15『運命』は、報告と連絡を望む
なんて思っていたら、ジーシに聞く前に結婚式の話題となった。
「ライラクスとヴォレッカの結婚式まであと一年弱か。どうだ? 準備は順調か?」
そう聞くお義父様に旦那様が頷いている。
「そうだね。教会の予約は済んでいるし、ジーシに聞きながら進めているよ」
「ライラクスが結婚式に参列したのって、子どもの頃が最後だものね。あれからずいぶんと変わったでしょうし、私に手伝えることがあったら気兼ねなく言ってちょうだいね」
「ありがとう。でも、母上は自分のことをまず一番に考えていて。絶対に式に参列してほしいからさ」
三人が話しているのを聞き情報収集をしていると、あることに気が付いた。
この結婚式、もしかして私の両親も参列するやつじゃない?
「旦那様、結婚式の季節はいつですか?」
「春だよ。って、言ってなかったっけ?」
「聞いてませんよ」
自分が聞かなかったことを棚に上げて、思わず恨みがましく言えば、旦那様は「そうだっけ?」と首を傾げる。
「伝え忘れてたのかな。ごめんね?」
「いえ、日取りが決まっているのなら、両親に伝えなければと思っただけですから」
「そこは心配しなくても大丈夫だよ。もう伝えてあるから」
「…………え?」
「ヴォレッカのご両親の予定も聞かずに、日取りを決めたりしないよ。秋は収穫で忙しいから、その時期はずらしてほしいと返事をもらっている。それに、ヴォレッカの故郷での結婚式も決まったしね」
私の知らないところでドンドン話が進んでるんだけど……。
しかも、まったくと言って私に情報共有がされていない。
もしかして、一人でいる時間が長すぎて、他者と情報共有をするという考え自体がないとか?
でも、この屋敷の人たちとはいたよね。それって、私には言う必要がないってやつなのかな。
私も関係している話だけに、ちょっとモヤモヤするなぁ。
「サミレット領での結婚式は、秋の収穫祭の時に祝うということであってますか?」
「そうだよ。その年に結婚する夫婦を、収穫祭の時に領全体で祝福するのが伝統なんだってね」
「それぞれの町や村で祝ってるので、ただ結婚する日が領内はみんな同じになるだけですよ」
「うん。だけど、サミレット領にとっては、大切な祝い事なんでしょう?」
たしかに旦那様の言う通り。その日はサミレット領にとって特別な日だ。
収穫祭も結婚も、全部まとめてお祝いして、朝から晩までどんちゃん騒ぎ。三日三晩続けるそれは、領民たちの数少ない楽しみになっている。
ただ、昨年、一昨年は大河の氾濫で、お祝いムードもなかったけれど。
それでも、その日は結婚式をして祝った。新たな夫婦に幸せがたくさん訪れるようにと。
「はい。お気遣い、ありがとうございます」
まぁ、悪い人ではないんだよね。こっちのことも気遣ってくれてはいるし。
とにかく情報共有してほしいということは、あとでしっかり伝えておこう。
だけどその前に、大きな問題がある。
それもあとでかなぁ。お義父様とお義母様の前では、ちょっと言いにくいし。
なんて思っていたら、お義父様が口を開いた。
「その収穫祭、ライラクスが行っても本当に大丈夫なのか?」
「そうね。もしかしたら、他所の花嫁さんがライラクスに心奪われるかもしれないわよ」
私の心配事は、あっさりとお義父様とお義母様が口にした。
普通に考えたら、そんなことあり得ないと思うけど、旦那様なら大いにあり得るのだから、困ったものだ。
「仮面をつけるから大丈夫だよ」
「……それだと、ヴォレッカに迷惑がかかるんじゃないかい? 変な人に嫁いだと思われるかもしれない」
「そうならないように、顔に傷があるとでも嘘をつかせてもらおうと思ってる。私を特別扱いしないそんなヴォレッカだから心を救われて、必死に求婚したと話してくることにするよ」
