13: フラワーエッセンス
よろしくお願いします。
そして、再び家に帰って自分の部屋に戻ってきた私は、汲んできた泉の水と摘んだ花を使って錬金術を始めた。花と泉の水を入れたガラス瓶を錬金釜に入れると、他の花も錬金術が成功して花が消えていた。
(できた!! これは花のエッセンスが入ったものだから、これからはフラワーエッセンスって呼ぼう)
早速フラワーエッセンスの生成書を紙に書いた。
私はこの錬金術が泉の水だから成功したのか、家で使っている溜め池から引いた水でも成功するのか気になっていた。
私は花と家で使っている溜め池から引いた水を一緒にガラス瓶に入れてもう一度錬金術をしてみた。
しかし、できたのは黒い炭だった。失敗だった。
(泉の水じゃないと成功しないみたいね)
なんとなく、気づいていたけど、実証してみたいのが私の錬金術師としての性分だった。
(そういえば、ガラス瓶は200mlのもので適当に水を入れたけど、成功していた。泉の水の正確な量は必要ないのかな? それと花は一輪だけだけど、水を増やした時も一輪でできるのかな?)
気になった私は必要な泉の水の量と花の量を調べるために、それぞれ分量を変えて作ってみることにした。まず、水の量から試してみる。きちんと計量して100mlにして花を一輪入れて錬金術をしてみると成功していた。今度はその半分の50mlにして花を一輪入れて錬金術をする。
(黒い炭ができてる……)
錬金術は失敗していた。100mlから50mlの間で成功と失敗の境目があるかもしれないけど、わかりやすく“必要な泉の水は100ml“と紙に記載した。そして、今度は花の量を変えてやってみる。
(100mlから200mlまでの間は一輪で成功した。じゃあきちんと200mlにしたらどうなのかな?)
250ml入るガラス瓶に200ml計量し、花を一輪入れて錬金術を試してみた。
(……失敗)
黒い炭になっており、できていなかった。今度は花を二輪に増やして、水の量はさっきと同じ200mlで試してみた。
(成功してる!)
どうやら花は200ml以上で二輪必要なようだった。もしかして100mlずつ増えると一輪ずつ花を増やす必要があるのかと思い、今度は300mlで三輪入れて試してみた。
(やっぱり成功した。その通りだ)
こっちも分かりやすいように“必要な花の量は100mlで一輪“とさっき書いた下に記載した。
(これから作る時はこの目安で作ろう)
残りの花を使って、この分量を元に錬金釜でフラワーエッセンスを作っていく。できたフラワーエッセンスがタミルに効くかどうかわからない。だけど、ルーシア様が話していた花のエッセンスで錬金術をしたから、何かタミルに変化が起きるかもしれないと私は思っていた。
(できた!!)
私は全部で十種類の花のフラワーエッセンスを300mlずつ作った。夢中で作業をしていたので、私は部屋に誰か入って来たことに気付かなかった。部屋の入り口の前には昼食のサンドイッチとお茶が用意されていた。
(もう夕方だよ〜。こんなに時間が経つと思ってなかった)
泉から帰ってきたのは昼近くだった。そこからもう数時間が経っていた。私は学生時代から錬金術に夢中になるとしばしば時間を忘れてしまう。
(早く食べてタミルのところへ行こう。夜になってしまう)
さすがに夜に調子の悪いタミルのところへ行くわけにはいかない。私は急いで食べて、フラワーエッセンスを持ってタミルのところへ馬車で向かった。
「こんにちは、今日もタミルのお見舞いに来たわ」
「こんにちは、ティファレット様。いつもありがとうございます」
いつものように玄関でマイルドが出迎えてくれた。
「今日のタミルの調子はどうかしら?」
「昨日とお変わりございませんので、調子は少し良さそうです」
「そう、それならよかったわ」
「はい。それではタミル様のところへご案内いたしますね」
「うん、よろしく」
マイルドに案内されてタミルの部屋に向かった。部屋の前に着くとマイルドがタミルに入室の許可を確認した。
「どうぞ、入って」
