11: フラワーオイルの効果
よろしくお願い致します。
自分の部屋に戻り、持って帰ってきたものを錬金術で生成した保存シートに包んでおいた。この保存シートに包んでおけば花は萎れたり、枯れたりしない。便利なシートだった。ちなみにお弁当も保存できる優れものだった。
泉の広場で摘んだ花を使って今から錬金術をやっていく。
花船を入れたガラス瓶の方はタミルにみせるつもりなので、先ずはフラワーオイルの生成をすることにした。
花冠もせっかくだから錬金術を試してみようと思ったけど、そのまま錬金釜に入れることしか思いつかなくて、さすがに花冠だけでは炭になるだろうと思ったのでやめておくことにした。
早速摘んできた花と食用油を錬金釜に入れてみる。花は何種類か摘んできたけど、それぞれ順番に試してみることにする。花は一本で、食用油の量は、以前生成したヘアオイルと同じ分量の5gでやってみることにした。
初めて試す錬金術なので、生成書を作らないといけない。今回の錬金術は花を使うから“花の錬金術“と紙に題名を書いた。
私は摘んできた花の中からインパチェンス一本と食用油5gを錬金釜に入れた。それから白い光が錬金釜から放たれ、少し待つと光が収まったので中を覗く。
「うん、インパチェンスのオイルができてる」
失敗の炭はできておらず、代わりに食用油を入れた器からインパチェンスの香りがほんのりする。この後も他の花で試してみたけど、全ての花でオイルができていた。成功したので、残りの花も全てフラワーオイルにした。そして、素材と分量をさっきの紙に書いて生成書を作った。
完成したインパチェンスのオイルがどんなものか試しに私は皿に入れて、実験用のアルコールランプで炙ってみた。部屋にインパチェンスの香りが充満してとてもいい香りになった。
香りが薄い花も錬金術での生成のおかげで香りが濃くなっていた。
(空間に花の香りが充満すればタミルの身体の波動にも影響があるかもしれない)
私は明日タミルのところに、この花のオイルも一緒に持っていこうと思った。
次の日、保存シートに包んでおいた花冠と花船の瓶、昨日作成したフラワーオイルを持ってタミルのところを訪れた。
「こんにちは、タミルのお見舞いに来たわ。タミルに会えるかしら?」
「こんにちは、ティファレット様。はい、今日のタミル様は調子が良いご様子ですので、大丈夫でございます」
いつものようにマイルドがタミルのところへ案内してくれる。
「そうなのね! よかったわ」
「はい。実は昨日の夜、筆頭王宮錬金術師のキーミル伯爵が旦那様のところへ来られたんです。その時、キーミル伯爵がタミル様に錬金術で作られたものをお渡しされまして、それを試されてからちょっと調子が良くなったみたいなんです」
「えっ……ローウェルのおじさまのところにキーミル伯爵が来られたの?」
「はい。以前は医者を呼んでましたが、奥様の時に回復が芳しくなかったので、旦那様が今回は筆頭王宮錬金術師であるキーミル伯爵を……」
「そっか……」
(だからキーミル伯爵とグラハ王国行きの船で会ったり、王都の裏山の泉で会ったんだ……どんな生成品を作ったのかな……)
タミルは妖精の血を引いていて、不調の原因は人間の世界の波動が身体に合わないことだ。だから人間の医者では治せない。
でも、“私達の共存者“が実在するのを知っている私達錬金術師にはタミルを治せる可能性がある。
錬金術師でないローウェルのおじさまがそのことを知るはずがないので、ルーシア様の時には錬金術師に頼ることをしなかった。
医者で治せなかったからとはいえ、私はローウェルのおじさまが今回キーミル伯爵を頼ったことはなんともいえない気持ちになった。
(私よりもキーミル伯爵の方が何倍も経験はあるとはいえ、私だって錬金術師なのにな……)
マイルドは私がみるみる元気が無くなったことに気づき、フォローしてくれた。
「でも、タミル様はやっぱりティファレット様が色々考えて持ってこられるのが一番嬉しそうでございますよ」
「ありがとう。私も頑張るわ」
マイルドの気遣いが嬉しかった。
「はい、タミル様をよろしくお願いいたしますね」
話しているうちにタミルの部屋の前についた。
「タミル様、ティファレット様がお見えになっております」
マイルドがタミルに声をかけた。
「ティファ、どうぞはいって」
心なしかタミルの声は元気になっているようだった。
「こんにちは、タミル。ちょっと元気になったってマイルドから聞いたわ」
「うん、昨日キーミル伯爵が家にきて、あれを持ってきたんだ」
