28: サドキエルとの再会
よろしくお願いします。
再び私は学校の入り口にある受付に足を運んだ。
「こんにちは、卒業生の ティファレット・エンジェライトです。約束はしていないのですが、サドキエル先生にお会いしたいと思っています。お会いできますでしょうか?」
先ほどアキム先生のところまで案内してくれた受付の女性に声を掛けた。
「こんにちは、サドキエル先生ですね。少々そこの椅子にかけてお待ちくださいね」
「はい」
私はさっきと同じ椅子に座るように言われて、座って待つことにした。
(いきなりだから会えないかもしれないわね)
しばらくすると奥の引っ込んでいた受付の女性が戻ってきた。
「今授業中で確認ができなかったので、もうしばらくお待ちください。お時間がかかって申し訳ありません」
受付の女性が申し訳なさそうに説明した。
「いいえ、私もいきなりでしたので。わかりました。ここで待たせてもらいますね」
しばらく待っていると、チャイムの音が聞こえて受付の女性が引っ込んだ。
(授業が終わったんだわ)
すると、受付の女性とともになんとなく見覚えのある女性が一緒にいた。
「エンジェライトさん、お待たせしました。サドキエル先生をお連れしました」
「ありがとうございます。こんにちは。サドキエル様、お久しぶりです」
私は受付の女性にお礼をいい、自分からサドキエル様に声をかけた。
「……あなた、どこかでお会いしたかしら?」
サドキエル様は覚えていないようで、やや怪訝な顔をされた。アキム先生からの話もまだ伝わっていないようだった。
「はい、昔、迷子になった時にサドキエル様に助けていただいて……」
私はそう言いながら、いつも首にかけている花型のペンダントをサドキエル様に見せた。
「これは私の印の入ったもので、確か昔……。! 思い出したわ! そうよ! 迷子の子の首にかけてあげた! あなた、ティファレットね!」
花型のペンダントの印を見て、サドキエル様が私のことを思い出してくれた。
「はい、そうです!」
「卒業生って聞いたから、あなたも錬金術師になったのね」
「はい、サドキエル様に助けていただいたのをきっかけに私も錬金術師になりました」
「えー! 感激ね!! それはとても嬉しいわ」
私のことを聞いたサドキエル様はとても嬉しそうな顔をしてくれた。私もそれを聞いてなんだか胸が温かくなった。
「ところで、そのことを言うために私に会いにきてくれたってわけじゃないわよね?」
「ええ、そうです。それもあるんですけど、ちょっとお聞きしたいことがありまして……」
アキム先生から借りていた論文をサドキエル様に見せた。
「あらっ、これは私が書いたものね」
「はい、実はこの論文の内容でお聞きしたいことがありまして……」
「立ち話もなんだから、私の部屋に行きましょう」
「はい。ありがとうございます。お願いします」
私はサドキエル様に連れられて部屋に向かった。サドキエル様の部屋はアキム先生の部屋とは反対方向にあり、私が学生時代はほとんど通らなかった場所にあった。
「ここなのよ。さぁ、どうぞ」
「失礼します」
サドキエル様と一緒に部屋に入った。部屋の作りは本棚の数が少ないこと以外、アキム先生と同じだったけど、部屋の主が違うので雰囲気は全然違っていた。
植物が置かれ、カーテンもレースになっており、明るい感じだった。
(サドキエル様のお部屋はなんか女性らしいな)
「そこのソファに座って待ってて。今お茶を淹れるわ」
(お茶を淹れるようなところがこの部屋にあるのかしら?)
