1: 夜会〜タミルとの再会〜
よろしくお願いします。
昨日、私はジィード王国へ戻ってきていた。
今から王城で開かれる夜会に参加するために私はお父様と王城へ向かっていた。
「エンジェライト伯爵家がおいでになりました」
「お降りになりましたら、馬車はあちらへ移動させてください」
馬車の外で出迎えの係の方々の声が聞こえてくる。
馬車の扉が開いた。ここに来るのは確か、初めてじゃないけど、子供の頃以来で覚えていない。
(ドキドキするな……タミルはもう来ているのかな……)
夜会の為にライトアップされた煌びやかな王城がより一層私の緊張を高めていた。
馬車を降りたお父様と私は入り口で挨拶待ちをしていた。すでに沢山の貴族が来ていた。待っている間にふと横を見ると入り口の脇にあった大きな鏡に自分の姿が写る。
今日の私は銀色の長い髪を編み込んでいて、はっきりとした顔立ちには薄く化粧をしていた。そして、着ているのはお父様が今日の夜会のために用意してくれたレースが美しい水色のマーメイドラインのドレスだった。普段は錬金術の為に汚れてもいいワンピースばかり着ているので、こんな自分の姿は見慣れなかった。
(なんか別人みたい)
お父様と私の順番がきた。
「コクマー・エンジェライトだ」
「ティファレット・エンジェライトと申します」
「エンジェライト伯爵様、ティファレット様、ようこそお越しくださいました。どうぞ中へお入りください」
挨拶が終わり、前の人に続いて中に入っていく。王城内の廊下は大きな豪華なシャンデリアのおかげで夜でもとても明るくなっていた。
「ティファレット、突き当たりの奥が会場だよ」
赤い絨毯が敷かれた廊下をしばらく進んでいくと、大広間に着いた。
「私はあそこに見えるエンス侯爵達に用があるのだけど、お前は今日初めての夜会だ。一人でいるのは心細いだろうから一緒に来なさい」
お父様の目線の先には何人かの男性がいた。私が一緒にいってもお父様の話の邪魔になるだけだろう。それに私はタミルを探して、タミルに会いたい。
「お父様、私は一人で大丈夫ですよ。それとタミルを探そうと思います」
「……そうか。一緒にタミル君を探してやれなくてすまないね。しかし、ティファレット、くれぐれも一人で暗いテラスの方には行かないように。じゃあ私は話が終わったら、お前を探すようにするから」
「はい、気をつけます。わかりました。ありがとうございます」
今日の私の一番の楽しみはタミルに会うことだった。タミルと会うのは今日が八年ぶりだ。
(タミル、私のこと気づいてくれるよね……?)
最後に私が送った手紙には今日の夜会に参加することを書いていた。タミルからの返事にも参加すると書いてあったけど、子供から大人に成長する時期に会っていないのだ。変化も大きい。見かけても気づかないかもしれない。私はウロウロと会場中を歩き回って幼い頃のタミルの面影を追って探していた。
(うーん……それらしい人はいないな。もしかしてまだきてないのかな)
その時、何やら会場の入り口の方で女性達の色めき立った声が聞こえてくる。少し入り口から離れているのにもかかわらず、ここまで聞こえてくるなんて相当だと思った。私は気になって入り口の方を見た。少し離れているので、なにが起こっているのかわからない。
「ああ、ローウェル様がいらしたわ。あいかわらずとても素敵ね」
「本当ね! お姿を見ることができるなんて参加してよかったわ」
(えっ!! ローウェルってタミルのこと?! タミルが来ただけでこんなにざわめきが起こるの?)
私は女性達の反応に驚きながらもタミルがいる方向を見続けていた。
人々の間を抜けて歩いてくるタミルの姿が少しずつ見えてくる。
少し離れた場所にいても、ひときわ目立つタミル……。
アシンメトリーのショートヘアをしたキラキラと輝く金髪に、色素の薄い肌をした中性的で彫刻のように整った顔立ち……。
(……そういえば初めて会った時のタミルはとてもかっこよくて、王子様みたいだと思ったんだっけ)
タミルはちっとも変わっていない。あの頃のまま大人になっていた。
昔と同じ色素の薄い肌を見て、子供の頃は身体が弱くてよく体調を崩していたことを思い出した。ここ数年の手紙には体調を崩すことは少ないと書かれていたけれど。
タミルは途中で何度も立ち止まりながら、キョロキョロと視線を彷徨わせていた。そして、私の視線に気づいたようだ。タミルと目が合った。
タミルは一瞬驚いた顔を見せ、とても嬉しそうな顔をしてこちらに向かって歩いてきた。
八年ぶりだけど、私にちゃんと気づいてくれたようだ。
「ティファ、おかえり。綺麗になったね。とても会いたかったよ。そして、無事卒業おめでとう」
タミルの満面の笑みに女性達の小さな黄色い悲鳴が聞こえてくる。
「タミル、ただいま。私も会いたかった。ありがとう! とても嬉しい」
私は八年振りにタミルに会えたことがとても嬉しくて、思わずタミルに抱きついてしまった。その途端、周りから悲鳴と戸惑いの声が上がる。
「ちょっ、ちょっとティファ!?」
いきなり私に抱きつかれたタミルはびっくりした声を上げた。
しまった! 嬉しすぎて昔と同じような行動をしてしまった。もう子供の頃とは違って大人になっていたんだ。
「あっ、私ったらつい昔のように。ごめん、タミル」
私は慌ててタミルから離れた。
「……ううん。大丈夫。僕は変わらないティファで嬉しいよ」
はにかんだタミルの顔は赤くなっていた。
「ところでティファ、お腹空いてない? 料理取りに行こうか?」
「そうね、タミルに会えたら安心してお腹空いちゃった。いきましょう」
二人で料理の並んでいるテーブルまで向かう。
「あの方はどこのご令嬢かしら?」
「ローウェル様とどんなご関係なのかしら?」
周りの女性達からコソコソと探るような会話が聞こえてくる。
(……みんなタミルと私のことを噂してる)
タミルの方を見ると全く気にしていないようだった。
「ティファ、どうしたの?」
タミルが私の視線に気づいた。
「……ううん、なんでもないよ」
(私も気にしないでおこう……)
「ティファ、どんな料理があるのか楽しみだね」
「ええ、そうね」
お読みいただきありがとうございました。




