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異世界エンジニア  作者: 閃輪 零
『第3幕:Grand Patch ――世界再構築プロトコル――』
26/35

第026話:Hybrid Penetration ――物理と論理の突破――

バグ報告書レポート:前回までの「異世界エンジニア」は~

教会の監視網が届かない中立地帯「自由学術都市アル・バザール」にて、元聖騎士団長アルフレッド、元枢機卿ヨハネス、豪商ハディージャ、そして鍵師シーフのアッシュと結集した創薬エンジニア・ひらめき れい

反逆のチーム「デバッガーズ」を結成した彼らは、大気から直接魔力を吸い上げて駆動するよう魔改造された相棒『ナビ』の圧倒的な演算力を武器に、教会の追撃軍を完全に撃破する。

さらにヨハネスの権限を利用し、愛する死者を人質に取る「ゾンビ・サブスク」の残酷な仕様書を全世界へ一斉送信ブロードキャストし、教会の権威を失墜させる大反撃を見せた。


しかし、ブロードキャストを受けた世界が混乱に陥る中、

教会は「空の映像は悪魔の捏造であり、教会に逆らえば蘇生した家族の魔力供給を絶つ」

という冷酷な公式発表(火消し)を行う。

愛を人質に取られた民衆は、仮初めの命を守るために互いのリソースを削り合う、最悪の分断ネットワーク・パーティションへと突入してしまった。

一方、狂気のシステム管理者である教皇グレゴリオは、空の上の本拠地『空中聖堂』の最深部にて、セレスを生体バッテリーとして基幹サーバーに接続。

全人類の自由意志を奪い、「意志なき幸福」へ強制アップデートするための最終プロトコルを進めていた

地上の惨状を前に、零たちはナビのハッキングとヨハネスの知識を結合させ、隠蔽されていた教皇の超巨大な基幹サーバー【聖母のマザー・フレーム】の空間座標を特定。ハディージャの資金とアッシュの手によって極秘に魔改造されていた漆黒の強襲揚陸艦に乗り込み、すべての元凶を物理的に叩き潰すべく、雲海の彼方へと飛び立った――!

ズガァァァンッ!! 鼓膜を震わせる魔導エンジンの爆音と共に、漆黒の強襲揚陸艦が分厚い雲海を突き抜けた。


「……見えたぞ。あれが教会の基幹サーバー、いや……【聖母のマザー・フレーム】か」


操縦桿を握る零が、防風ガラスの向こうにそびえ立つ威容を見上げて息を呑んだ。


雲の上の青空に浮かぶ巨大な浮島。その中心にそびえ立っていたのは、白亜の大理石で造られた天を突くような巨塔だった。


信者たちが見れば「神聖なる母の胎内」と拝み倒すであろう美しさだが、零が傍らに置いたナビのレンズを通すと、


その正体が無機質な緑色のワイヤーフレームで可視化される。


それは、全人類の魔力リソースを管理・貯蔵するための、超巨大なサーバーラックの集合体だった。


「……油と泥にまみれた物理機構からくりばかり愛してきた僕からすると、無菌室みたいで反吐が出るほど綺麗な要塞ですね」


アッシュが気怠げに、しかし瞳の奥に狂気的な探求心の炎を揺らして巨塔を見つめる。


「これが教会の本丸……世界中の富と魔力を吸い上げる、独占市場の心臓部ってわけね。ふふ、莫大な投資ハッキングのし甲斐があるわ」


ハディージャが妖艶に唇を舐め上げる。


「ハディージャ様、危険です。どうか私の背後から離れないでください」


ザインが油断なく周囲へ鋭い視線を配り、主を庇うように立ち位置を変えた。


「……まさか、追放された私が、この空の上の『神の座』へ再び足を踏み入れる日が来ようとはな。因果なものじゃ」


ヨハネスが、複雑な面持ちで白亜の塔を見上げて静かに呟く。


艦は聖母の骸の直下にある搬入口らしきテラスへ強行着陸した。


静まり返った聖堂内を駆け抜け、デバッガーズは最深部へと通じる大扉の前に辿り着く。


だが、そこには絶望的な壁が立ち塞がっていた。


「なんだよ、この分厚さは……」 零が忌々しげに舌打ちをする。


大扉は分厚い特殊合金の物理装甲で覆われ、さらにその表面には教皇直々の多重魔導ロック(最高レベルの論理防壁)が、幾重にも禍々しい紫色の光の帯となって絡みついていた。


「ナビ! 大気中の魔力を使って、遠隔(無線)でこのロックの暗号キーを解析できるか?」


『……アクセス拒否。防壁の密度が限界値を超えています。マスターの貧弱な魔力によるワイヤレス干渉では、情報のパケットが100%弾かれます。内部の基幹網に直接物理接続(有線接続)する経路ポートが必要です』


ナビの無機質な音声が、残酷な事実を告げる。


「外からノックしても駄目ってことか……! だが、装甲に隙間なんて一つも――」


『ええ。マスターがここで百年ほど祈りを捧げれば、開くかもしれませんが』


「お前なぁ! 嫌味言ってる暇があったら解決策を――」


「……どいてください、奇蹟殺し」


ナビと口喧嘩をする零の横から、油まみれの顔をしたアッシュが恍惚とした足取りで進み出た。


「見えない力(魔法)でどれだけガチガチに固めていようと、この扉が『物質』である以上、必ず整備のための物理的な隙間(裏口)が存在する。……それが、美しい機械の絶対のルールです」


