19『運命』と紹介されまして
そして、今日は夜会の日。
「奥様、息吐いてください」
「も、無理……」
「大丈夫ですよ。まだいけます」
「そうですよ、頑張ってください」
アーネ、ミナー、ジリルの三人にコルセットをしめられ、値段の見当もつかない高級ドレスを身に纏う。
お義母様が私にと買ってくれたドレスと装飾品が大活躍だ。
私はライラクスの瞳を彷彿させる紫色のドレスを身に纏い、これまたライラクスの髪色の白銀の装飾品を付けた。
ライラクスは、私の髪と瞳の色の、茶色の燕尾服だ。
茶色の髪と瞳は一般的な色なので、私の色を纏っているとは分かりにくいが、私がこれだけライラクス色を纏っているので、相思相愛感がでているんじゃないかな。
「どうですか、私の思いついた作戦は?」
「すごくいいね。こんなにも私の色を纏っていれば、ヴォレッカにちょっかいを出す男はいないだろうし、安心して夜会に行けるよ」
「はい? 何を言ってるんですか? 私が言いたいのは、一目で想い合っている感が伝わりますよねってことですよ」
「うん、その点もいいと思う。ヴォレッカ、可愛いよ」
「そりゃどうも。ライラクス様は今日も光り輝いてますね」
こりゃ、駄目だ。会話が成立していない。
それにしても、ライラクスは今日も本当に眩しいほど美しい。
隣にいたら私の姿が見えなくなるんじゃないかな……と思うほどだ。
馬車に乗り、ファララス公爵家へと着いた。
ヘンルートゥ伯爵家も大きいが、さすが公爵家。更に大きい。
ふかふかの絨毯の上は、ヒールの音一つ鳴らず、どこもかしこも掃除が行き届いている。
会場につき、扉を潜った瞬間、たくさんの視線に晒された。
私一人の時は、まるで空気のようだったのに、すごい差だよなぁ。
ま、思わず目を奪われる美丈夫だし、こうなるか……。なんて、変に感心してしまう。
チラリとライラクスを見上げれば、微笑まれた。
「緊張している?」
「いえ、ただすごい視線の数だなって思ってるだけですよ」
「あぁ、なるほど。大丈夫、そのうち慣れるよ」
そういうものだろうか。
ライラクスのそばにいるようになるまで知らなかったけど、人の視線ってこんなにも鬱陶しくて、時に突き刺さるんだなぁ。
まぁね、そういう目で見たくなる気持ちは分かるよ。何であなたが? と言いたいんだよね。
まさかライラクスに興味を示さなかったからだなんて、誰も思わないだろうし。
「では、さっそくイチャイチャしましょうか」
そう言いながら、そっとライラクスの腕に乗せていただけの手をするりと動かして、ぺたりとくっつく。
すると、ライラクスは目を見開いた。顔は赤く染まり、何か言いたげにあわあわと口が動いている。
「恥ずかしいと思いますが、我慢してくださいね」
ライラクスの耳元に顔を寄せ、声をひそめて伝える。
「イチャイチャについて、策はありますから。任せてください」
イチャイチャについて屋敷の皆に聞かれたくないとライラクスが言っていたので、ライラクスに纏わりつく女性を牽制したいという旨で技を教えてもらっている。
いくつかは実践不可だけど、可能なものはとにかくやる。
今は、アーネ、ミナー、ジリル直伝の腕組みと、ジーシ案の耳打ちを実施中だ。
因みに、御者のスーホ案のはにかんだ笑顔は、どうやっても身につけられなかった。
「あの、確認したいんですけど、自分に自信のある美女と親しくなれなくなってもいいですか?」
「そんなことが可能なのか?」
「うまく行けばですけど。もしかしたら、そのうちそうなったことを後悔するかもしれませんが」
「そんなことはない。もし、できたら最高だよ」
目を輝かせたライラクスに、ほぅ……と感嘆のため息を吐く女性たちが目に入る。
慣れたとは言っても、嬉しくはないんだろうなぁ。
そう思っていれば、赤い髪の美女が真っすぐに私たちの方へと歩いてきた。
「ライラクス様」
艶のある声でライラクスを呼ぶ。
あれ? この人、ライラクスと一緒にいるところ見たことがある。
たしか『運命』とか言われた日に、ライラクスといた人だ。
「彼女がロゼリア・ファララス公爵令嬢だよ。ファララス公爵家の赤薔薇と呼ばれる社交界の花だ」
おぉ、そんな二つ名を持っているのか。
たしかに、薔薇のように美しい人だ。媚薬入りの飲み物をライラクスに渡したりと、美しいのに棘を持っているところも薔薇っぽい。
「来てくださって嬉しいですわ」
ライラクスにだけファララス公爵令嬢は微笑むと、そこ、どいてくれる? という視線を私に向けた。
まぁ、彼女からしたら私は邪魔だもんね。当然、どくわけにはいかないけど。
「ファララス公爵令嬢、紹介するよ。妻のヴォレッカだ。私の『運命』なんだよ」
そう言って紹介され、私はにこりと微笑む。
「はじめまして。ヴォレッカ・ヘンルートゥと申します。ライラクスがいつもお世話になっております」
そう言った瞬間、ファララス公爵令嬢からだけではなく、周囲にいる女性たちからも強い視線を向けられる。
ヒソヒソと何かを言う人が多い中、社交界の花は笑みを深めた。
その笑みに、戦いのゴングが鳴った気がした。
久々の朝更新です。
やっと、ここまでたどり着きました。
短編の加筆修正を終えるまであと2話です。




