31: ギエル殿下の頼み事
よろしくお願いします。
次の日、私のところへギエル殿下の訪問があった。私はギエル殿下と応接室で話をした。
「いきなりすまないね。タミルから速達で手紙をもらったよ。そのことで君に確認したいことがあってね」
「なんでしょうか?」
「王宮の庭園にある“サンカヨウ“で本当にタミルは良くなるのか?」
「どう言うことでしょうか?」
「タミルの身体の具合が悪くなって、もう三ヶ月近くになる。そんな状態から本当に以前のように元気になるとはタミルには悪いが、正直信じられないのだ」
「……タミルの具合の悪い原因については手紙に書かれていましたでしょうか?」
「書かれていた。しかし、私はそれが信じられない。本当にそうなのかと」
「はい、それは本当です。タミルが身体の調子を崩してしまっているのは妖精の血を引いているからです」
「……そのように手紙には書かれていたが……」
“私達の共存者“の存在を知らない、普通の人である殿下は妖精が実在するものだとは思っていない。
「……殿下はタミルのあの人間離れした整った容姿についてはどう思われていますか?」
信じてもらえるような材料となるものは、タミルの人間離れした容姿しかないけれど……。
「確かにローウェル宰相には似ておらん。でもあいつの母親には似ていただろう? ただの母親似なのではないか?」
「それはそうなのですが、それにしても二人とも人間にしては整いすぎていると思いませんか? 殿下に今からお伝えすることは不敬に当たりますが、お許しください。殿下もとても整った容姿をお持ちですが、タミルは殿下とは比べ物にならないほど整った容姿です。国で一番の美貌を持つと言われる王族より整った容姿を持つ人間なんて本当に存在するのでしょうか?」
ギエル殿下の顔が一瞬歪み、すぐに諦めたような表情になった。
「……タミルには以前、グラハ王国の王子との会合に立ち会ってもらったことがある。その時に、タミルを見た王子がぼそっと呟いたのだ。妖精がいるではないかって……」
実は、アキム先生はグラハ王国の王族で王弟だった。ギエル殿下の会った王子は“私達の共存者“であるドワーフだ。これも錬金術師しか知らないことだ。
「……」
「私は何かの聞き間違いだと思っていた。でもあれは聞き間違いではなかったのだな……」
「そうですね。殿下、私は妖精の血を引いているタミルの身体を治すために、今まで色々調べたり、錬金術をしてきました。その過程で、少しは良くなったのですが、完治までは至りませんでした」
「そうだな。君とキーミル筆頭王宮錬金術師のことも聞いているしな」
「……よくご存知で」
私は苦笑いした。
「そんな顔をしないでくれ。それについて私は特に何も思っていないし、関わってもない」
「そうですか」
「そうだよ。それに、私はタミルの気持ちが君に向いていることは昔から知っていたからね」
「……」
それを聞いて私はなんと答えれば良いのか困ってしまい、無言を貫いた。そんな私の顔は赤くなっていたのか、ギエル殿下はしたり顔を見せていた。
私はこの恥ずかしい雰囲気を変えようと無理やり話を進めていった。
「えーっと、それで、タミルを完治させるためにまた色々調べていたのですが、“サンカヨウ“の妖精の身体への効果のことが書かれた論文を見つけました。そこに“サンカヨウ“でタミルの身体を完治させるものが生成できるということが書かれていました。だから“サンカヨウ“で錬金術をしてみたいんです。どうか“サンカヨウ“を分けてはいただけないでしょうか?」
「ティファレット嬢の気持ちはよくわかった。私もタミルのことはとても心配しているし、仕事にも早く復帰してもらいたいと思っている。君に王宮の庭園にある“サンカヨウ“を分けてあげることにしよう」
「本当ですか!! ありがとうございます!」
「しかし、他の貴族達の手前、何もなく分けてあげるわけにはいかない。私の頼みを錬金術で叶えてくれれば“サンカヨウ“を分けてあげるとしよう」
サドキエル様の時は確か、案件の報酬と話されていた。今回と同じようなものだ。
「わかりました。殿下の頼みはなんでしょうか?」
「君も知っての通り、私にはまだ婚約者がいない。婚約者が見つからない原因を突き止めて、解決してほしい」
私は信じられなくて、怪訝な顔をした。
「あれ? 君は知らなかったのかい? 私にはまだ婚約者がいないんだよ」
「ギエル殿下には婚約者がいらっしゃらないのですか? それは存じ上げませんでした。てっきりいらっしゃるものだと勝手に思っていました」
まさか、ギエル殿下の婚約活動の手助けを頼まれるなんて思ってもいなかった私は困惑していた。
(うーん、ギエル殿下は相当モテるわよね。タミルの方が綺麗な顔だけど、タミルは侯爵の息子、こっちは王子だもんね)
「いきなりこんなことを言われても困ってしまうだろうな。すまない。でもこれは私の中で死活問題でな。婚約者がいないと王太子にはなれないんだよ」
「それも存じ上げなくて申し訳ございません。タミルも殿下が王太子になるのを望んでますし、私も錬金術で少しでも力になれるよう頑張りますね」
「ありがとう」
「では、一つ質問させていただいてよろしいでしょうか?」
縁談が決まらない人に確認する質問があった。
「構わないよ。なんだろうか?」
「女性に一方的に好かれていたり、付き纏われたりというような心当たりはありますでしょうか?」
「……それは……ないかな。私には護衛もついているしね」
ギエル殿下の返事には少し考えるような間があった。これはもしかして女性からの一方的な想いで呪いがかかってしまっている可能性があると思った。
私は以前アズラエルから聞いた呪い解除の生成品のことを思い出していた。すでに学生時代には婚約者のいたアズラエルは呪いで婚約や結婚がうまくいかなくなることがあるとどこかで知って、早々に自分で呪い解除の生成品を作って確認していた。もちろんその時は呪いにはかかっておらず、作った生成品は粉々にならなかった。
そして、自分に使う以外にも実際に縁談が決まらない同級生がいて、使ってみたら粉々に壊れた。その後、すぐに縁談が決まったとアズラエルに報告してきたのを私は見ていた。呪い解除の生成品は効果が高いことは立証済みだった。
「そうですか。お答えいただき、ありがとうございます。申し訳ありませんが、殿下の髪を一本いただいてもよろしいでしょうか? 錬金術で必要なんです」
「構わないよ」
私は殿下の髪を一本切らせてもらった。
「明日には完成すると思います。何時ごろお届けに上がりましょうか?」
「えっ、こんな短時間にどんなものを作ればいいのかわかって、完成できるのかい? それはすごいね。じゃあ、明日の昼過ぎに王城へ届けてくれる? その時に“サンカヨウ“も渡そう」
「ありがとうございます。承知いたしました」
「じゃあ、私はこれで失礼するよ」
「はい。では明日、お伺いさせていただきますね」
ギエル殿下は帰っていった。
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