13『運命』は、武器を手に入れる
「ここからここまで、すべていただくわ」
にこにこと当たり前のように言うお義母様に、高級ドレス店の店員さんもにこにこだ。
この場で顔色を悪くしているのは私ぐらいのものだろう。
「ねぇ、ヴォレッカはどれが好きかしら? 一先ず、似合いそうなものは購入したけれど、まだまだ足りないわよね」
「あの、さっきのドレスはお義母様のですよね?」
「ふふっ、冗談が上手ね。あのデザインでは、私には若過ぎるわよ。ヴォレッカのものに決まっているわ」
ですよねー。
そんな気はしてました。
でも、何故にレースもフリルもふんだんに使った可愛い系デザインばかり……。どう考えても、私には似合わない。
というか、そんなにドレスばかり買ってどうするの?
「お義母様、そんなに私には必要ありません」
「そんなことないわよ。ライラクスも色んな可愛いヴォレッカを見たいはずだもの」
曇りなき眼で言われ、言葉に詰まった。
旦那様なら、また馬鹿なことを言っていると流せるのに……。
「それにね、これはヴォレッカへのお礼でもあるのよ」
「特に感謝されるようなことは、何もしてませんよ」
「ヴォレッカにとっては、そうなのかもしれないわね。でも、あなたのおかげで、久しぶりにライラクスの楽しそうな顔が見れたの。嬉しかったわ……」
そう言ってお義母様は微笑むけれど、その表情には陰りが見える。
「本当は私たちがあの子を守らなければならなかったのに、できなかった。私なんて、逆に心配をかけてしまったくらいだもの。何もできない自分がふがいなかったし、ライラクスを置いて静養へと行ってしまったことをずっと後悔していたわ。だけどね、帰ってきたらまるで変っていたのよ。きっと、ヴォレッカがライラクスを変えてくれたのね」
「……そんなことは。私が出会った時から、旦那様は今のようでしたよ。それに、お義父様もお義母様も、ずっと旦那様の御心を守っていたのだと思います」
だって、旦那様はおふたりのことも、屋敷の人たちのことも、とても信頼しているから。
「そうじゃなければ、誰にも心を開くことができなくなっていたのではないでしょうか」
「ヴォレッカ……」
お義母様に、ギュッと抱きしめられる。
その腕は白く、少しでも力を入れたら折れてしまいそうなほどに細い。
「あなたがライラクスの妻になってくれて本当に良かった……」
安堵を滲ませた声に、申し訳なくなる。
私と旦那様はいつか終わりの来る関係で、そのいつかは近い未来なのか、ずっと先の話なのかさえも分からないけれど、私は仮初の妻なのだ。
お義母様の期待には、応えられない。
それでも、もしお義母様の心の憂いが少しでも晴れるのであれば、今はこれでいいと思ってもいいだろうか。
そうしないと、お義母様の目を見て笑えそうにない。
「ヴォレッカには、いくらお礼をしても足りないくらいだわ」
「そんなことありませんよ。旦那様には、故郷を助けていただいてますから」
「そのことなら、私も少し聞いているわ。大変だったわね」
「はい。でも、旦那様のおかげできっと秋にはたくさんの麦が実ります。陽の光を浴びた黄金色の麦畑は、本当にキレイなんですよ」
「そうなの……。一度見てみたいわ」
そう言うお義母様を見て、旦那様にも屋敷の方たちにも、田舎領地だと言われたことがないことを思い出す。
イイ人たちだよなぁ……。
「そうだわ! 装飾品は、麦畑を連想するような黄金色の物も購入しましょう。それに合わせて、シックなドレスもいいわね」
「いや、これ以上ドレスはいりませんよ。普段は着ませんし」
「駄目よ。ドレスも装飾品も、女性の武器なの。それがヴォレッカを守ってくれることもあるわ。これでも私、一時は社交界の花なんて言われてたのよ? どうすれば、厄介なことを少しでも避けられるのか、少しは知ってるつもり。力にならせてちょうだい」
そっか。私のことを心配してくれていたのか。
正直、こんなにドレスはいらないという気持ちもやっぱりあるけれど──。
「では、お言葉に甘えさせてください」
「もちろんよ。可愛い娘のためだもの。そうと決まれば、次はオーダーメイドのドレスね」
「……さっきのドレスは何だったんですか?」
「あれは、家用よ。アーネから、ヴォレッカのドレスがほとんどないって聞いてるし、しっかり揃えましょうね」
有無を言わせない笑顔に、乾いた笑いが私の口から漏れた。
結局、オーダーメイドドレス十着を追加注文し、要望を聞かれたのでなるべくシンプルなものとだけ答えておいた。
装飾が付けばつくほど、高そうだから、ささやかな抵抗というやつだ。
「そうそう、結婚式用のドレスって、どうしてるのかしら?」
「さぁ、私としては式は挙げなくてもいいと思って──」
「あらあらあら。ライラクスにどうなっているのか、きちんと確認しておくわね。まさか、ヴォレッカのご両親に反対されているなんてことはないわよね?」
「大丈夫です。すごく心配はされてますが」
「どうして?」
「美しすぎる伯爵という旦那様の噂が、サミレット領まで届いてるんですよ。それで、最初は私が両親を安心させるために嘘をついているんじゃないかと思ったらしいんですけど、実際に支援してもらえたら、切羽詰まった私が旦那様の弱みでも握っているんじゃないかと思ったらしくて……」
いくら何でも、そんなことしないって。
いや、本当にもう時間が無くなって、そこで弱みを握ったら、家族と領地を守るためならやるかもしれない。
そう考えると、両親は本当に私の性格を把握しているなぁ。
でも、もう少し娘を信じてくれてもいいんじゃない? って思うのは、私のわがままだろうか。




