前へ目次 次へ PR 69/78 第71話:なんでもない(9) 「ねえ、ぽこ」 「なに? くう」 「ふふふ。……なんでもない」 二人は、水浸しになった駅のホームで、大きな水たまりを鏡にして自分たちの顔を覗き込んでいました。 「なんでもない、ってなあに」 「あのね、水たまりの中のぽこが、カエルさんみたいなお顔をしたから」 「ふふふ。なあんだ」 空には巨大な鉄の歯車が止まったまま、夕陽を浴びて赤く錆びています。 世界がどれほど静まり返っていても、二人の笑い声だけが、途切れることのないリズムを刻んでいました。