迷惑停車
「やはり大丈夫だったんだ。」
女性は数日前、子供を迎えに行った時の事を
思い出していた。
あの時は、声をかけられてすぐに動かした。
法律上も問題はないはずだ。
出勤途中の女性は、あの日以来、
何も変わらぬ普段の生活に安堵していた。
「まぁ、私ばかりではないしね。」
あのビル前で迎えに来ていたのは、
私の他4台の車があった。
今回は注意されただけ。
これからも気をつければいい。
子供の塾の送迎のためとはいえ、
多少の事柄など目を瞑ってもらいたいものだ。
そんな思いに耽っていた。
数日過ぎ、そんな事も忘れかけていた時、
それは起きた。
出社前、コンビニへ立ち寄った時、
見たくない人物が目の前に現れた。
黒い軍服に帽子、白い手袋。
【執行部】だ。
自分より小柄な少女。
帽子を少し上げ見つめる切目、
そして黒く長い髪。
女性はその場を知らぬふりをして、
すり抜け自分の車に戻ろうとした。
しかし、それを遮られた。
「どちらへ?」
遮ってきたのは、目の前の少女よりは頭一つ高い、
茶色で短い髪の少女だった。
「何かようかしら?」
自分より若いと思った女性は、強く言い返す。
「これから会社なのだけれど?
そこ、どいてくださる?」
笑顔で聞いている目の前の女性は、
変わる事なく、さらに言葉を続けた。
「ええ、大事な用です。
私達、【執行部】について来てもらいます。」
笑顔ではあるが、芯の通ったしっかりとした口調だ。
「【執行部】さんにお世話になるような事は
ないと思いますけど?」
食い下がる女性。
「そうですかぁ?」
目の前の女性は、首を傾けながら笑った。
その言動に少し苛立ちを感じた。
「ホントに、何もわかりません?」
問いかけに、女性は
「ないわ。ほんと、遅刻してしまうので。
退いてくださる?」
強めに言い返した。
押し問答していては本当に遅刻してしまう。
しかし、自分の前の女性はそこを動こうとせず、
相変わらず笑顔のままで、目の前に立っている。
脇を通り抜けて車のドアを開けようとした時、
小柄な方の少女がスッと歩み寄ってきた。
「全くもって遺憾だな。」
「隊長ー、どうしましょう?」
「カナメの言い方が悪い。
そんな聞き方は、違反者を逃すだけだ。」
隊長と呼ばれた先程の少女は、
自分の目の前の女性に軽く叱咤する。
「違反者?私が?何の?」
違反者と呼ばれたことに、怒りを見せた女性は、
その少女へ詰め寄る。
「記憶も無いと?ますますもって、遺憾だ。」
少女は鋭い眼光で女性を見上げると、続けた。
「貴方は先日の罪すらも、忘れてしまったらしい。」
ため息まじりにつづける。
「どちらにせよ、貴方に拒否権はない。」
冷たい言葉が女性にのしかかる。




