14『運命』でなくても、結婚式は必須の模様です
お義父様とお義母様が帰ってきてから、十日ほど経った。
私と旦那様は同じ部屋で寝ているものの、実は毎晩攻防戦が続いていたりする。
「だーかーらー、こんなに広いんですから同じベッドで寝てください。それが嫌なら、私がソファで寝ます」
「いくら私とて、同じベッドは無理だ。それに、ヴォレッカをソファで寝させられるはずがないだろう?」
え? 大人五人は優に入れるベッドで、無理ってどういうこと?
「私、そんなに寝相悪くありません。それに、襲わないから安心してください」
「逆の可能性を考えたりしないのか?」
「旦那様、そんなに寝相が悪いんですか?」
そう聞いた瞬間、旦那様は何とも言えない表情をした。
「何ですか、その表情は」
「ヴォレッカ、自身が女性であるという自覚は?」
「ありますよ」
「なら、どうして自身が襲われるかもしれないと思わないんだ……」
そんなこと言われても……。
私と旦那様が並んでいて襲われるとしたら、百人中百人が旦那様を襲うと思う。まぁ、中には物好きも存在するかもしれないし、千人、いや……一万人くらいいれば、一人くらいは私を襲う可能性もゼロではないかもしれないけども。
「旦那様はまさか一万人のうちのお一人なんですか?」
見目も良く、性格も穏やかな方に入るであろう旦那様の欠点は、女性の趣味の悪さ……なんてね。
あり得ないな。
「何だ、その一万人って」
「……別に何でもありません。で、旦那様は、私を襲うんですか?」
「そんなことするわけないだろ!」
「ですよね。だから、今日は大人しく同じベッドで寝ましょう」
そう言って、旦那様をベッドへと連れていく。
すると、旦那様はベッドの真ん中にクッションで境界線を作り始めた。
「こっちに入ったら駄目だからな」
「はいはい、分かりましたよ」
顔を赤くして言う旦那様に、私よりよっぽど旦那様の方が乙女だな……と思う。
「まぁ実際、既に私と旦那様は婚姻関係にあるので、子どもが生まれても問題はないんでしょうけどね」
あ、その場合は旦那様が再婚した時に、お世継ぎ問題が発生するのかな?
でもそうなったら、子どもは私が引き取るし、相続を放棄すればいいか。
ま、絶対に起こりえないから考えるだけ無駄って……、何で旦那様は真っ赤なの?
「冗談ですから、安心してください。もう遅い時間ですし、さっさと寝てしまいましょう。明日は、お義父様とお義母様が屋敷にいる最後の日なんですから。では、おやすみなさい」
そう言いながら旦那様に背を向けて目をつぶると、あっという間に寝てしまった。
次の日の朝、目を覚ませば旦那様がソファに座って本を読んでいた。
「おはようございます。随分、早いんですね」
「ん? あぁ、そうだね」
そう言った顔には、疲労が濃く滲んでいる。
これは、あれだな。ご両親が帰ってしまうのがさみしくて、あまり眠れなかったのだろう。
「さみしくなりますね」
一瞬だけキョトンとした表情をしたあと、旦那様は小さく笑う。
「でも、また直に会えるよ」
「そうなんですか? でしたら、さみしいけれど、楽しみでもありますね」
「楽しみ?」
「はい。次に会うまでにあった色んなことを話す楽しみです」
「なるほど。だが、残念ながら次に会った時はゆっくり話す暇もないかもしれないな」
「そんなにお忙しいんですか?」
私が首を傾げれば、旦那様も首を傾げてしまう。
「そうだね。両親にばかり時間はかけられないだろうから」
「へぇ……、なるほど」
「…………ヴォレッカ、とりあえずで返事するのはやめようか」
お、バレてる。時々、妙に鋭いんだよなぁ。
「すみません。なんで、そんなに忙しいんですか?」
「そりゃ、結婚式に来てくれた人への挨拶回りがあるだろうし、下手したら食事をする暇も取れるかどうか……って、どうかした?」
どうかしたかじゃない。初耳なんだけど。
「結婚式、するんですか?」
「私には、しない意味が分からないのだけど?」
「その話題が出ないので、しないんだと思ってました」
旦那様は頭を抱え、ため息をついた。
けど、頭を抱えたいのも、ため息をつきたいのも、私の方である。
「結婚式って、絶対にしないと駄目ですか?」
「駄目ってことはないが、した方がいい。しないと、ヴォレッカが私に冷遇されていると思われるんだよ」
「あーー、そういうことでしたか」
なるほど、それは旦那様の女性避けのためにも必須案件だろう。
嫌だけど、避けては通れない……か。
「分かりました。できたら、最小限で──」
「そんなこと、できると思うか?」
「と、いいますと?」
「由緒正しきヘンルートゥ伯爵家と付き合いの多い貴族は多いんだよ。私個人の友人はいなくともね」
にっこりと笑みを浮かべた旦那様に、なんと返せばいいのか分からず愛想笑いを浮かべれば、旦那様はスッと瞳を細めた。
「だからね、結婚式はそれなりに盛大なものとなるんだよ。その日が近くなれば、両親がいる静養先の別邸から多くの使用人が来ることになっているから。分かったかな?」
「はい……」
頷きつつ、その結婚式は一体いつなのだろう? と思う。
うん、なんか旦那様には聞きにくいし、あとでジーシに教えてもらおう。
それで、結婚式までにまだ時間があるのなら、その前に一度里帰りをさせてもらわなくちゃ。
エリオットに帰ると約束したのだ。
約束は、守らないと。




