第75話:お支払いは「最後のなまえ」
平原の終わりには、すべてを真っ白に塗りつぶす「無の門」がそびえ立っていました。
『通行料:汝らが今、その掌に刻んだ「唯一の絆」という名の記憶を差し出せ』
「あ、これ。またお供えの時間だねっ」
ぽこは、迷うことなく女の子が名前を書いた掌を、門のセンサーに押し当てました。
「……ねえ、ぽこ。いいの?」
くうが、門の前で立ち止まりました。
「あの女の子が、とっても大事そうに教えてくれたこと……消えちゃうんだよ? 手のひらに書いたとき、なんだか胸がポカポカしたのに。忘れちゃうのは、なんだか……もったいないよぉ」
くうの指先が、名残惜しそうに自分の掌をなぞりました。
「いいんだよ、くう。だって、門が『お腹が空いて動けないよぉ』って、寂しそうに光ってるんだもん。僕たちの『きれい』をあげれば、門はあっち側へ通してくれるよ。それにね、くう。名前なんてなくても、僕たちはこうして一緒にいるじゃない。それで十分だよ」
ぽこが目を閉じると、さっき獲得したばかりの「女の子との約束」も、彼女の「本当の名前」も、すべて青い火花になって門に吸い込まれていきました。
「……あ。いまね、頭の中が『ふわっ』てしたよぉ!」
門が光の中に溶けていきます。二人は、女の子が誰だったのか、掌になんと書いてあったのか、一瞬で忘れ去りました。
「ねえ、くう。なんでキミ、僕の隣にいるんだっけ?」
「えーっと……わかんない! でも、なんだか、とっても『大好き』な気がするよぉ、ぽこ!」




