3: 二人で夕食
よろしくお願いします。
夜会から三日後、私はタミルの家を訪れていた。
タミルの家で出迎えてくれたのは、私が子供の頃からタミルのところで仕えている家令のマイルドだった。
「ティファレット様!! お久しぶりです! そしてこの度はおめでとうございます。無事に錬金術師になって戻ってこられたことをタミル様から聞き及んでおります」
「マイルド、久しぶりね。ありがとう。無事に戻ってきたわ。ところでタミルはいる? お土産を渡したいの」
「タミル様はただいま登城されております。お帰りは夕方になる予定でございます」
「あっ、そうだった。また出直してくるわ。それと、これはみんなへのお土産。タミルのお土産は後で直接渡すわ」
「お心遣い、ありがとうございます!! とても嬉しいです。 はい、お待ち致しております。タミル様にもお伝え致しますね」
夕方、タミルの家の馬車がうちまで来てくれた。
(まさかわざわざ馬車で迎えに来てくれるなんて思わなかった)
玄関に出ていくと、私を待っていたのは仕事帰りのタミルだった。
「ティファ、こんばんは。昼間にうちに来てくれていたんだね。マイルドが御者にことづけてくれたから寄ったんだ。良かったらうちで夕食を一緒に食べない?」
「タミル! お仕事で疲れているところ、寄ってくれてありがとう。うん、タミルが良ければ一緒に夕食をいただくわ」
私は家令にタミルのところで夕食を食べることを伝え、タミルと一緒に馬車に乗ってタミルの家に向かった。
馬車ならほんの数分で着いてしまう距離だった。
「ティファは今日は何していたの?」
「今日は荷物の整理をしていたり、錬金術の素材を瓶に詰めたりしていたわ。あっ、そうだ。これ、タミルにお土産」
私はタミルに細長い箱を渡した。
「ありがとう。早速開けてみてもいい?」
「うん」
タミルが箱から取り出したのは花のモチーフのついたガラスペンだった。男性に花のモチーフはどうかと思ったけど、タミルは昔から花が好きだった。
「素敵なガラスペンだね」
「気に入ってくれたみたいで良かった」
「うん、とても素敵で気に入ったよ。早速明日から使わせてもらうね」
その時馬車はタミルの家に着いた。
「お帰りなさい、タミル様。そしてティファレット様」
「ただいま、マイルド」
「マイルド、ありがとう。タミルに知らせてくれて」
「いえいえ。一緒に来られて良かったです」
「僕はちょっと着替えてくるよ」
「うん」
「マイルド、ティファを食堂へ」
「かしこまりました。ではティファレット様、こちらでございます」
「ありがとう」
タミルの家にお邪魔するのは八年振りでとても懐かしいけど、家の内装は昔と変わっていなかった。花が散りばめられた可愛い壁紙が家全体を明るく見せている。
(この家の壁紙は確かルーシア様が選んでいたのよね)
私達は食堂へ向かう途中、執務室の前を通り過ぎた。
「そういえば、ローウェルのおじさまはこちらにはいらっしゃらないの?」
「いえ、ほとんどお戻りになられず、王城で寝泊まりされております」
(その割には昨日の夜会ではお姿を見かけなかったわね)
「社交界には?」
「奥様が亡くなられてからは滅多に出られておりませんね。出られるのは仕事でどうしても必要な時だけでしょうか」
「……そうなんだ」
タミルのお母様のルーシア様は一年前のタミルが二十歳の時に亡くなった。私はちょうどその頃テスト期間中で、身内でないルーシア様の葬儀のためには帰国することができなかった。タミルが悲しんでいる時に一緒にいてあげられなかったことが私はとても辛かった。
ルーシア様はタミルと同じように身体が弱く、昔からちょくちょく寝込んでいることがあった。それが起きられないくらい具合が悪くなったのが、タミルが十九歳の頃だったと思う。そこから一年、ほぼずっと寝込んでいたらしい。タミルからの手紙で知った。
ローウェルのおじさまはルーシア様を治そうとジィード国内で著名な医師を頼ったみたいだけど、治すことはできなくて、結局ルーシア様は亡くなった。
私は医者ではないけど、その頃に錬金術師になっていたら何か手助けができて、少しでも力になれたかもしれない。そう思うと胸が痛んだ。
「では、ティファレット様、先にお座りになってタミル様をお待ちください。タミル様はすぐにいらっしゃると思います」
食堂に着いて、中で待つように促された。
「わかったわ」
広い豪華な食堂のテーブルでいつもはタミル一人で食事をしている……。
うちならお父様もお母様もいて、なんならたまに結婚して家を出たお兄様がうちに食事をしに来ている。
タミルは寂しいだろうな……。
「ティファ、お待たせ」
着替え終わったタミルが食堂にきた。
「タミル、向かい合わせじゃなくて、隣に座って食べない?」
一般的に食事は向かい合って食べるものだけど……。
「えっ、いいけど、どうしたの?」
「向かい合わせよりも隣に座って食べた方が、距離も近いし、話しやすいと思うから」
「そうだね、それもいいね」
私の言葉に笑顔になったタミルを見て、私も嬉しくなって笑顔を見せた。
「今日のメニューはなにかしら?」
「確か、今日はハンバーグってマイルドが朝言ってた」
「えっ、ハンバーグなの? 嬉しいわ」
「そうでございます、ティファレット様。どうぞお召し上がりください」
マイルドとメイド達が料理を運んできた。
「ありがとう。早速いただくわ」
「そういえばタミル、ローウェルのおじさまは、ほとんどここに帰ってこないって聞いたけど……」
「うん、そうだよ」
「……寂しくない?」
「僕も仕事に行って、あまり家にいることも少ないからね」
無表情でタミルが淡々と答える。それが私には余計寂しそうに聞こえる。
「でも休みの日は家にいるでしょ?」
「ここ数年は忙しくて、休みもロクに取れてないから、いないかな」
(親子揃って同じような生活を送ってるのか……)
「あまり無理しないでね。タミル、身体がそんなに強くないんだし」
ルーシア様のこともあって、私はタミルの身体が心配だった。
「ありがとう。これからはティファも帰ってきたことだし、休みはしっかり取るつもりだよ」
「それなら良かった。またちょくちょく遊びにくるわ」
「うん」
「ご馳走様。美味しかったわ。タミルは明日も仕事だよね? 食事も済んだし、私はそろそろ帰るね」
「わかった、家まで送るね。マイルド、ティファを送って」
「はい、承知しております」
「ありがとう。タミルはもう休んでね」
「うん、ティファおやすみ。またね」
私は馬車で家まで送ってもらった。
お読みいただきありがとうございました。




