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【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして【連載版】  作者: うり北 うりこ@8/1ざまされコミカライズ①発売
本編

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39/46

39『運命』は、不安になる

 

 サミレット領に帰って来て早三ヶ月。

 途中、賊が暴れ出してジーシたちに速攻で鎮められるというハプニングもあったけれど、堤防作りは概ね予定通り進んで、ついに完成を迎えた。

 

「すごいなぁ」

 

 河川のカーブに沿って作られた堤防に、感嘆のため息がこぼれる。

 きっとこれで大丈夫。

 そう思ったところで、ぽつりぽつりと雨が降りはじめた。

 

「ヴォレッカ様、こちらへ」

 

 リーゼに促され、馬車へと乗り込むとすぐに本降りとなったため、近隣の村まで戻る。 

 村に到着する頃には雨脚も強くなり、村長の家で雨宿りをさせてもらうことになった。

 

「すごい雨……」 

 

 窓から外を眺めるけれど、外の景色が見えないほどに激しく降っていて、また河川が氾濫するのではないかと不安が募る。

 

「奥様、そんなに心配なさらなくても大丈夫でございますよ」

 

 ここから見えるわけでもないのに、窓から川の方角を見続けている私に、ジーシが声をかけてくれる。

 

「そう……だよね。それでも、氾濫したあとの土地を思い出すんだ……」

 

 すくすくと育っていた麦畑が、泥でおおわれるのだ。

 あの時の畑も、絶望する領民の姿も、もう二度と見たくない。

 

「奥様……」

「ごめん、こんな話をして」

「いえ、私で良ければいくらでもお話くださいませ」

「……ありがとう」

 

 悲観的になるなんて、ましてやそれを口にするなんて、私らしくない。

 思い出したところで、事態が好転するわけでもないんだ。切り替えないと……。

 

「村長より本日はこちらでの宿泊の提案をいただいております。この雨では馬車も走れませんし、お言葉に甘えて、明日にでも様子を見に参りましょう」

「うん、そうだね」

 

 夜になっても雨は降り続き、その日の夜は心配であまり眠れなかった。

 

 翌朝、昨日の雨が嘘のような青空が広がっている。

 

「さ、行きましょう」

 

 朝、使用人よりも先に起き、さっさと身支度を整えた私は、起こしに来たリーゼを見るなり、そう口にした。

 けれど、そんな私にリーゼは首を横に振る。

 

「ヴォレッカ様、私が来るまで身支度はお待ちください」

「普段はそうしてるでしょ。今日は、それどころじゃないんだよ」

 

 麦畑は無事だろうか。河川は氾濫してないかな……。

 貴族の奥方としての行動なんか、今は気にしていられない。

 早く、早く見に行かないと。

 

「この家の料理人が張り切って、朝食を用意してますけど、どうしますか?」

「……いただきます」

 

 ご厚意で泊めてもらったうえに、私のために作ってくれた食事を無碍になんてできない。

 本当は、すぐにでも堤防のところまで行きたい。けれど、その気持ちをぐっと抑えて、食堂へと向かう。

 

 大丈夫。もし、河川が氾濫してたら、村長はこんなにのんびり朝食を食べてなんかいられないはず。

 

 早く食べてくれー! と、心の中で叫びながら、村長の話に笑顔で相槌(あいづち)を打っていく。

 すると、廊下の方からバタバタと走る足音が聞こえた。

 

「──ヴォレッカ、大変だ!」

 

 食堂に飛び込んで来たデーリッヒ兄に、ジーシが咳払いをする。

 

「お食事中、大変失礼しました。ヴォレッカ様に急用があって参りました」

 

 デーリッヒ兄はすぐに言い直す。

 いくら従兄弟といえど私たちは主従関係で、ヘンルートゥ家の人たち以外がいるところでは、けじめを付けなくてはならない。

 

「どうしたの?」

「賊が逃げました」

「……え?」

 

 に、逃げた?

 最近は大人しくしていたから大丈夫だと思っていたけど、もしかして油断させるためだったってこと?

 とにかく、早く探した方がいいよね。 

 

「賊とは、どういうことですか?」

 

 慌てている村長の言葉に、デーリッヒ兄がしまった! という顔をする。

 けれど、その表情もまずい。どうにか、誤魔化さないと。

 そう思ってジーシを見るけれど、ジーシが口を開くことはない。

 

 あ、そうか。私を差し置いて話すことができないのか。

 ということは、私がどうにかしないといけない。

 でも、どうやって?

 いい案が思いつかない。

 

「えっと、賊とはですね……」 

 

 どうしよう! ジーシだったら、絶対にうまく誤魔化せるのに!

 こうなったら、ジーシなら何て言うか考えよう。

 あと、冷静に余裕があるように見せた方がいいよね。

 そう思い、意識してゆっくりと口を開いた。

 

「襲ってくる賊ではなく、私たちに従う者たちという意味の属です。紛らわしい表現で申し訳ありません」

「そう……なんですか」

 

 うん、そうなるよね。

 これを信じろって方が難しい。

 だけど、信じてもらえないと困る。 

 

「彼らは、サミレット領に帰って来る途中、とある事情により一時的に従属した者たちでした。それがまさか逃げるなんて……」

 

 眉を下げ、いかにも困っている風を装う。

 そのあとも言葉を重ね、そんな私の言葉を信じたのか、村長はホッとした顔をした。

 

「そうでしたか。いやー、よくよく考えてみたら賊を働かせるはずないですもんね。早とちりして、申し訳ありませんでした」

「いえ、誤解が解けたようで良かったです」

 

 ほ、本当に良かった……。

 一先ずピンチは抜けられたかな?

 でも、これは解決なんかじゃない。ただ誤魔化しただけ。

 早く、本当に解決しないと。

 

 

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