64/78
第66話:わすれものの、におい
「ねえ、ぽこ。さっきのヘビさんのなかの『おべんとう』、どんな匂いだったっけ?」
駅の出口を抜けながら、くうがふと立ち止まりました。
「えーっとね、くう。……とっても、お日様の匂いがしたよ」
「そうだったかなぁ。……なんだか、お花の匂いだったような気もするし、もうわかんなくなっちゃった」
二人の前には門も装置もありません。けれど、一歩進むごとに、誇らしかった記憶の端っこが風にさらわれ、透明になって消えていきます。
「……わかんなくても、いいよね。いま、お腹がポカポカしてるのは本当だもん」
「うん。ぽこがそう言うなら、そうだねぇ」
二人は、自分たちの記憶が「お供え」しなくてもこぼれ落ちていくことに、ちっとも気づいていませんでした。




