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異世界エンジニア  作者: 閃輪 零
『第1幕:Hello, Buggy World. ――強制ログインと絶望の仕様書――』
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第011話:開かれた仕様書と残酷な真実

バグ報告書レポート:前回までの「異世界エンジニア」は~

遺跡の防衛システムで騎士たちの魔法を強制終了させる零。

だが、教会のネットワークを利用したラドが「正規の管理者権限」で遠隔操作リモートによる乗っ取りを仕掛けてくる。

論理で圧倒されかける零だったが、親父さんが残した「物理バックドア(拡張ポート)」を発見する。

零はそこへ直接ケーブルを繋ぎ、物理ハッキングによる逆パッチでラドの権限をデリートし、

見事通信を切断することに成功するのだった。

「零様! よかった、騎士様たちが離れていきます!」


セレスが安堵の涙を浮かべて、俺の腕にしがみついてきた。 だが、俺のエンジニアとしての直感は、まだ警鐘を鳴らし続けている。


「喜ぶのは早い。ラドをシステムから弾き出したってことは、逆に言えば、今この瞬間だけは俺が『教会のネットワークの管理者』になってるってことだ」


俺はUSBケーブルを繋いだまま、iPadの画面に流れる無数のデータ群を見つめた。 親父さんが遺した物理バックドア。

ここからなら、教会の深部に隠された「本当のデータ」にアクセスできるはずだ。


「さて、親父さんが命懸けで隠したかったもの。そして、教会が必死に隠蔽している『世界の仕様書』を見せてもらおうか」


「零様……それを見ると、何が分かるのですか?」


「教会の『奇跡』の、本当の対価だ」


俺は仮想キーボードを叩き、教会の最高機密フォルダをこじ開けた。 画面に、おぞましい「奇跡の運用ログ」が展開される。


『解析完了。ファイル名:【死者蘇生(屍鬼化・定期徴収)手順書】』


屍鬼しき……?」


「ああ。教会の目玉商品である『死者の蘇生』の仕様書だ。生き返るんじゃない、魔力で動く『屍』にして維持費を毟り取るシステムだ。吐き気がするぜ。これ、完全に『悪質な割賦販売』じゃねえか」


俺の言葉に、セレスが息を呑む。 ログに記されていたのは、あまりにも残酷なビジネスモデルだった。


蘇生された人間は、教会のサーバー(大聖堂の魔導核)から常に魔力の供給を受けなければ活動を維持できない。


そして遺族は「供養料」という名目で、毎月高額な料金サブスクを支払い続ける必要がある。

支払いが滞れば、その瞬間に肉体は崩壊し、魂ごとサーバーに回収デリートされる仕組みだ。


「これは救済なんかじゃない。死体を人質に取った、終わりのない搾取だ」


「そんな! 教会は、人々を幸せにしているんじゃ……奇跡は、神様の優しさじゃないんですか!?」


セレスの悲痛な叫びが工房に響く。 だが、絶望はそれだけでは終わらなかった。ナビが新たなログを展開する。


『マスター。さらに深層のログを展開。【聖別者(魔法使い)の運用記録】。これによれば、聖女や高魔力保持者は、この劣化サーバーを維持するための「使い捨ての生体バッテリー」として消費されています』


「……親父さんの遺言から最悪の想像エラーはしてたが、まさか『仕様書』としてこんな非道が堂々とシステムに組み込まれてやがるとはな。教会は、お前たちから魔力を吸い上げるだけ吸い上げて、用済みになれば――」



『さらに関連する直近の「システム・エラーログ(粛清記録)」を発見。つい先日、この残酷な仕様に気づき異を唱えた最高幹部の一人、「聖騎士団長アルフレッド」が、バルカス副長の告発により「異端者(反逆者)」として教会から追放処分パージされています』


「最高幹部がシステムに反逆? なるほど、教会内部も一枚岩じゃないってことか。だが、その正義感の強い元団長サマはもういない」


セレスは言葉を失い、膝から崩れ落ちた。 わたしが信じていた世界が、人々の祈りが、すべて教会の強欲なシステムの養分でしかなかった。

そして、それに異を唱えた正しい騎士すらも排除される世界だという事実に。


その時、遺跡全体が先ほどとは比べ物にならないほど激しく揺さぶられた。 外から、魔力で増幅された、慇懃無礼で不気味な声が響く。


『――聞こえますか、遺跡に立て籠もる哀れな反逆者たち。私は聖騎士団長、バルカスです。教会の偉大なる秩序を乱した前任の無能に代わり、この私が教会の正義を執行する!』


「ク〇が! ラドの野郎、自分が弾き出された時のために、あんな狂信者めいた――いや、教会のシステムに最も適応した『最悪のバグ』率いる本隊まで用意してやがったか!」


iPadのバッテリーは残りわずか。防衛システムも、先ほどのフル稼働で魔石が焼き切れそうになっている。これ以上の防衛戦は不可能だ。


「零様」


静かな、だが決意に満ちた声だった。セレスがふらつきながら立ち上がる。


「わたしが行きます」


「馬鹿なこと言うな! お前が連れて行かれたらどうなるか、今見たばっかりだろ!」


「ええ。でも、わたしが『聖女』として投降すれば、村の皆さんや、零様は見逃してもらえる。わたしの魔法は、誰かを傷つけるためのものじゃない。誰かを守るためのものだから」


「やめろ、セレス! そんな自己犠牲(ク〇コード)なんて、俺が全部書き換えてやる!」


俺が手を伸ばした瞬間。 セレスの指先から放たれた光の魔法が、俺の体を石の壁に縫い付けた。暴走ではない、完璧に制御された「拘束の魔法」だった。



「ありがとう、零様。わたしの魔法を、正しい形にしてくれて」


涙を流しながら微笑むと、彼女は重い石扉を開け、圧倒的な軍勢が待つ外へと一人で歩き出していった。


「セレスッ!!」


扉が閉ざされる。数分後、拘束が解けた時、外の気配は完全に消え去っていた。 俺は暗い工房の中で、残り数パーセントの灯りを放つiPadを強く握りしめた。


彼女は俺を見逃す条件で投降したが、教会のシステム(連中)がそんな約束を守るはずがない。

いずれ、俺は『聖女をたぶらかした悪魔』として大々的に指名手配されるだろう。


セレスを奪われ、この狂った世界で完全に孤立した俺。 だが、ただ黙って逃げ隠れするつもりはない。


「上等だ。教会が俺を”バグ”だと認定するなら、連中の『奇跡』という名のバグを各地でデバッグして回ってやる。インチキの化けの皮を剥がして、教会のシステムごと崩壊させてやるよ」


俺は画面をスワイプし、ナビに命じた。


「ナビ、ここから一番近い『反教会の勢力』、あるいは教会の目の届かない場所を検索しろ」


『ルートを算出。……教会のエコシステムから完全に独立した自由貿易圏、自由学術都市「アル・バザール」が該当します。また、先ほど追放されたという「元聖騎士団長アルフレッド」の足取りも、同じくアル・バザール方面へ向かっている形跡があります』


「なるほど。なら、まずはその元団長サマと『合流マージ』するところからだな」


「ここからは、全面戦争だ」




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