」

「おいおい、忘れたのか。」

「先月飲んだ時、話したろ?」


先月。

その言葉を聞いた瞬間、男の背筋が凍った。

先月、自分は――

そこまで考えて、思考が止まる。

施設の白い廊下。

無機質な部屋。

誰かの声。

確かに覚えている。

だが、思い出そうとすると霧がかかったように輪郭が崩れていく。

「あれ……?」

自分は何をしていた。

どこにいた。

何年過ごした。

そのはずなのに。

思い出せない。

友人と電話を切ったあと、ふと壁にかけてあるカレンダーに目をやる。

日付は3年前。ドライブで出かけたその日のままだ。

テーブルの上には、出かける前に購入したコンビニのレシート。


「俺は、どこにいただんだ。」


確かに自分は長い間家を空けていた、と思う。

自分の感覚では三年ほど。

あの場所にいたはずだ。

でもー。

あの場所って、どこだ?

思い出そうとした瞬間、鋭い頭痛走る。

思考が途切れた。

『更生処理完了を確認』

頭の奥で、どこか懐かしく、それでいて冷たい声が響いた気がした。

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