37『運命』のいない王都は、探り合い
ヴォレッカがサミレット領に向かって一ヶ月が経った。
そろそろ着いている頃だろうか……。
「はぁ……」
思わず溜め息がこぼれる。
ヴォレッカと一緒に行きたかったな……。
「旦那様、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
心配そうにキシスが聞いてくる。
「ん? あぁ、問題ない」
「今日は休まれてはいかがでしょうか」
その言葉にゆるく首を振る。
ヴォレッカが王都を立ってからというもの、夜会や護国派の会合ばかりだ。
「キシス、忙しくさせて悪いな」
「俺のことはいいんです。今までゆっくりさせてもらった分、しっかり働きますよ」
「すまない」
「……相当疲れてらっしゃいますね。今日休まれるのは無理でも、近日中にしっかり休んでください。それと、食事もきちんと召し上がってくださいませんと」
「そうだな。そうするよ」
せめてよく眠れていれば違ったのだろうが、ヴォレッカがいないとうまく眠れない。何度も嫌な夢を見て目が覚める。
食事をとるのも億劫で、食べる量が減った自覚もある。
自分がいかにヴォレッカの存在に支えられていたのか、改めて思い知った。
ヴォレッカがそばにいないと、私はまともな生活も送れないのだな。
「ヴォレッカは、今頃領地だろうか。何事もなければいいのだが」
「たとえ何かあったとしても、あの三人がついていれば問題ありませんよ。特に武力に関しては、襲ってきた相手に同情しますね」
「……は? 三人? 武力?」
「えぇ、ジーシさんはもちろんのこと、リーゼもかなり強いですね。デーリッヒよりも強いかと」
ちょっと待て。そんな話、聞いてないぞ。
「どういうことかな?」
「言葉通りの意味ですよ。こちら側に危害を加える気もないですし、ジーシさんが何も動かれないので問題ないものかと……」
「……次からは教えてくれ」
「承知しました。申し訳ございません」
キシスが気付いているということは、ジーシも知っていたのだろう。なら、ファララス嬢は?
ファララス嬢は、本当にヴォレッカの味方なんだよな?
そこまで考えて、考えるのをやめた。信じすぎるのもいけないが、疑心暗鬼になるのも良くない。
結果的にヴォレッカがより安全に過ごせているのだから、良いではないか。
「行くとするか……」
今夜も夜会だ。
私は表向きには護国派と関わっておらず、未だに中立という立場にいる。
フレシア公爵とはサミレット領の件があり接近するのは難しいと思っていたが、まさかあちらから近付いてくるとはな。
夜会の会場へと着き、最近知り合った貴族たちと挨拶を交わしながら、フレシア公爵のところへと向かう。
果たして公爵の思惑は何か。
私を宰相派へと引き入れたいのか、はたまた護国派との繋がりに気付いて探りを入れているのか……。
「フレシア公爵」
「おぉ、ライラクス君か。どうだい? あの地味な奥方と離縁する気にはなったかな?」
「ははは、ご冗談を。我妻は世界一可愛いですよ。私の方が捨てられないか、いつも心配なくらいです」
ふざけるなよ……。という気持ちを必死に隠して笑い飛ばす。
「しかし、君とこんなに親しく話せるようになるとは。結婚は人を変えるのかもしれないな」
「えぇ、そうかもしれませんね。まさか妻を社交界に出したくないからと、自身がこんなにも必死になるとは思いもしませんでしたから」
「おや、奥方を閉じ込めたいのかい?」
「妻に近づくすべての男性が許せないのですよ。だから、社交は私の気持ちが落ち着くまで控えさせることにしました。これで妻を独り占めできるわけですから、苦手な社交も頑張れるというものです」
「そ、それで最近奥方を見かけなかったわけか……」
フレシア公爵は若干頬を引きつらせた。
これは、ファララス公爵の作戦だ。ヴォレッカに危険が及ぶのではないかと心配したが、そもそも私と結婚した時点で恨みを買っているのだから、溺愛ぶりを示し護衛を強化した方が良いと言われたのだ。
私に溺愛されているヴォレッカを傷つけると言うことは、ヘンルートゥ家に喧嘩を売るようなものなので、表立って批難されることは大幅に減るであろうと。
それに、これでヴォレッカが王都に帰ってくるまで、共に夜会に出席しなくとも怪しまれることは回避できるはずだ。
「そういえば、奥方はサミレット領出身だったかな?」
「はい。私はまだ出向いたことはありませんが、麦が実る秋は畑がとても美しいのだと妻から聞いております」
「だが、河川の氾濫で税が払えなかったと聞いている……」
「いえ、きちんと払い済みなのでご安心ください」
にこりと笑いかければ、フレシア公爵も笑みを浮かべる。
「あんな辺鄙な領地に支援するなど、君は変わっているな」
「妻を助けたいだけですよ。少しでも妻に好かれたくて必死なのです。ところで、今日は夫人はいかがされたのですか?」
「あぁ、仕立てたドレスが気に入らなかったらしく、欠席だよ」
ほぅ。王都にはいないはずなんだがな。
そのことを隠すということは、知られたくないのだろう。
「ご挨拶したかったので残念です」
「またの機会があるさ。ファララス公爵によろしく伝えておいてくれ」
……え? 何故、ファララス公爵?
私が護国派に入ったことに気付いているのか?
動揺を顔に出さないよう、不思議そうにフレシア公爵を見る。
「残念ながらファララス公爵家と縁があるのは、私ではなく妻なのです。妻がファララス公爵令嬢と親しくなったので、何度か公爵邸におじゃましているのですが、私の方は何も」
「そうか。ならば奥方から聞いてないか? ロゼリア嬢が殿下と婚約する運びになったと」
そんな話、初耳だ。
どういうことだ? 護国派の娘と宰相派の後ろ盾を持つ王太子が婚約?
「いえ、はじめて知りました。この度は、ご婚約おめでとうございます」
フレシア公爵は王太子の祖父にあたるため、祝いの言葉を述べる。
「まだ公になっていないことだ。くれぐれも内密に頼むよ」
「はい、もちろんですよ」
さて、この情報は本当なのか。
こちらの様子を探るための嘘か、はたまたファララス公爵が私に黙っていたのか……。
直接確認もするが、フーディエにも調べさせるかな。
遅くなり、申し訳ありません。
1日遅れましたが、土曜日分の更新です。




