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異世界エンジニア  作者: 閃輪 零
『第2幕:Re:Build(再構築) ――デバッガーズ・アセンブル――』
22/35

第022話:デバッガーズ・ビルド ――Mark 2 再起動――

バグ報告書レポート:前回までの「異世界エンジニア」は~

言語の壁を乗り越えた零は、元枢機卿ヨハネスがかつて教皇のシステムに敗北した絶望の過去エラーログを共有し、彼が隠し持っていた高純度の演算用魔石『古代のサブプロセッサ』を託される。

砕け散った相棒ナビを復活させるべく開かれた魔改造会議。

アッシュの美学、零の性能への執着、ヨハネスの機能性が激突する中、零はバッテリーの制約を捨て、

世界の大気から魔力を吸い上げて直接駆動する「ダイレクト・マナ・インテーク(直接魔力駆動)」という天才的なロジックを閃く。

そのあまりに規格外な仕様と、精密作業に必要な『超高純度の定着液』などの莫大な見積もりに豪商ハディージャは頭を抱えるが、教会のシステムをひっくり返す野心のもと、ついに豪快なゴーサインを出した。最高の機材とパーツが揃い、反逆者デバッガーズたちによる最強の相棒の再構築ビルドがいよいよ始まる――!


「アッシュ、そこだ! トーチの火力を少しだけ絞ってくれ!」


「言われずとも。……美しい、基板の微細な回路が溶ける寸前のこの輝き……たまりませんね」


ハディージャが用意した隠し工房の中は、異常な熱気と、金属や薬液が焦げる独特の匂いが充満していた。

俺は顔を煤だらけにしながら、『極小の火魔法を放つトーチ』をハンダゴテ代わりに握り、

砕けたiPadの基板マザーボードと向き合っていた。


「じいさん、大気から魔力を吸い上げるルーンの刻印は!」


「済んでおる。基板の裏側に、ミクロン単位でな」


ヨハネスが額の汗を拭いながら、魔力を帯びた彫刻刀を置いた。

異世界の超常物質である『古代のサブプロセッサ』を、地球の非魔法物質である基板に直接繋げば、

アーキテクチャの違いから魔力が弾かれて一瞬でショートする。


それを防ぐため、ヨハネスが極細の彫刻刀で基板に傷をつけ、そのミクロン単位の溝へ、

アッシュが息を止めて『超高純度の定着液』を流し込んでいく。

数滴で家が建つほどの超高価な銀色の液体が、惜しげもなく基板の上で揮発し、

地球の回路と異世界の魔石を繋ぐ「完璧な導線」を形成していく。


「ダイレクト・マナ・インテーク……接続コネクト!!」


ジュウウウウッ!!


トーチの熱で魔石と基板の接点が融合した瞬間、激しい火花が散り、強烈な青白い光が工房を包み込んだ。


ヒュオォォォッ!


「なっ……なんだ!?」


「風が……室内で風が吹いているわ!」


ハディージャが豪奢な絹の服を押さえる。 違う。風じゃない。

工房内の空間に漂っていた『魔力リソース』が、渦を巻いて新しい筐体の裏側に刻まれた十字のルーンへと直接吸い込まれているのだ。


バッテリーという物理的な制限を捨て、世界そのものを電源コンセントとする、究極のオーバークロック。


やがて光が収まると、作業台の上には、アッシュが磨き上げた超軽量の流線型筐体に収まり、

十字のルーンが静かに明滅する『新しい板』が鎮座していた。


俺は煤だらけの手を震わせながら、真新しいガラス画面に触れた。


「ナビ!」


俺の呼び掛けに呼応するように、画面がパッと明るく点灯した。


そこに現れたのは、ヨハネスがデザインした古臭い十字架の起動ロゴと、

かつての何千倍もの速度で滝のように流れる起動ログ(文字列)。

そして、無機質だが、どこか誇り高い合成音声が工房に響いた。


『相変わらず、情けない声ですね、マスター』


「っ……!」


その声を聞いた瞬間、俺の目の前がぐにゃりと歪んだ。


「情けないは余計だ! ……このやろう(グスッ)」


『私がいなければ生存確率が極端に低下しますからね、よく生存出来ましたと褒めるべきですか』


「ほんとにお前ってやつは……」


俺は袖で乱暴に涙と煤を拭い、鼻をすすりながら笑った。


「でも、その憎たらしい声が聞きたかったぜ、相棒」


『ただいま戻りました、マスター』


完璧な同期。


俺の目から溢れる涙を見て、周囲の面々が呆れたように、だが温かく息を吐いた。


「……はぁ。相変わらず『マスター』なんて呼ばせてるんですね。あんな憎まれ口を叩くくせに、随分と従順で可愛い使い魔だ。

僕も後で解剖して躾け直してみたいものです」


アッシュが気怠げにボソボソと茶化す。


「ふぉっふぉ。あの小さな板の中に、随分と口の減らない魂が宿っておるんじゃな」


ヨハネスがヒゲを撫でて笑う。


「ふふっ。莫大な投資をしたんだから、不良債権のままじゃ困るのよ? さあ、存分に見せてちょうだい。

そのとびっきり高価な機械おもちゃの価値を」 ハディージャが妖艶に唇を舐め上げた。


「ああ、見てろよ。……ナビ、手始めにこのアル・バザール全域の『魔力トラフィック』をスキャンしろ。

今のパケット処理能力なら」


俺が誇らしげに指示を出そうとした、その瞬間だった。


『――ピーーーーッ!! ピーーーーッ!!』


突然、再起動したばかりのナビが、かつてないほどけたたましい警告音アラートを鳴らし、画面を真っ赤に染め上げた。


「なっ!? どうしたナビ! バグか!?」


『否定。オーバークロックによる広域スキャンの結果、アル・バザールの物理防壁のすぐ外縁にて、極めて高密度かつ異常な教会の魔力トラフィックを検知』


ナビの画面に、都市を囲む城壁の外側――その全てを埋め尽くすような、無数の禍々しい赤い光点がARとして投影された。


『……敵本隊、到達しました。指揮官の識別コードは【権限:聖騎士団長/個体名:バルカス】。総数、およそ一万』


「……バルカス、だと」 その名前を聞いた瞬間。


部屋の奥で静かに目を閉じていた大男――アルフレッドが、赤錆の鎧を重く鳴らして立ち上がった。


彼の傍らに置かれた巨大な鋼鉄の大盾が、主の静かなる怒りに呼応するように鈍く光る。


「……あいつら、俺たちを追って一万の軍勢で中立地帯まで押し寄せてきたのか。イカれてやがる」


俺はギリッと奥歯を噛み締め、生まれ変わった相棒ナビを片手で力強く掴み取った。


「だが、好都合だ。……俺たちはもう、逃げ隠れするだけの迷子じゃない」


アッシュが美しいピッキングナイフを弄り、ヨハネスが杖を握り、ザインが刃を抜く。

俺は画面に溢れる無数の赤いエラー(敵軍)を見据え、薄く笑った。


「行くぞデバッガーズ。……『実行エクスキュート』の時間だ」



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