私は部屋の中を見渡した。さっきは目に入ってなかったが、部屋の隅に簡単なキッチンスペースがあり、そちらでサドキエル様はお茶を淹れてくれるようだった。
「すみません、ありがとうございます」
私は座って待っていた。
「お待たせ。はい、どうぞ。熱いから気をつけてね。これは私が錬金術で作ったお茶よ」
「ありがとうございます。いただきます」
淹れてくれたお茶を冷ましながら、口をつけた。
「……美味しい。なんか不思議な味ですね」
サドキエル様のお茶は薄いピンク色の飲んだことない味で、やや癖のあるハーブと甘いベリーが混ざったような味だった。甘いベリーの味で癖が気にならないようになっていた。
「口にあってよかったわ。これはリラックス効果のあるお茶なのよ。今日はきっと良く眠れるわ」
「そうなんですね」
「ところで、論文で聞きたいことって何かしら?」
「はい、実は私の婚約者のことなんですけど……」
私はサドキエル様にタミルがサドキエル様と同じようにチェンジリングにあった妖精の孫で、体調が悪くなってしまっていることを話した。
そして、持っていたフラワーエッセンスを見せて、私が錬金術でフラワーエッセンスを作ったけど、それだけでは体調が完全に良くならないことを話した。その上で、サドキエル様の書いた論文に載ってた“サンカヨウ“の別の姿の“スケルトンフラワー“でフラワーエッセンスを作ってタミルに試してみたいことを伝えた。
「そうね、それは私が作ったものと同じものだわ。だから“スケルトンフラワー“のフラワーエッセンスで ティファレットの婚約者の身体を完全に治すことができると思うわ」
「本当ですか!!」
「ええ。私は人間で、彼は妖精の血が流れているけど、どちらに居た時も効果があって、体調は完全に治ったわ。“スケルトンフラワー“で完全に治るかが聞きたかったのかしら?」
「それもないわけじゃなかったんですけど、それよりも“サンカヨウ“ってどこに咲いているものなのかとか“サンカヨウ“の手に入れ方を知りたかったんです」
「あれっ、それって論文に細かく書かなかったかしら?」
「はい……。それは書かれてなくて……」
サドキエル様は私が持っていた論文を読み返していた。
「……あ〜、あの時、疲れていたからそういう部分は端折ったんだったわ。“サンカヨウ“は今はこの国には咲いてないの。この国で咲いている時期は済んでしまって、今は隣の国のジィード王国で咲く時期なの」
「えっ、時期が国によって変わるんですか?」
「ええ、そうよ。それがこの“サンカヨウ“の隠れた特徴なのよ。だから植物図鑑にはこのことは書かれていないわ」
「国によって咲く時期が違う……」
「そうなのよ。雨がたくさん降る天気の悪い時期が国によって少しズレるわよね? それが影響しているみたい」
「へぇ〜なんか自分が透けるのを見て欲しくてアピールしているみたいですね」
「ああ、そういう見方もあるわね。雨が降らないと透けないものね」
「グラハ王国とジィード王国はどの辺りで咲くものなんでしょうか?」
「グラハ王国は錬金術師学校所有の山に咲いているのだけど、ジィード王国は……王宮の庭園のみよ」
「えっ、それは………」
私はサドキエル様の思いもよらない答えに言葉を失った。王宮の庭園ではおいそれと“サンカヨウ“を取りに行くことができない。それに王宮の庭園にあるってことは国の大切な植物である可能性もあり、簡単に手に入れることもできないだろう。
「じゃあ、サドキエル様はどこの国で手に入れたんですか? グラハ王国ですか?」
「ううん、私はジィード王国よ」
「咲いている場所は王宮の庭園ですよね? どうやって……」
「昔、ジィード王国には用件毎に雇われる錬金術師しかいなくて、今のように、国のために常駐している王宮錬金術師のような存在はいなかったのよ。その時に、私は単発で雇われて、報酬の一つとして“サンカヨウ“をもらったのよ」
「そんな時があったんですね……」
元々、ジィード王国には錬金術師は少ないのでそういう時代があってもおかしくはない。そんな用件毎に錬金術師を探して雇っていたら、国はなかなか発展していかないだろうから、きちんと王宮錬金術師を雇うようになったんだろう。
「来年でもよければ、学校所有の山のものを譲ってもらえると思うけど、あなたは今すぐ欲しいものね……」
「ええ、そうなんです。それに今しか咲いてないんですよね?」
「そうよ。それもあるわね」
「あと、どれくらい期間があるんですか?」
「ちょうど、最近咲き始めたばかりの時期だから。あと二週間弱ってところね」
「でも、“スケルトンフラワー“になる条件も必要ですよね?」
「そうね。そうじゃないと効果はないと思うわ。“スケルトンフラワー“になる条件が揃うなんて、運のようなものって思うかもしれない。でもね、私達は錬金術師よ。錬金術師は芸術家なのよ。私の中の芸術家って思いもよらないものを作り出すものだと思っているわ」
私はサドキエル様の言葉でハッとした。
そうだった、私もサドキエル様の作った思いもよらないもので、迷子から助けてもらっていた。
(“サンカヨウ“が自然に“スケルトンフラワー“にならなければ、錬金術を使ってなるようにすればいいわ)
「サドキエル様、ありがとうございます! あとは王宮の庭園から手に入れる方法ですね」
「 ティファレット、あなたは確か貴族の娘よね?」
「はい。私もですが、婚約者も貴族です」
「爵位を聞いていいかしら?」
「うちは伯爵ですが、婚約者は侯爵です」
「侯爵……侯爵なら高位貴族だから王族と話すことができるんじゃないかしら?」
(そういえば、ローウェルのおじさまは宰相だわ)
「そうですね。それに婚約者の父親はジィード王国の宰相です」
「宰相!! それなら手に入れることはできるかもしれないわ!」
「ありがとうございます。相談してみます」
まだ雨のことは解決できてないけど、“サンカヨウ“を手に入れることはなんとかなりそうだ。
「サドキエル様、ありがとうございました』
「いえいえ、うまく“スケルトンフラワー“のフラワーエッセンスが作れるといいわね」
私はサドキエル様の部屋を後にして、すぐさまジィード王国へ帰国した。
お読みいただきありがとうございました。




