38『運命』のいない王都で、振り回される〜ライラクスside〜
フーディエに調査依頼をしたところ、調査するまでもなく出てきた回答を思い出し、思わずため息がこぼれる。
皇太子殿下とファララス公爵令嬢が婚約するという話は本当だった。
ということは、私はファララス公爵から信頼されていないということだろうか。
公爵に聞く前に知った事実に、切り出すべきなのか、知らないふりをするべきなのか、判断がつかない。
「あぁ、ライラクス。君を待っていたんだよ」
護国派の集まりについて早々、ファララス公爵がにこやかに近づいてくる。
「昨日はどうだったかな?」
「……フレシア公爵に、サミレット領のことを探られました。それと、フレシア公爵夫人は夜会に来なかったので、すでに王都にいないという話の信憑性は高いかと」
「そうか。夫人は夜会が好きだから、よほどの理由がなければ欠席しないだろうしな」
「はい。欠席理由は仕立てたドレスが気に入らなかったとのことでした」
話しながらも、殿下とファララス嬢の婚約のことが頭から離れず、集中できない。
「他に、何かあったのか?」
「いえ、その……」
聞くにしても、こんなに大多数のいる場所で聞いていい話ではないだろう。
「また今度お聞きします」
そんな私の反応にピンと来たのか、ファララス公爵は小さく笑う。
「あぁ、娘のことかな?」
「はい……」
「別に隠していたわけじゃないが、言う必要もないと思ってね」
その言葉に少なからずショックを受ける。
護国派に入り、仲間になったと思っていたのは私だけだったのだろうか。
「そんな顔をするな。君は領地の件が片付いたら、もう集まりには来ないだろう?」
「え?」
「だから、今の君に必要で渡せる情報だけを伝えている。それだけの話だ。それとも、領地の件が片付いたあとも護国派の一員として今のように動いてくれるのかな?」
スッと細められた目は、私を見定めようとしているように見える。
私はとにかくサミレット領を守らなくては……と、それしか考えていなかった。
守りきったあとに自分が護国派で活動しているイメージができないことを、言われてみて初めて気づく。
そうか。互いの目的が同じだっただけなのか。
これでは仲間と認識されないのも納得だ。
「いえ、私はできるだけヴォレッカといたいので、協力はさせてもらいますが、今のように頻繁には参加しないと思います」
はっきりと答えれば、ファララス公爵は苦笑した。
「肯定だけしておいて、用が済んだら抜けることもできるのに、ずいぶんと素直だな」
「そうしたら、信用を失うではありませんか。二度と協力関係に戻れなくなります。公爵の目を誤魔化せるほど、私は嘘が上手いわけではありませんから」
「そうか、賢明な判断だ。そんな君だから、一時だけ護国派に入ることを認めたのだがな。何にせよ、渡す情報はこちらで制限はさせてもらうよ。君も知り過ぎたくはないだろう?」
急に冷たくなった眼差しに、背筋が凍る。
話していると理知的で穏やかだから、つい忘れてしまうが、この人は護国派をまとめ上げ、ここまで大きくした実力者だ。
どうやったって、私が敵う相手ではない。
「そうですね。今くらいがちょうどいいです」
ショックを受け、仲間だと思っていたこと自体が間違いだった。
巻き込まれずに平穏に暮らすには、距離を置く方がいい。
「もう少し残念そうにすればいいものを……。まぁ、良い。ライラクスほど護国派だとバレて困らない者もいないしな。働いてもらうぞ」
「そこはもう少し隠そうとしてもらえませんか……」
「こちらの思惑に頭を悩ませるよりいいだろう? ライラクスも奥方もそういうのは苦手そうだからな。ここにいる間に、学べ」
「はい。ありがとうございます」
あぁ、守られていたのか。
ここまで聞いて、やっと自身がファララス公爵に守っていてもらっていたことに気付く。
そんなことも気付かずに、私は何をうだうだと……。
他人の私にもこんなに甘いのだ、ファララス嬢の婚約も彼女のためになる相手を選んだのだろう。
「──というわけで、これから先、ロゼリアが殿下と共に行動することが増えるだろう。知ったからには、ロゼリアが暴走しないようによく見張っていてくれよ」
「……え?」
「まったく、殿下にも宰相派にも近付くなと言ったのに『ヴォレッカのために敵情視察ですわ』などと暴走しおって」
「まさか、婚約は公爵の意図したものではないのですか?」
思わずそう聞けば、公爵は重い溜め息をこぼす。
「ロゼリアが勝手に殿下をたらし込んで来たんだ。自由奔放すぎる姿に殿下が強く惹かれたらしい」
「では、フレシア公爵の意図したものでもないと……」
「そういうことだ。まったく、敵陣に真っ直ぐに突っ込んで行くなど、どうやって守ればいいんだ……」
ファララス公爵は宰相派に当然ながら警戒されているし、その娘とあらば警戒されないはずがない。
「ファララス嬢は、婚約したことに対してどう思われてるのですか?」
「『今こそ、傀儡となっている殿下の目を覚まし、護国派に引き入れるチャンスでしてよ』と息巻いておる。ライラクス、娘を頼んだぞ。君の奥方の友人なのだから、君がそばにいてもおかしくはないはずだ」
「ですが、それだと私も警戒されるのでは……」
そうなると、私としても動きづらくなる。
それに、ファララス嬢は元々私に猛アピールをしていた。殿下がそれを知らないはずはないし、かなりの確率で近付いたら殿下から嫌われると思う。
「情報収集はもっと目立たない者に任せるし、殿下に嫌われたところで、問題はない。こうなったら、どうにか護国派に引き入れて、きちんと教育をしておく」
「そういうことでしたら……」
何だか、短い時間に感情が右へ左へと大きく動かされて疲れた。
「私としては、必要な情報を流していただけて、サミレット領を守れるのであれば問題ありません」
私の返事に公爵は満足げに頷いた。
リアルが忙しく、更新を守るのが厳しくなってきました。
週一更新は確実に行いますが、不定期とさせていただきたいと思います。
申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。