「いいアイディアかもしれないわね。惹かれた理由は事実なのだし、説得力もあるわ」
何だか上手く纏まりそうな雰囲気だけれど、ちょっと待ってほしい。
「あの、家族にこっちの結婚式に来てもらえれば行かなくても──」
「そうはいかないよ。ヴォレッカ、故郷が好きなんだろう?」
「そうですけど。普通に帰省するだけで十分ですよ」
「うん。ヴォレッカはそうかもしれないね。でも、私はヴォレッカのご両親に領民から祝福されているヴォレッカを見せたいんだよ」
その言葉に、もう何も言い返せなかった。
私だって、両親にその姿を見てほしいと思っていたから。
だけど、お金のために結婚しようと決めた時に諦めていた。
「ありがとうございます」
旦那様は困ったところも多いけれど、こうやって当たり前のように私の大切な人を一緒に大切にしてくれる。
仮初の妻を相手に、そこまで気を遣ってくれる必要はないはずなのに。
いい人を通り越して、お人好しだよなぁ。
「ねぇ、その収穫祭って、私たちも参加できるのかしら」
わくわくとした声でお義母様が言う。
「はい。誰でも参加できますよ。ただ、王都からだと片道一週間かかってしまいますが」
「そう……なのね」
しかも、道中にある貴族向けの宿が故郷に向かえば向かうほど減っていく。
お体の弱いお義母様には、酷だろう。
「私、行けるように体調を今から整えるわ」
決意を込めた声でお義母様は宣言をした。
「その前に、王都の結婚式があるからね」
「そうね。そっちも頑張るわ」
あまり無理はしないでほしいけど、やる気を出したお義母様のことを、お義父様があまりにも嬉しそうに見ているから、その言葉はのみ込んだ。
「お義父様とお義母様が、故郷まで来てくださったら、嬉しいです」
代わりにそう言えば、二人は嬉しそうに笑ってくれた。
次の日の朝、静養先へと帰るお義父様とお義母様を見送りるために、馬車の前にみんなが集まった。
「気を付けて」
「えぇ、ライラクスも無理しないでね」
「ヴォレッカ、ライラクスをよろしく頼む」
お義父様とお義母様は、使用人全員にも声をかけると、馬車へ乗り込んだ。
走り出した馬車を旦那様の隣で見送る。
「さみしくなりますね」
「そうだね。でも、直に会えるから大丈夫だよ」
「……一年は直じゃないと思いますけど」
直に会えると聞いていたのが一年後と知った時、結婚式というワードに頭が引っ張られてたから気にならなかった。
だけど、やっぱり一年は長いと思う。
「そうだろうか。ヴォレッカと屋敷の皆がいてくれたら、すぐだと思うよ」
そう言って柔らかく笑った旦那様は、やっぱり美しくて、その眩しさに思わず目を細める。
「ま、旦那様がさみしくないならいいです。それよりも、報告と連絡は、きちんとお願いします」
「何の話をしているんだい?」
「結婚式です! どうして、当事者の私が知らないんですか」
「あぁ、言ったら拒否されるかと黙っていただけだよ。私の両親の前では断らないだろうと思って、今日まで言わなかったんだ」
その言葉に、ぴきりと顔が引きつった。
「……さっき、言うのを忘れたふりをしたのは何だったんですか?」
「そうしないと、両親に仲を疑われるだろう?」
へぇ、言う必要がないとかでもなく、単に私の逃げ道をふさいだってわけか。
「旦那様、二度とこのようなことはなさらないでくださいね?」
「それは、難しいかもしれないな」
笑顔で言い放った旦那様に腹が立つ。
「このこと、アーネたちに言っときますね?」
「え? それは、ちょっと待ってくれないかな……」
「嫌です」
私が言っても駄目なら、他の人に言ってもらうしかないもんね?
このあと、当然ながら旦那様はアーネたちからお説教されることになったのであった。
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