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異世界エンジニア  作者: 閃輪 零
『第2幕:Re:Build(再構築) ――デバッガーズ・アセンブル――』
21/35

第021話:デバッガーズ・ビルド ――魔改造会議――

バグ報告書レポート:前回までの「異世界エンジニア」は~

教会の監視網を弾き返す唯一の中立地帯、自由学術都市『アル・バザール』へと足を踏み入れた零とアッシュ。都市の中心にある豪商ハディージャの拠点で、彼らは教皇のシステムに反逆し追放された元聖騎士団長アルフレッドと合流を果たす。

しかし、ナビを失った零は異世界語の翻訳機能を喪失しており、彼らと言葉を交わすことすらできない「ただの無力な男」へと成り下がっていた。 もどかしいストレスと屈辱の中、零は元枢機卿であるヨハネスを教師役とし、数週間に及ぶ泥臭い言語学習(論理の同期)を完了させる。

言葉を取り戻した零に対し、ヨハネスはかつて教皇選で棄却された己の「正しいコード(改革案)」の無念を託すように、隠し持っていた高純度の演算用魔石――『古代のサブプロセッサ』を提示する。反逆者デバッガーズたちの意志が、今、一つの「再構築(Re:Build)」に向けて動き出そうとしていた。

豪商ハディージャが提供してくれた、アル・バザールでも最高峰の機材が揃う隠し工房。


その静謐な空間で、アッシュは静電気防止用の黒いベルベットの布の上に、極細のピッキングツールとピンセットを滑らせていた。



「……ふぅ」


恍惚とした吐息と共に、彼が作業から手を離す。


布の上には、熱でひしゃげたアルミ筐体と砕けたガラスパネル、


そして――焦げた基板から取り外された、極小のネジ、フレキシブルケーブル、カメラモジュールといった数百の極小パーツが、


ミリ単位の狂いもなく、大きさ順に美しく整然と並べられていた。


「どうですか、奇蹟殺し。……破損したバッテリーとディスプレイ以外、

完璧に一つの部品の漏れもなく、傷一つつけずに『解剖』してやりましたよ」


アッシュは、まるで世界最高の芸術作品を展示する彫刻家のような、誇り高いドヤ顔で俺を見た。


「お前……マジで変態だな(褒め言葉)。地球の専用工具もなしに、よくここまで……」


「当然です。物理構造が僕に語りかけてくるんですから」


俺は並べられた部品の金属光沢に息を呑みながらも、すぐに卓上に広げた新しい筐体の「設計図」へと視線を戻した。


ここからは、地球の部品とヨハネスが提供した『古代のサブプロセッサ(高純度魔石)』をどう統合するかという、


アーキテクチャの再構築だ。 だが、その会議は開始早々から、絶望的なまでに紛糾していた。


「わかってないですねぇ、奇蹟殺し! この究極の美しさ! これこそこの新しい機械の体となるべきだ!」


アッシュが図面を指さし、熱弁を振るう。

彼が提案しているのは、装飾を極限まで削ぎ落とし、持ちやすさと美観だけを追求した流線型の超薄型筐体だった。


「だぁ~~! そんなデザインにしたらスペックがた落ちじゃねぇか!! 誰かに売っぱらう訳じゃねぇんだぞ!!」


俺は髪を掻き毟りながら吠えた。


「地球のバッテリーはもう死んでるんだ! 代わりに魔石で電源ユニットを組むなら、

熱暴走を防ぐための巨大な冷却ファンと分厚い放熱フィン(羽)が絶対に要る!

