27『運命』と赤薔薇のお茶会
「ようこそ、ファララス公爵家へ」
「お招きありがとうございます」
ロゼリア様が出迎えてくれ、温室へと案内をしてくれた。
温室に入れば、薔薇の花が美しく咲き誇っていて、思わず感嘆のため息がこぼれる。
大きな温室の中を、きょろきょろしながら進んでいくと、ひときわ大きな真っ赤な薔薇が目に留まった。
「あそこの薔薇、ロゼリア様のようですね」
「よく言われるわ」
「ロゼリア様ほど、赤が似合う方もいませんもんね。お名前の由来も薔薇からなんですか?」
「そうよ。赤い髪を見て、薔薇を思い浮かべたんですって。お父様も赤い髪なのに、笑っちゃうでしょう? さ、着いたわよ」
ロゼリア様が足を止めたそこには、真っ白なテーブルと二つの椅子が用意されている。
「……二人だけですか?」
「えぇ、言ってなかったかしら?」
お茶会をするということと、日時しか教えてもらっていなかったので頷けば「そうだったかしら……」とロゼリア様は小さく首を傾げる。
「ライラクス様に熱をあげていた私と、婚姻したヴォレッカがそろったお茶会なんて、どんなに和やかに行われたところで、社交界で面白おかしく噂されるもの。他の人を呼んだりしないわよ」
「あぁ、なるほど」
たしかに、私がロゼリア様の立場だったとしても、他の人は呼ばないだろう。
ロゼリア様にとって、私は恋敵になるはずだったんだよね……。
夜会で、きっぱりライラクスへの想いを断ち切ってくれたから、そうなることはなかったけど、何で私によくしてくれるんだろう?
どれだけ考えたところで、ロゼリア様にとっての利益が見つからない。
むしろ、私と一緒にいると、好奇の目で見られることは間違いないし、ロゼリア様にとって不本意な噂が流れる可能性だってある。
ライラクスと親しくなりたいという理由なら納得できるけれど、今はそれも違うしなぁ。
「私といても、不利益の方が多いと思うのですが……、何でお茶会に誘ってくれたんですか?」
「その不利益は、ヴォレッカが私へと意図的に与えているものなのかしら?」
「違いますけど」
「なら、問題ないわ。私が誰と一緒にいるかは、私が決めるもの。ヴォレッカ、それは余計な心配というものよ」
きっぱりと言われ、その通りだな……と思う。
「失礼しました」
素直に謝れば、ロゼリア様はくすりと艶のある笑みを浮かべた。
「別に気にしてないわよ。ねぇ、ヴォレッカは私とふたりでは嫌かしら?」
「そんなことありません。ライラクスのことで嫉妬されたり、詮索されたりするのが嫌なので、助かります」
「あぁ、それは間違いなくされるでしょうね」
だから、今日のお茶会が二人だと知った時は、正直少しホッとしたんだよね。
ロゼリア様は、そこらへんも考慮してくれたのかもなぁ。
なんてお話しているうちに、目の前にはケーキやクッキー、フルーツなどが並び、温かな紅茶もティーカップへと注がれた。
「用があったら呼ぶから、全員下がってちょうだい」
人払いをすると、ロゼリア様は紅茶へと口を付けた。
美しい所作に目を奪われていれば、ソーサーにカップを置いたロゼリアと視線が交わる。
「リーゼはうまくやっている?」
「はい。あまりにも優秀なので、本当に来てもらっていいのかと思うほどですよ」
「そう……。それなら、良かったわ」
どこか安心したように言うと、ロゼリア様は立ち上がり、空のお皿を手に取る。
「どれを召し上がるかしら?」
「……まさか、ロゼリア様が取ってくれるんですか?」
「そうよ」
当然のように言うけれど、公爵令嬢のロゼリア様にケーキを盛ってもらうわけにはいかない。
ここは、私がやるべきだ。
「自分でやりますし、ロゼリア様の分も私が取るので、座ってください」
「客人にさせるわけにはいかないわ」
「いえ、私も家格が上のロゼリア様にやってもらうわけにはいきません」
「……二人きりなんだから、別にいいじゃない。決めないなら、私のおすすめを盛るわよ」
そう言って、チョコレートケーキとチーズタルトを皿へとサーブしてくれる。
「ありがとうございます」
「二人きりの時は、家格のことは考えないでくれると助かるわ。あれ、線を引かれているみたいで、嫌なのよ」
「分かりました」
なるほど。言われてみれば、そうだよなぁ。
でも、私からその差を崩すことはできないし、言ってもらえて助かった。
気持ちをハッキリ言ってくれるから、ロゼリア様と一緒にいるのってちょっと楽だわ。
「わっ! このチョコレートケーキ、濃厚でめちゃくちゃ美味しいですね」
「でしょう? そっちのタルトはレモンの風味がしてさっぱりしてるのよ」
「それ、この二つで無限に食べられるやつじゃないですか」
「分かってるじゃない。最強コンボよ」
なんて言いつつも、ロゼリア様はクッキーを食べている。
「ロゼリア様は、おすすめしてくれたケーキじゃないんですね」
「その組み合わせは、ストレスが限界を超えた時の最後の砦だから、普段は封印しているのよ」
「……そうですか」
「これから先、ストレスが増えそうだし、その時に思う存分食べることにするわ」
そう言ってロゼリア様は笑うけれど、目がまったく笑っていない。
「ヴォレッカは、普段どうやってストレスを発散するの?」
「そうですね、掃除が多いでしょうか。汚れを無心でひたすら落としていくと無になれるといいますか……」
「無心になれるって、たしかに大事よね。掃除だと、試せなさそうで残念だわ」
ロゼリア様が掃除を始めたら、お屋敷内が大騒ぎになりそうだもんなぁ。
「ストレス発散方法を探しているんですか?」
「えぇ、限界を超えそうになる度に、大量にケーキを食べるのでは体に悪いでしょう? 何か、別の方法があればいいと思って」
「無心になれる系でしたら、刺繍とか、絵を描くとかはどうですか?」
「やったことはあるのだけど、集中できなくて刺繍は指が血だらけになって、侍女に止められたわ。絵は好きなんだけど、私の絵を見ると侍女が泣くのよ。怖いんですって」
えっと、泣くほど怖い絵って、何だろう。
「いつもリーゼが一番泣いていたわね……」
どこか懐かしそうに言う姿に、リーゼのことを大切に思っているのが伝わってくる。
「ロゼリア様とリーゼって、仲がいいんですね」
「そうだったかもしれないわね。主人と侍女という関係だけど、少なくとも私は良好な関係が築けていたと思っていたわ。……どうしてリーゼを紹介したか、聞かないのね」
「それについては、もう教えていただいてますから」
キシスの筋肉に惚れ込んだからだって。
実際は、他にも理由はありそうだけど。
「言いたくなければ、言わなくていいですよ。でも、リーゼにとって、必要なことなら教えてもらえると助かります」
「……ヴォレッカに、リーゼをお願いして良かったわ」
「人手不足なので、ものすごく忙しいですけどね」
私の言葉に、ロゼリア様は小さく笑みを浮かべる。
そして、意を決したように口を開いたけれど、続いた言葉は世間話であった。




