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【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして【連載版】  作者: うり北 うりこ@ざまされ2巻発売
本編

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21/45

21『運命』ではなく、好みの問題ということで

 

 大事なことなので二度言った私とライラクスをファララス公爵令嬢は交互に見た。

 

「その証拠が私です」

 

 ハッキリきっぱり言い切ると、その場は静寂に包まれた。

 

「何を言ってるんだ。ヴォレッカは可愛いじゃないか」

 

 あぁ、何てバッチリなタイミングだろう。

 ライラクスに注目が集まり、その視線は生暖かく、中には残念なものを見るような、憐れみ交じりのものもある。

 

「お分かりいただけましたか?」

 

 恐ろしい説得力を持って、皆が一様に頷いた。

 

「つまり貴女は、自分が平凡だから愛されたと言うのね」

「ライラクスの好みに合ったのかと。そうでなければ、ファララス公爵令嬢が選ばれない理由はありませんから」

「なるほど……」

 

 そう言うと、ファララス公爵令嬢は少し考えるように一度口を閉じると、まっすぐに私を見る。

 その目にはもう怒りはない。

 

「貴女、名前はヴォレッカと言ったわね」

「はい」

「ヴォレッカ、貴女よりも平凡な令嬢がライラクス様にアプローチしたらどうなさるの?」

「問題ございません。それは、平凡ではありませんから」

「どうして?」

「真に平凡なものは、旦那様の美しさに己が釣り合うとは考えられず、自らアプローチはできませんので」

「そう、平凡さを求められるけれど、平凡な令嬢は恐れ多くてライラクス様にアプローチもできないのね……」

 

 クスクスと可笑しそうにファララス公爵令嬢は笑う。

 

「ねぇ、ヴォレッカ。私をあんなに煽ったのは、これを言うためかしら?」

「何のことでしょう」

 

 しらばっくれるように言うけれど、ファララス公爵令嬢は楽しいと言わんばかりの表情を崩さない。

 

「私、ライラクス様を追いかけるのはやめるわ。私の美しさを理解できない方などこちらからお断りよ。それに、女性に守られるようじゃね……」

 

 チラリとライラクスを見て、ファララス公爵令嬢は言う。

  

「ライラクス様より、ヴォレッカに興味が出てきたわ。貴女、面白いわね。ねぇ、今度我が家のお茶会にいらして? うちのパティシエのスイーツは格別よ」 

「いいんですか!?」

 

 格別なスイーツってどんなのだろう。コクーの食事やお菓子もおいしいけれど、美味しいものはどれだけあってもいいよね。

 

「もちろんよ。ライラクス様、今まで申し訳ありませんでしたわ」

 

 驚くほどあっさりとファララス公爵令嬢は謝罪を口にした。

 恋が冷めるとはこういうことなのだろうか。

 未練も恋情も、もうそこには残っていないように見える。

 

「あぁでも、媚薬を入れたのは私じゃありませんわよ。あれ、私もいただいたものでしたの。折角なら、まったく振り向かない貴方に嫌がらせの一つでもして差し上げたかったんですの」

 

 清々しい顔でそう言うと、ファララス公爵令嬢は去っていった。

 

「何か、思ったよりあっさりでしたね……」

「…………」

「ライラクス?」

 

 え、何でむくれてんの?

 解決したんだから、良くない?

 

「ヴォレッカを最初に見つけたのは、私だ」

「はぁ……」

「まさか、私より彼女を選ぶのか?」

「選ぶも何も、お茶会に誘っていただいただけですよ」

「私とは、お茶会をしたことなどないではないか」

「ライラクスは忙しいですからね」

 

 これはあれか?

 私がファララス公爵令嬢とお茶会の約束をしたから拗ねてるのか?

 仕方がないなぁ。

 

「今度、ケーキでも焼くので一緒にお茶会しましょうか。何ケーキがお好きですか?」

「……ヴォレッカ、ケーキを作れるのか?」

「えぇ。パティシエ並みのものを期待されても困りますが。割と何でもこなせますよ。貧乏だったんで」

 

 侍女はいたけど、一人だったしね。

 

「私も一緒に作れるだろうか……」

「せっかくなので、一緒に作りますか。それなら、チーズケーキとかどうです? 初心者でも比較的作りやすいですよ」

 

 そう言うと、ライラクスはパァッと嬉しそうに笑う。

 

「────っ!!」

 

 び、ビックリした……。

 美しい人が満面の笑みを浮かべると、この世のものと思えない輝きを放つのかぁ。破壊力が尋常じゃないわ。

 あぁ、せっかく平凡好きだと思ってもらったのに、これじゃあ諦められない人が続出しちゃうよ……。

 念のため、仲良しアピールは継続しよう。

 まだコクーの『あーんって、食べさせ合う』案が残っている。

 

「お、ダンスが始まったな。ヴォレッカ、一緒に踊ってくれるだろうか」

 

 うやうやしくライラクスから差し出された手を握り、ダンスの輪の中へと入っていく。

 

「言っておくけど、あとにも先にも私が可愛いと言ったのも、思ったのも、ヴォレッカだけだからな」

「はぁ、そうですか」

「何でこんなに伝わらないのか……。まぁいい、じっくりやるよ。時間はたっぷりあるからね」

 

 ……一体、何の話をしているの?

 そう思って見上げれば、ライラクスは誰もを魅力するほどの美しい笑みを浮かべている。

 

 あとで、外で笑うの禁止にしようかな。

 そうしないと、ライラクスに心を奪われる人が増える一方だ。

 あぁでも、笑わなかったら笑わなかったで、クールで素敵だとでも言われるんだろうか。

 何をしても美しいって、ものすごく不便だ。

 


 

 

やっと、短編のところまで終えましたー!!

短編の10倍の長さになりましたが、ここまでお付き合いいただきありがとうございます!!

まだまだ続きますので、引き続きお楽しみいただけますと嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
いい落としどころですね、「好みの問題」 誰の心も傷つけず、プライドも保てる。 素晴らしい! …ちなみに「ブス専」「デブ専」(失礼)という言葉はあっても 平凡好きはなんていうんでしょうね…平専? それ…
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