21: 相談
よろしくお願い致します。
「長かったけど、やっと着いたわ」
玄関では家令が私達を待っていた。家に到着する大体の時間を先に伝えておいたのだ。
「お帰りなさいませ。お部屋にお茶をご用意させていただきますね」
「ええ、お願い。私の部屋に行きましょう」
二人の荷物はメイドに持ってもらい、一緒に来て運んでもらう。
「先にお茶して、その間にタミルが会えるか使いを出して確認してもらって、会いに行きましょう。今日会いに行くことは知ってるから」
「わかったわ」
「俺は先に会いに行ってもいいけどね」
「私、ちょっと二人に話したいこともあるから」
「そうか。じゃあ後からだな」
「うん。まずは私の部屋でお茶しましょう」
私達は私の部屋へ向かった。
「ありがとう。お邪魔します」
「……ティファの部屋に俺も入っていいのか?」
「えっ、どうしてダメなの? いいわよ。サラもいるしね」
「そっか。それもそうだな。じゃあお邪魔します」
私の部屋は図書室の前を通り過ぎた奥にある。せっかくだから二人にうちの自慢の図書室の話をしておく。
「うちの図書室にもあとで寄っていく?」
「確か、ティファの家は図書室が充実してるのよね?」
「そうよ。お兄様が本がとても好きなの」
「うちにもあるけど、うちの人間は本が好きなわけじゃないからティファのところとは規模が違うだろうな」
「うーん、どうかな? あとでよかったら見ていって」
「ありがとう。帰る前に寄らせてもらうよ」
図書室を通り過ぎて、私の部屋の前に着いた。
「さぁ、どうぞ。入ってちょうだい」
私はドアを開けて部屋の中に二人を招き入れた。メイドは二人の荷物を部屋に置いていった。
私の部屋は今は錬金釜に占拠されている。
「……錬金釜、部屋に置いているのね」
「……俺も別のところにあると思っていた」
私が自分の部屋に錬金釜を置いていたことについて何故か二人は驚いていた。
「二人は置いてないの?」
「そうね。邪魔になるし、錬金術は仕事だから自分の部屋とは分けたいわ」
「俺も、ちょっと圧迫感があるからね……。寮の時はしょうがないと思っていたけど、今は別に置いてる」
「私も工房は準備中だけど、タミルの家が近いから錬金釜は移動させてないんだ」
「ティファの婚約者と錬金術がなんか関係あるのか?」
「あっ、アズラエルには話してなかったね。立ち話もなんだから、ソファに座ろう。お茶もそろそろ持ってきてくれるだろうから」
私は二人をソファに座らせて、呼び鈴を鳴らしてお茶を催促した。
「ティファレット様、お待たせして申し訳ありません。お茶をお持ちしました」
部屋にノックが響き、メイドがお茶を持って参上した。
「ううん、催促しちゃってごめんなさい。ありがとう」
「あっ、そうだ」
サラが自分の荷物から何かを取り出した。
「これ、アズラエルと一緒に買ってきたの。お土産。今はグラハ王国で人気のお菓子よ。風船クッキーっていうの」
「わぁ〜ありがとう。お茶しながら食べましょう」
アズラエルとサラが買ってきてくれたお菓子の包みを開き、箱を開けると、袋にストローのようなものが少し飛び出ていたものがいくつか入っていた。
「これ何?」
「ああ、これの飛び出たところを吹いて膨らませるんだ。そうすると風船クッキーは完成する。必ず食べる直前に膨らませるんだよ」
「へ〜面白いね。一つ食べてみていいかしら?」
「うん、食べてみて。私もいただくわ」
私とサラは箱からクッキーを取り出し、飛び出たストローを吹いた。すると、袋が膨らんで破れて、風船のように膨らんだクッキーが姿を現した。
「これを齧って食べてみて」
サラに言われた通り齧って食べてみると、もちもちとした食感で食べたことのないクッキーだった。
「! もちもちで美味しい〜! それに齧っても形はそのままなのね」