アッシュは革袋から極細のピッキングツールを取り出し、分厚い装甲の表面に、


まるで恋人に触れるかのように自らの頬をすり寄せて密着した。装甲の氷のような冷たさなど気にも留めない。


「なっ……! あの変態、こんな敵陣のど真ん中で冷たい鉄扉に頬ずりしているぞ……!」


ザインが嫌悪感に顔をしかめる。


「静かに、ザイン。あれが私の投資した『最高の鍵師シーフ』の仕事よ。まぁちょっと…おかしな行動はするかもだけど」


ハディージャが面白そうに目を細めた。


「あれがですか?!」 「ちょっと」という生ぬるい評価に、ザインが信じられないといった顔で声を荒げる。


カチャ……、チリッ。


アッシュの指先が、肉眼では見えないほどの装甲のわずかな継ぎ目を外科手術のように探り当てる。


微細なギアが噛み合う甲高い音が、彼の耳にだけ甘美な旋律として響く。


「……見つけましたよ。この奥に、甘美な魔力の通り道(配線)が隠されています」


カチャリ、と彼がツールを捻った瞬間。金属と魔力が擦れて焦げるような独特の匂いがツンと鼻を突き、


絶対に開かないはずの装甲の一部が、小さな音を立ててスライドした。内部の青白く発光する魔力の束(物理ポート)が露出する。


「でかした、アッシュ!!」


「さあ、存分にあなたの『解剖』を見せてください」


零はバッグからケーブルを引き抜き、アッシュがこじ開けた物理ポートへと強引に接続し、その反対側をナビへと繋いだ。


「ナビ! 物理接続を確認! ヨハネスの古代プロセッサをフル稼働させろ! この空中聖堂の極めて濃密な神聖魔力を、全部ダイレクト・マナ・インテークで吸い上げろ!」


『了解。空間魔力のリソース接収を開始します。……処理能力スペック限界突破オーバークロックへ移行』


ブゥゥゥンッ!!


と、ナビの筐体が地鳴りのような唸り声を上げ、裏面のルーンが激しく発光する。


周囲の大気から莫大な魔力がナビへと吸い込まれ、一帯の空気が急激に乾燥する。零の周囲から水分が一気に奪われ、


呼吸するだけで喉の奥や肌が焼けるような、ひりつく痛みがデバッガーズを襲った。


「ぐっ……熱ッ!」


限界を超えた魔力の奔流により、ナビの筐体が異常な高熱を帯びる。


それを掴む零の指先から、肉が焦げるような匂いと鋭い痛みが走る。


『警告。筐体温度が急上昇中。マスター、手を離せば私の放熱効率は上がりますが、扉は開かず、あなたの物理的生存確率は著しく低下します。火傷か、聖騎士の槍か、より合理的な方をお選びください』


「どっちも嫌に決まってんだろ! この減らず口がッ!!」


零が焼け焦げる痛みに歯を食いしばりながら、絶対に手を離さず仮想キーボードの実行(Enter)キーを力強く叩き込む。


「吸い上げた莫大な魔力リソースを全部突っ込んで、教皇の暗号キーを総当たり(ブルートフォース)でぶち破るぞ!!」


ナビの画面上で、無数の文字列が滝のように流れ、紫色の防壁へ向けて凄まじい速度で解除コードをぶつけ始めた。


ガンッ! ガンッ! ガガンッ!! 論理防壁とナビの演算が激突し、目に見えない火花と衝撃波が空間を激しく揺らす。


アッシュの「鍵開け」で裏口をこじ開け、零の「論理ハッキング」でパスワードを強行突破する。


魔法を使えない二人による泥臭いハイブリッド・ペネトレーションだ。


『暗号キーの衝突コリジョンを突破。……最後の防壁、解除完了アンロックします』


ズゴゴゴゴォォォォッ!!


ナビの音声と共に紫色の光の帯が粉々に砕け散り、絶対に開かないはずの聖母のマザー・フレームの巨大な隔壁が、


重い地響きを立ててゆっくりと左右に開いていく。


「開いた……! さあ、マザーボードの奥底までデバッグしてやろうぜ」


零が火傷の痛みを堪えて不敵に笑い、デバッガーズはついにラストダンジョンの内部へと足を踏み入れた。


だが、その直後。 内部の通路を照らしていた神聖な白い光が、一斉に禍々しい血のような「赤」へと変色した。


『警告。内部の防衛機構アンチウイルスが侵入者を検知。……物理排除プロセスが起動しました』


「チッ、やっぱりお出迎えがあるか」


ズシン、ズシン、ズシン。 通路の奥から、冷たい大理石の床を伝わって、零たちの腹の底を直接揺らすような重厚な足音が響き渡る。


現れたのは、感情を完全に消し去られたように無機質な瞳をした、大柄な近衛聖騎士たちの部隊だった。


零がナビのレンズ越しに彼らを視認すると、その肉体と装備の異常な構造がAR表示で警告色に染まった。


『警告。対象の生体反応に異常な数値を検知。……彼らは機械ではありません。教会のシステム(再教育)によって恐怖や痛覚といった精神の制限リミッターを完全に切断され、魔法によって肉体と装甲を極限まで過剰強化オーバークロックされた『生身の人間』です』


「ク〇が。どこまでも人間の命を『部品』扱いしやがる……ッ!」 零がギリッと奥歯を噛み締め、怒りに顔を歪める。


「我らの聖母を穢す異物バグども。直ちに浄化デリートする」


彼らが一斉に法執行の槍を構え、濃密な殺意が通路を埋め尽くす。


「フン。物理的な『防壁』なら、こっちにも最高の専門家がいるんでね」


零の言葉に応えるように、アルフレッドが赤錆の魔導鎧を軋ませ、巨大な鋼鉄の大盾を構えて前衛へと歩み出た。


「……下がっていろ、零。彼らの誇り高き白銀の刃は、この私が全身全霊を持って受け止めよう」


基幹サーバー内部での苛烈な攻防戦が幕を開けようとしていた――。



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