見た目がごつくたって、処理能力スペックがすべてだろうが!」


「分厚い放熱羽!? そんな無骨な鉄の塊、僕の美学が許しません!」


「美学で教皇のファイヤーウォールが抜けるかよ!」


デザイン(UI)重視のフロントエンド・エンジニアと、性能バックエンド重視のインフラ・エンジニアの、決して埋まらない宗教戦争。


取っ組み合いになりかけたその時、横からスッと、一枚の羊皮紙が差し出された。


「まぁまぁ二人とも、茶でも飲んで落ち着かんか。……それよりほれ、どうじゃこのシンボルは?」


温かいハーブティーの湯気と共にヨハネスが提示したのは、ナビの再起動画面(起動ロゴ)のUI案だった。


だが、そこに描かれていたのは、なぜか『パスカル聖教の十字架』に酷似した、ひどく宗教的で古臭いデザインだった。


「「じいさん~~~!!」」


俺とアッシュの声が完璧にハモった。


「なんで教皇のシステムぶっ壊す最強のツールの起動画面が、敵のロゴマークに似てんだよ! 縁起でもねぇだろ!」


「わ、わしはちょっと和ませようと……」


ヨハネスが少ししょんぼりして、お茶をすする。


老賢人としての威厳はどこへやら、彼もすっかりこの泥臭い開発チームに馴染んでしまっていた。


だが。


「……待てよ。……じいさん、あんた、天才かもしれない」


「なんじゃ、急に」


俺はヨハネスの描いた図面――魔力を効率よく集めるために描かれた、十字のルーン構造を見つめ、脳内に強烈な電流が走るのを感じた。


内蔵バッテリーがない。なら、どうする? 魔石を積めば重く、不格好になる。


「! そうだ、魔力を『直接』外気から取り込んで駆動すればいいんじゃねぇ?!!」


「外気から、直接……?」


アッシュとヨハネスが目を丸くする。


俺は興奮で震える手で、設計図に猛烈な勢いでペンを走らせた。


「ああ! 筐体にバッテリーを積むからデカくなるし、熱を持つんだ!


ヨハネスの『古代のプロセッサ』を心臓部にして、周囲の空間にある魔力リソースを直接吸い上げて、


そのまま計算処理の電力に変換する! つまり、ダイレクト・マナ・インテークだ!」


「それだと……電源の容量制限がなくなる、ということですか?」


「その通りだアッシュ! そうすれば魔力が濃ければ濃い程、限界を超えてより高性能になる(オーバークロック)んじゃねぇ?!」


俺の提案に、工房に雷に打たれたような静寂が落ちた。


空間から直接魔力を吸い上げるなら、巨大な魔石バッテリーも無骨な冷却機構も必要ない。


アッシュが追い求める「圧倒的な見た目の美しさ(薄型・軽量)」を損なうことなく。


俺が求める「教皇のサーバーをぶち抜く無制限の超絶スペック」を実現し。


かつ、ヨハネスが求める「持ち運びやすさ(機能性)」も完璧に満たしている。


三人の相反する要求仕様ワガママが、たったひとつの天才的なロジックで完璧に統合された瞬間だった。


「……素晴らしい。これなら、僕の完璧なケースに収まります」アッシュが恍惚と呟く。


「教会の『奇跡』の根源たる大気中の魔力を、逆にこちらの動力として食い尽くす……痛快なアーキテクチャじゃな」


ヨハネスがヒゲを撫でて笑う。



「よし! 仕様は固まった!! ハディージャ!!」

俺は大急ぎで資料をまとめ、ハディージャの元へ走った。



* * *



数十分後。 要求仕様書(見積もりリスト)を叩きつけられた豪商ハディージャは、


豪奢なソファーの上で、頭痛を堪えるように美しい眉間を指で強く押さえていた。


「~~……確かに、協力は惜しまない、とは言ったけどあなたたち……」


リストに並んでいるのは、アル・バザールの市場でも滅多にお目にかかれない最高純度の伝導体、


外装用の超軽量な幻獣の装甲板、


そしてヨハネスがミクロン単位の高位ルーンを手作業で刻むための、


使い捨ての『特注魔導彫刻刀』と『超高純度の定着液』の山。


(ただでさぇ高価な『魔導彫刻刀』を”特注”?しかも使い捨て???


『超高純度の定着液』って何?!


 中身は、、、”装甲大蟻の酸”を錬金術で極限まで蒸留・精製し、不純物を0.0001%以下まで濾過した【液状の純粋魔力】

ですって??! 


あのやっかいな装甲大蟻の、それも超危険な”酸”を集めて、更に錬金術で極限まで蒸留・精製???!

それも山ほど…?)


頭がクラクラしてくる。


「これ、本気なの? 本気でいってるの??!」


「ハディージャ様、流石にこのような無謀な投資は……!」


傍らのザインが青ざめて制止しようとする。

都市がひとつ、いや、下手したらふたつ程買えそうなほどの莫大な費用だ。


だが、ハディージャは眉間を押さえたまま、頭の中で猛烈な速度で皮算用を始めていた。


(……この『化け物機械』が完成して、教皇の基幹部分を物理的に乗っ取ることが出来るなら。


そうなれば、『教会の支配経済圏』は崩壊し、世界中の物流と通貨の主導権がすべて私たちの『旧経済圏』に転がり込んでくる……!)


沈黙の数秒間。 やがて、ハディージャは眉間から指を離し、野心と狂気に満ちた、極上の笑みを浮かべた。


「……ふふっ、あはははっ! いいわ。教会の支配がひっくり返れば、この程度の投資、一瞬で回収してお釣りが来る。

それ以降はずっとプラスよ」


彼女は見積書に豪快にサインを書き殴り、俺たちの胸元へバシッと突き返した。


「やりなさい。最高の『基板』を用意してあげるわ!!」


「は、ハディージャさま!!!」


ザインが傍らであわあわしている。


無理もない。


俺だって”無茶な要求をした”という自覚すらある。


だがやるしかない。


このぐらいは軽く実現させなければ。


この世界の腐ったシステムは壊せない。



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