昨日と同じ、少し元気なタミルの声が聞こえた。部屋に入るとタミルがベッドから起き上がっていた。
「タミル、こんにちは。昨日の今日で、毎日ごめんね」
「ティファ、何言ってるんだよ。僕は君が来てくれて毎回とっても嬉しいんだよ。ありがとう」
「……ううん。ところで今日はね、ルーシア様が昔話していたもので錬金術をしてみたら成功したの」
「母上が昔話していたもの? 何?」
「タミルは覚えてないんだね」
「うん、覚えてない。どんなものを言ってたんだっけ?」
「昔、ルーシア様とお母様とタミルと私の四人で王都の裏山の泉に行った時に、そこの花と泉の水で花のエッセンスができるって言ってたの。それを思い出して広場に咲いていた花と泉の水を使って錬金術をしてみたら成功したの」
私は持ってきたフラワーエッセンスを鞄から取り出した。
「これが成功してできたフラワーエッセンスよ」
「フラワーエッセンス?」
「いい名前でしょ? 私が名付けたの」
「うん、綺麗な名前だね」
「ありがとう。ルーシア様の言ってたもので作ったから、もしかしてタミルの調子を治すのに何か効果があるかもしれないって思って持ってきたの。タミル、ちょっと使ってみてくれる?」
「うん。これはどうしたらいいの? 飲めばいい?」
花と泉の水だから身体に悪いものではないし、錬金術で生成しているから飲めるものだけど、まずは身体に合うか確かめてもらう。
「ううん。いきなり飲まないで、まずは手につけてみてくれる?」
「わかった」
タミルは瓶の蓋を開けて手にエッセンスをつけた。
「……これ、なんか今までで一番いい感じがする……」
「えっ!! 本当に?」
「うん。それに僕、なんかこれを飲んでも大丈夫だと思う」
私はテーブルにあったコップを取ってタミルに渡した。タミルはコップにエッセンスを注いで一口飲んだ。しばらくすると
「……フラフラしない。これならちょっと立ち上がれるかも」
そう言って持っていた瓶とコップをテーブルに置き、タミルはベッドから立ち上がった。
「タミル、ベッドから立ち上がるなんてどれくらいぶり?」
「そうだね、もう一ヶ月ぶりくらいかな」
タミルはそのまま歩こうとしたけど、しゃがんでしまった。
「タミル!! 大丈夫!?」
「……ああ。ちょっと歩くのは無理みたい」
でもタミルの身体はここ最近で一番調子が良くなっていた。どうやら思った通り、フラワーエッセンスはタミルの波動を変えて、より人間界の波動に適応させてくれているのだろう。
そして、キーミル伯爵が泉の水で作ったシックポーションで少しタミルが良くなったのは泉の水だからではなくて、ブドウハナと合わさったことで間接的にフラワーエッセンスのようになっていたのだろう。
私が作った方が効果が高かったのは、他の素材が入っていないからだと思った。
(やっとキーミル伯爵より先手を打つことができたわ。でも、この前花びら入りの泉の水を汲んでいたから同じものを持ってくるのも時間の問題かもしれないけど……)
「無理しないでね」
私はタミルを再びベッドに寝かせた。
「……ありがとう。さっきのフラワーエッセンスは置いていってくれる? 飲み続けてみるよ。そしたら歩けるようになるかもしれない」
「わかったわ。そうなるといいわね。さっきのフラワーエッセンスはタミルの好きなインパチェンスで作ったものだけど、他の花でも作ったからそれも置いていくわね。他のも飲んでみて」
(飲み続けて波動を変え続けていけば、きっとタミルの調子は良くなってくると思うわ)
「うん、飲んでみるよ。ありがとう」
「うん。じゃあ私はそろそろ帰るね」
「待って、暗いから家まで送らせるよ。マイルド、ティファを送って」
外はすっかり暗くなってしまい、結局夜になってしまった。タミルは入り口で控えていたマイルドに声をかけた。
「あ、タミル。大丈夫よ。私、馬車で来たから」
「そうなんだ。それなら大丈夫だね。いつもありがとう。気をつけて帰ってね」
「うん。また来るね」
私はタミルの部屋をあとにした。
お読みいただきありがとうございました。




