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【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして【連載版】  作者: うり北 うりこ@8/1ざまされコミカライズ①発売
本編

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22/46

22『運命』は、家紋について知る

 

 夜会が無事に終わった次の日、すっかり寝過ごした私は昼まで寝ていた。

 起きた時には、となりにライラクスはおらず、冷たくなっているシーツからずいぶん前にライラクスが起きたことが伝わってくる。

 

「ライラクスは、今日も忙しいんだろうなぁ。あー、寝すぎて頭痛い……」

 

 昨日の夜会は慣れないことをたくさんしたから、いつもより疲れたもんなぁ。

 だからと言って、寝すぎたけども。

 みんなからのライラクスに纏わりつく女性を牽制(けんせい)する方法のおかげで、すごくうまくいった気がするからお礼しなきゃ。

 何がいいかな……。

 

 結局、スーホの『はにかんだ笑みを向ける』案と、キシスの『ふたりだけの世界に浸る』案は、どうすればいいのか分からなかったけど、今後のためを考えたら習得したいよね。

 まぁ、テンガンの『人前でキス』案は絶対にやらないけど。

 

「奥様、起きられましたか?」

「お疲れでしょうから、本日はゆっくり過ごしてくださいね」

「あとでマッサージしましょうかね」

 

 アーネ、ミナー、ジリルが優しく声をかけてくれる。

 

「ありがとう。お言葉に甘えて、今日はゆっくりさせてもらおうかな」

「そもそも奥様は働き過ぎなんですよ」

「そんなことないと思うけど」

「いーえ、そんなことあります。どこの奥様が率先して掃除や洗濯をするって言うんですか」

「だって、やることないと暇だし」

「その時間に読書や刺繍、お買い物などを楽しまれるのが一般的ですからね」

 

 一般的と言われても、困るんだよね。

 たしかに読書は好きだけど、それは色々と終わった隙間時間にやってるし、私にとっての刺繍はお小遣い稼ぎやドレスのリメイクのためのものだ。買い物に至っては、自分のお金じゃないのに無理だよ。

 そもそも、ドレスとか装飾品に興味ないし。

 

 あ、でも、今日は刺繍をしようかな……。

 

「ねぇ、今日は刺繍をしようと思うんだけど、無地のハンカチとかある?」

「もちろんでございます!」

 

 嬉しそうにアーネはハンカチを、ミナーは色とりどりの刺繍糸と道具を、ジーネは刺繍の図案の描かれた本を持って来てくれた。

 もしかして、こういうのをずっと期待されてたとか?

 

「ささっ、紅茶でございます。他に何か入り用なものがありましたら、何なりとお申し付けくださいませ」

「ありがとう。これだけ揃えてくれたら、大丈夫だよ」

 

 そう答えたものの、三人はじっと私を見てくる。

 

「何か?」

「いえ、珍しくてつい……」

「心配しなくても、ヘンルートゥ家に来る前はよく刺繍してたし、針で指を刺したりしないから安心して」

「そういうつもりではなかったのですが」

「そうなの? あんまり見られてると緊張するし、できたら見ないでもらえると助かるんだけど……」

 

 だって、これは屋敷のみんなへのお礼を作るためにもらったんだし。

 って、あれ? この家の備品を使って作るんじゃ、お礼にならない?

 いや、そこを考えたら何もできなくなる。

 

 アーネ、ミナー、ジリルを部屋から追い出し、刺繍の図案を見る。

 あ、折角だし花言葉とかも調べたいな。ちょっと図書室に行こうっと。

 

「いつ見ても、すごい量の本だなぁ」

 

 この図書室の本は、お義父様が屋敷からお義母様がほとんど出られなくなった時に、ドンドン買ってきた書物が大半を占めていると聞いている。

 大切に扱わないとな……。

 そう思いながら一冊の本を手にする。

 ぱらりぱらりとめくっていくと、一つの花の名前で手が止まった。

 

「ヘンルーダ?」

 

 なんか、この花ってヘンルートゥ家の家紋に似てる?

 でも、花言葉は悔いや哀れみだ。その花を家紋に使うかな?

 そう思って読み進めていけば、悔いも哀れみも故人を(しの)ぶ、敬意を表すためのものだと記されている。

 

 その内容に、ジーシから習ったヘンルートゥ家の成り立ちについて思い出す。

 王家の圧政により国が傾いた時、立ち上がった者たちがいて、そのうちの一人が初代ヘンルートゥ伯爵だったと聞いている。

 もしかして、初代伯爵は後悔していたのかな。

 いや、後悔とまでいかなくても、もっと他の手立てがあったのではないかと考えたのかもしれない。

 何て、考え過ぎかな……。

 

「あれ? ヴォレッカじゃないか」

「ライラクス……。何か調べものですか?」

「まぁね。ヴォレッカの方もかい?」

「はい」

 

 そう頷いた私の手にしていた本をライラクスは覗き込む。

 

「あぁ、家紋の花か。他の家紋は鷹とか北極星(ポラリス)とかなのに、変わってるだろう?」

「そうですね」

「ヴォレッカは、どうしてヘンルートゥ家の家紋がこの花だと思う?」

「革命を起こしたけれど、悔いもあったからとかですか?」

「そうかもしれないね」

 

 じっとヘンルーダの花を見て、ライラクスは呟いた。

 

「他の意味もあるんですか?」

「どうだろうね。もう本当の意味を知ることはできないけど、こうも思うんだ。革命を起こさなければならないほどの状況まで追い込まれるまで、何もできなかった。そうなるまでにあまりにも多くの命が失われてしまった。そのことへの後悔なんじゃないかってね」

 

 あぁ、それで追悼(ついとう)の場でよく使われる花を選んだのか……。

 

「あくまでも、私の想像だけどね」

「でも、何だかすごく納得しました。ヘンルートゥ家は代々優しすぎるんですね」

「どういうことだい?」

「だって、革命に関わった英雄の一人になったわけじゃないですか。それこそ希望や勝利の意味を持つモチーフで家紋を作ったっておかしくないのに、故人を偲んだんです。きっと、誰よりも優しい英雄だったんだろうなと」

 

 そう言った私を見て、ライラクスは優しく笑う。

 

「ありがとう」

「何がですか?」

「そう思ってくれて、嬉しかったんだよ」

 

 その顔を見て、ライラクスの刺繍は家紋にしようと心に誓う。

 きっと喜んでくれる。

 まぁ、ライラクスなら、どんなモチーフでも喜んでくれるだろうけど。

 

今回は、日常回でした!!

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