「これは、錬金術でできたクッキーなんだよ。俺たちの先輩にあたる錬金術師が考えたものらしい」
私はクッキーに刻まれている印を探した。さっきは気づかなかったが、ストローに小さく青字の線の印が刻まれていた。
「錬金術ってお菓子も作れるのね」
「芸術はなんでもありなんだよ」
お菓子をテーマにした錬金術師がいたのだ。
「それでね、さっきのアズラエルの、錬金術とタミルの関係だけど、タミルが体調を崩したから、錬金術で治せないか色々考えていたの」
「タミル様は体調が悪いのか? そしたら俺たちに会わなくても……」
「以前より良くなったから大丈夫よ。でも完全に良くならないの」
「シックポーションは?」
「効かなかったわ」
「……じゃあ呪いか?」
「それも違ったわ」
「シックポーションも効かない、呪いでもないとすると……」
私とサラと全く同じことを思っていたアズラエルは考え込んでしまった。
「アズラエル、ありがとう。もう原因はわかってるの」
「それじゃあ、やっぱり……」
サラはこの前のことを思い出したようだ。
「ええ。ただ、タミルのことを勝手に話すのは憚られて……ごめんなさい」
「大丈夫よ。依頼者からの秘密事項は言わないのが原則だから無理に聞かないわ」
「そうだ。俺もこれ以上詳しくは聞かない。ただティファが困っているのはわかった。もうこのことについて色々生成してみたんだよな?」
「ええ、もう何度も生成をしているし、生成品も作っているわ」
錬金術師の学校が難関なのは、自分で挑戦した生成品を完成させるために膨大な知識が必要で、一生研究や勉強をすることが必要だからだったと入学して気づいた。
「それでもしっかり良くならないのか。……それならアキム先生に相談してみたらどうだ?」
「アキム先生に?」
アキム先生は錬金術師学校でお世話になったドワーフの先生だ。
「ああ、先生は何度も自分で挑戦して、それでもダメだったことをきちんと説明したら相談に乗ってくれる。俺も助けてもらったことがある」
「私もあるわ。新しい美容の製品でうまく生成できなくて。何度もやってみたけど失敗ばかりで、アキム先生に相談したら解決したわ。それがこれよ」
サラは瓶に入った液体を見せてきた。瓶に青くサラのハート型の印が入っていた。
「これはなんだ?」
「もしかして、フラワーオイル?」
「ううん、フラワーオイルではないわ。日焼け止めよ」
「日焼け止めってなんだ?」
「日に当たって身体の色が黒くならないようにするものよ」
サラがアズラエルに説明した。
「へー。そんなこと考えたこともなかったな」
「まぁ、アズラエルは男の人だしね。女性は日に焼けて黒くなるのは避けたいものなのよ」
「私はあんまり気にしないけどね」
私は女性でも無頓着な方で、普段からお化粧もほとんどしない。
「ティファは気にしなさすぎよ。せっかく美人なのに勿体無いわ」
「ありがとう、でも面倒だしね。私は焼けてもいいかな」
「そういえば、コールアが日焼けを気にしてたかもしれない」
「コールアって、アズラエルの婚約者のこと?」
サラがアズラエルに聞いた。
「いや、弟だ」
コールアは男性でも女性でも使う名前だ。
「えっ、弟君が日焼けを気にするなんて、美意識が高いのね。気が合いそうだわ」
サラは嬉しそうな顔をした。
「美意識というより、肌が日光に弱いようだ。赤くなって痛くなるって」
「そうなのね。でも日焼け止めで仲良くなれそうだわ。アズラエル、この日焼け止めを弟くんに渡して、私を紹介してちょうだいね」
サラは持っていた日焼け止めの瓶をアズラエルに渡す。
「いいのか? もらって」
「いいわ。賄賂よ」
「賄賂って……」
アズラエルは呆れ気味だった。
私はお茶を飲みながら、微笑ましく二人のやりとりをみていた。
お読みいただきありがとうございました。




