迷惑停車
小雨降るある日の夜。
普段は人通りも少ないこの街ではあるが、駅前の19時を回るこの時間帯は
交通量も増え、家路を急ぐ人が増えてくる。
そこへ一台の車が、駅前のビルの前でハザードを点けて停車した。
その後ろにも二台、同じようにハザードを点けた車が並んでいる。
車内には運転席に1人。
母親らしき女性がスマートフォンを眺めていた。
ビルの窓には、[合格率○○%!]、[○○高校合格]、など
受験生へ向けての言葉がいくつか貼り出されていた。
停車中の車はそこに通う子供達を迎えにきている親だった。
ビルの前には駐停車禁止の標識があり、送迎車はビル近くにある専用の駐車場を
利用するようにと通達はされているものの、この日も車は何台も並んでいた。
そのうち、前の2台は子供が出てきたようで車へ乗り込むと、
そこから立ち去っていった。
「まだかしら。」
運転席からビルの入り口へ目をやりながら、女性は呟く。
前が空いたので車を動かし、またビルへ目をやった。
子供の姿はまだ見えない。
さらに、送迎の車が来たようで後に停車している。
パーっパッパ!と、たまにクラクションを鳴らして脇をすり抜ける車がいるが、
そこに停車している時はそんなことには気にしない。
「多少、はみ出せば走れるのに、クラクション鳴らさなくても。」
ここで迎えをする者達は全員、そう思っているのだろう。
だから、標識があっても、塾からの通達があっても、そこに停める。
この街でなければ、それは日常的に起こる普通の事である。
その日はその女性含め5台の車が停車していた。
駅前なので、交通量は多い。
「まだかしら。」
そう呟いてビルの方へ視線を向けた時、自分の車の助手席側、
車の外に誰かが立っているのが視界に入った。
運転席からは顔まで見えない。
外は暗いが、通過する車のライトに照らされ、何となくではあるが、
軍服のような格好をしているようだというのがわかった。
その人物の姿からこの街の【執行部】だと気付いた。
その時運転席の窓を、コツコツと叩かれた。
「こんばんは。申し訳ないですが、よろしいでしょうか?」
窓が閉まっていたが、やんわりとした口調で問いかけられたが、
女性はこの場をどうするか思案していた。後続の車も、窓を開けようともしない。
意を決した女性は、
「すいません、今出ます。」
と、車内から言うが早いかシフトレバーを操作して
急ぎその場から走り出した。
幸いにも自分の前には車がない。
脇を走り抜ける車もいなかったのもあり、そのまま走り去る。
後ろの車も同じように走り出したようだ。
交差点を曲がり、ミラーで追って来ないのを確認すると
すぐに子供へメールを入れた。
「ビル前は停められなかったから、○○そばの駐車場まで来て。」
小雨が降る影響なのだろうか、自分の取った行動は問題ないと思いつつも
心臓が激しく脈を打ち、身体は小さく震えていた。
「大丈夫。すぐに動いたから何もない」
程なくして子供と合流したその女性は、
何事も無かったようにそのまま帰宅していった。




