2:夜会〜キーミル伯爵とエルダ嬢〜
よろしくお願いします。
「ローウェル様、こんばんは。ご一緒してもよろしいでしょうか?」
後ろを振り向くと中年男性と若い女性が立っていた。雰囲気からして親子のように思った。誰なんだろうか。
「……こんばんは、キーミル伯爵、エルダ嬢。……構いませんよ。ティファ、いいかな?」
「ええ、私は大丈夫よ」
私はそっとタミルから少し離れた。
「こんばんは、ローウェル様。またお会いできてとても嬉しいですわ」
手入れの行き届いた茶色の長い髪に、同じ色をした切れ長の眼を持つ綺麗なエルダ様は私の方は一切見ず、ひたすらタミルを見つめ、頬を染めてタミルに挨拶をしていた。
「あなたはどちらの家のご令嬢ですかな?」
エルダ様がタミルと話していると、キーミル伯爵は私に話しかけてきた。キーミル伯爵とエルダ様は似ておらず、きっとエルダ様は母親似だろうと思った。
「私はティファレット・エンジェライトと申します」
「ああ、エンジェライト家の。では、あなたが錬金術師学校へ留学していたというご令嬢ですか?」
私の留学は大っぴらにしていたわけじゃないから、誰でも知ってることではないのだけれど、どうしてこの人は知っているんだろう?
「ええ、そうでございます。でもどうして私のことをご存じなんでしょうか?」
「これは失礼いたしました。実は私も錬金術師学校を出ておりまして、仲間から噂で聞いていたんですよ。申し遅れましたが、私はバロタ・キーミルと申します。筆頭王宮錬金術師をしております」
私は驚いて、慌てて頭を下げた。
「キーミル伯爵、大変失礼いたしました。私はつい先日、卒業して錬金術師になってこの国へ戻ってきたばかりでして」
「そういえば卒業は今の時期でしたね。 おめでとうございます! 今後の進路は王宮錬金術師でしょうか? 歓迎いたしますよ」
「ありがとうございます。いえ、申し訳ございません。私は自分の工房を構える予定でございます」
「そうですか。それは残念です。ですが、何かありましたらご遠慮なくご相談ください。働く場所は違っても、若い錬金術師を育てるのも私のような者の役目ですので」
「ありがとうございます。とても心強いですわ」
私とキーミル伯爵の話が終わると、キーミル伯爵はタミルとエルダ様の会話を聞いて、加わる機会をうかがっているようだった。
「ローウェル様、お花がお好きってうかがいましたわ。最近うちの庭に綺麗な薔薇が咲いたんです。今度観にこられませんか?」
「お誘いありがとうございます。せっかくのお誘いですが、なかなか仕事が忙しくて時間を作るのが難しいので、申し訳ありません」
タミルは憂いを含んだ表情を見せて上手に断っていた。
しかし、キーミル伯爵はそれでも諦めずに
「さすがローウェル様ですな、やはりとてもお忙しいようですね。うちならお休みの時が難しいようであれば、お仕事の帰りでも構いませんよ。そうだ、今度早く帰れそうな時にでもどうでしょうか?」
再度タミルを誘っていた。
(すごいなぁ……エルダ様がタミルと仲良くなりたいのをわかってるから……)
私はキーミル伯爵のエルダ様への親心に感心していた。
「……それは、ありがとうございます……。ではそのような時がありましたら」
タミルは諦めたように返事をしていた。
「ええ、ぜひ! お待ちしていますよ。よかったな、エルダ」
「はい、お父様。ローウェル様、楽しみにしていますね」
タミルの返事にエルダ様はとても嬉しそうな顔をしていた。その様子を見たキーミル伯爵は満足そうな顔をしてエルダ様に声をかけた。
「エルダ、そろそろ行こうか。ローウェル様、またご連絡をお待ちしております。ティファレット嬢、それではまた」
「……はい、承知いたしました」
タミルは笑顔で答えていたが、その顔は少し引きつっていた。
(あれくらい、私しか気づかないだろうけど)
「はい、それではまた」
私も挨拶を返した。
「……はい、お父様。ローウェル様、たくさんお話出来て光栄でしたわ。それでは失礼いたします」
「はい、エルダ嬢。また」
タミルが挨拶を返した。結局エルダ嬢は私に一言も声をかけなかった。そして去り際には私を睨んでいった。
「……疲れた」
二人がいなくなった後、ぼそっとタミルがつぶやいた。
「……お疲れ様」
「ティファ、ごめんね。つまらなかったよね? キーミル伯爵は今日みたいに夜会で僕を見つけると、娘のエルダ嬢を連れて絡んでくるんだ」
「そうだったんだね。ううん、私は筆頭王宮錬金術師であるキーミル伯爵と話が出来て良かったよ」
「そっか。それなら良かった」
「うん。それよりタミル、エルダ様のところに薔薇を観に行くの?」
「ティファ、気になる?」
タミルの顔がなぜか輝いた。
「断り切れてなかったから実際どうするのかなって」
「……できれば行かずに済ませたいね。なんとか仕事を理由に断り続けるつもり」
がっかりした顔でタミルが答えた。
それからも、入れ替わり立ち替わり色々な人がタミルの元に来たので、結局私はゆっくりタミルと話すことができなかった。
そして、やっとゆっくり話せると思ったら、今度は私を見つけたお父様が呼びにきて、私はお父様と一緒に家に帰ることになった。
お読みいただきありがとうございました。