タミルがベッドの側のテーブルにおいてある何本かのガラス瓶を指差した。
「あれは?」
「前にティファが持ってきてくれたのと同じ名前のシックポーションって言ってたよ」
(シックポーション……。私も作ったけどタミルには効かなかったけどな……)
「僕は前にティファにも作って持ってきてもらったから、効きませんよって話したんだけど、これは普通のシックポーションとは違いますって言ってね」
「普通のとは違う……」
瓶を手に取って作者の印をみると、普通のシックポーションであれば赤い“錬“の字とキーミル伯爵の印の黒字が重なって見える。これは生成書の作者と製作者が違う証拠だ。
しかし、このシックポーションは青字でキーミル伯爵の印のみ付いていた。生成書の作者と製作者が同じという印だった。
(シックポーションの素材はブドウハナ、蒸留水……そういえば、この前キーミル伯爵と裏山の泉で会って、泉の水を汲んでいた……)
「!! 裏山の泉の水を使ったんだわ!!」
「ティファ!?」
私がいきなり大きな声を出したのでタミルはびっくりしていた。
「あっ、大きな声を出してしまってごめんね。これは泉の水で作っていると思うの。私が持ってきたのは違うから。だから特別って言ったんだわ。タミルはそれを飲むとちょっと調子が良くなるのよね?」
「ああ。飲んで一日くらいはね。キーミル伯爵は何本か持ってきてくれたから数日は少し調子良くいられそうだよ」
このシックポーションには泉の水が使われているのだろう。
泉の水は自然の多い場所のものだからタミルの身体の波動が少し変化して、人間界に適応するようになり、調子がちょっと良くなったんだろう。
(自然の多い場所のものを身体に取り入れることが正解だと思ったけど、それだと自然の多い場所のものならなんでもいいってことになってしまう……。シックポーションの材料のブドウハナだって自然の多い場所にあるものもある。どうして泉の水を使うと少し体調が良くなるのかしら? きっとキーミル伯爵はその理由を分かって生成しているわよね……)
悔しいけど、キーミル伯爵の方が私より先にタミルの体調を治すための方法に近づいていると思った。
「そうなのね、それはよかったわ。実はね、私も新しく作ってみたものがあるの。それと、これ覚えてる?」
気を取り直して、私はカバンから花冠と花船の瓶を取り出し、タミルに見せた。
「覚えてるよ! 花船だ! よく昔作って遊んでいたよね。懐かしいな」
タミルは手を伸ばし、花船の瓶を私から受け取った。
「はい、タミル」
私はいきなりタミルの頭に花冠を被せた。
「えっ。どうしたの? 急に」
「どうかな? 昔、花冠を被ったタミルはとてもキラキラしてたから、もしかして元気になるかなって思ったの」
花冠を被ったタミルはとてもよく似合って、調子の悪い顔色が明るく見えて、昔のように煌めいていた。
「……ありがとう。なんか気分が良くなって、さっきより調子も良くなった気がするよ」
タミルは花船の瓶を机に置き、そう言って笑顔を見せたけど、私に気を遣ってくれているのがよくわかった。
(やっぱり花冠では治らないか。じゃあ、花のオイルを……)
「タミル、ちょっと火を使ってもいいかしら? アルコールランプを使いたいの」
「構わないよ」
私は鞄から持ってきていたアルコールランプとマッチ、そして皿と花オイルを取り出し、机の上に置いた。
「タミルって好きな花はある?」
「僕は花船になるインパチェンスが一番好きかな」
「そうよね! 私もそうだと思ってたわ。インパチェンスのオイルを炙るわね」
私はアルコールランプの皿の上にインパチェンスのオイルを垂らし、ランプに火をつけた。ゆっくりとオイルが炙られて、インパチェンスのいい香りがしてきた。
「あの花ってこんなにいい香りがするんだね」
「ええ、インパチェンスはほとんど香りがしないものだけど、錬金術をしたら香りが濃くなったの。このままもう少し香りが部屋に広まるのを待ちましょう」
しばらくして部屋中にインパチェンスの香りが充満した。
「タミル、どうかしら?何か体調の変化は感じる?」
「いい香りで、気分はいいけど、体調は変わらないかな……」
「……そっか」
その後、他に持ってきていた花のオイルも試してみたが、タミルの体調は変わらなかった。
「タミル、また来るね。お大事にしてね。花冠はあげるわ」
「ありがとう。ティファ、いつも僕のために色々作ってきてくれてありがとう。また待ってるね」
私はタミルの頭にある花冠以外のものを鞄にしまい、タミルの家から自分の家に戻っていった。
お読みいただきありがとうございました。




