迷惑親子
「はい?」
「ええ、申し訳ない。
車から出てきて大人しくついてきていただけると、助かるんですけどね。」
頭をボリボリ掻きながら、続けた。
「素直についてきてもらえません?」
女性は車から降りることなく、窓越しに伝えた。
「申し訳ないけど。忙しいので退いてもらっていいですか?」
面倒くさそうに男は伝える。
「素直に従って頂けると、面倒なくすむんですがね」
「従うも何も。何もしてないのに、何なの?」
少し怒り気味に反論した女性に、呆れた表情で男は見つめた。
「いやいや、参ったね。先刻、店内で騒ぎの後に。
こう返されるとは。どう思う?マユミちゃん。」
振り向く男の背後には、1人の女性が立っていた。
「女性は強く、図太いんですよー。タクロウさん。」
マユミと呼ばれた女性が、笑いながら答えた。
「でもー、これはないですねー。」
ふふふ、と笑っている。
「これは、いささか参ったね。」
「たいちょー、呼びますかー?」
変わらず笑顔で話すマユミに少し引き攣りながらも、
「呼ばんでいいでしょう。我々で何とかするしかないじゃない?」
車内の女性に向き直り、
「なので、どうか出てきてもらえないですかね。」
「あなたのためにも。」
やる気のない目の眼光が少し、光ったような気がした。
女性は車内で固まっていた。
車の周りは黒い集団に囲まれており、走り出す事は困難である。
このままでは、自分はおろか子供に何かあるかもしれない。
意を決して、車から降りた。
「あの!言う通り出ましたけど、私何もしてないですよ。
店内の事はきちんと謝りましたし、逆ギレしたのは向こうです。
それに、子供のやった事じゃないですか!
それをこんな騒ぎにしますか!?」
自分に非がない事を証明すべく、女性は語る。
「私達はワザとやったわけでもない。
たまたま居合わせた方にカートがぶつかってしまっただけ。
子供のやる事だし、こんな騒ぎにする方がどうかしている。」
言い分を聞いていた男が深くため息をつく。
後の女性は相変わらず笑顔のままだ。
「タクロウさん、何を言っているのか私には理解できませんー。」
顔は笑っているが、言葉が怒っているように聞こえた。
「いやいや、これは困ったねぇ。」
タクロウが頭を掻きながら、困惑しているようだ。
「あのね、一つ言わせてもらうとね。」
一息ついて
「公共責任条例第十二条」
「公共の場において、自己または監督下の者が第三者へ危害を与えた場合、
加害者は速やかに被害確認、謝罪及び救護を行わないといけない。」
「さて、あなたは何かしましたかね。」
「子供連れての買い物がどんなに大変かも知らないで、勝手言わないでよ!」
タクロウの言われに、強く反論する女性に
「それは大変だと、私も思いますよ。」
「ただね、それとこれとは話が違う。」
それまでの表情から一変し、真顔になると
「悪い事をしたら謝る。これは当たり前のことじゃないかねぇ。」
タクロウに言われ、女性は言葉に詰まっていると、
「子供がやった事、とあなたは仰るが躾けること、責任をとることは
保護者としての責務だと思いますがね。」
「他人のあなたに、何がわかるの!」
女性の言葉に
「わかりやしませんよ、他人だからね。」
冷たくタクロウは返した。
「それでも、あたなは保護者として果たすべき責任を放棄したんですよ。」
なおも反論しようとした女性とタクロウの間に
マユミが割って入った。
「ここで問答する時間は無駄なんですー。」
笑顔のまま、怒りに感じた言葉だった。
「被害者は痛がっていましたよねー。」
「あたなはその場を離れましたー。」
「それってー」
大きな瞳が女性を見つめる。
「責任放棄、って言うんですよー。」
「条例違反ですねー。」
「公共責任条例第十二条違反。」
「被害確認義務違反。」
「謝罪義務違反。」
「現場離脱。」
「以上により、[執行部]はあなたを一時拘束します。」
「まぁ、そういう事なんで。行きましょうか。」
タクロウが手を挙げて合図を送ると、周りのが動き出した。
何やら女性は喚いていたが、そのまま連行されていった。
「子供は親を選べんからねぇ。」
連行されていく女性を尻目に、空を見上げポツリと呟いた。ポツリと呟いた。
連行されていく女性を見ながら、取り残された子供たちをどうしようか、と
試案していたタクロウだったが、マユミが既に動いていた後だった。
普段の奇抜な言動からは考えられないくらい、子供への対応は完璧だった。
「どうしたんですー?」
「いや、さすがというべきか。助かったよ。」
「当然ですー。」
「私ー。小さい子大好きなのでー。」
マユミの発言に何か引っかかるものがあったタクロウは
ただ苦笑いをすることしかできなかった。




