10: 花の錬金術〜フラワーオイル〜
よろしくお願いします。
タミルのところから家に戻ってきた私は、タミルから妖精のクォーターと聞いて、図書館で写してきた内容を読み返していた。
(やっぱりこれだよね)
『そして、妖精は人間の世界の波動に身体が合わない。妖精であればいずれ身体に不調をきたすことになるだろう』
(人間の世界の波動っていうものが、タミルの身体に合わないことが原因だと思うけど、タミルの身体を人間の世界の波動に合わせることができる生成品があれば、タミルも元気になるってことだよね)
でも、言うのは簡単だけど、それを生成するのは難しい。そもそも波動ってなんだろうか?
そういえば、タミルと遊びに行っても、なぜか途中でタミルの調子が悪くなって帰ってきた場所もあったし、もっと元気になった場所もあった。
(場所によってタミルの調子が変わってたから、無意識に身体が感じ取っている場所の雰囲気? みたいな空気のようなものが波動なのかもしれない。それって、何か共通点があったっけ?)
私はもう一度よく思い出してみることにした。
(……遊びに行ったことがあるのは、城下町の市場や王立図書館、そして王都の裏山にある泉……)
その中でタミルの調子が悪くなって帰ってきたのは、決まって人が多い城下町の市場だった。
『ティファ……ごめん。なんか具合悪くなってきた』
『えっ! タミル大丈夫? 戻ろっか』
『うん……せっかくきたのにごめんね』
そうだ、この会話を城下町の市場で何回もした気がする。王立図書館は人が多い時に調子悪くなっていたな。
反対に調子が良くなっていた場所は……王都の裏山にある泉だ。
『あれっ? タミル、さっきまでなんか調子悪いって言ってなかった?』
『うん、でもなんか調子良くなっちゃったよ。ティファ、花船しよう』
『そうなの? よかった〜うん、しようしよう!』
そうそう、こんな会話もしたことがあった。
(……自然の多い場所がよくて、人間が多い場所はダメなんだな。自然の多い場所にあるものを身体に取り入れてみたら、何か変化があるのかもしれない)
私は一つの仮説に辿り着いた。
(明日もう一度裏山の泉に行ってみよう)
そして、夕食の用意ができたと私はメイドに呼ばれたのだった。
次の日の朝早くに、私は馬車を用意してもらい王都の裏山の泉に来ていた。泉のある広場に着くと、他にも馬車が来ていた。その馬車の隣に停めてもらい、馬車を降りて横の馬車を見るとキーミル伯爵家の家紋が入っていた。
(キーミル伯爵がなんでここに……?)
泉の方を見ると、キーミル伯爵がガラス瓶を手に泉の水を汲んでいた。私はそばに行き、キーミル伯爵に声をかけた。
「ごきげんよう、キーミル伯爵。よくお会いいたしますね」
キーミル伯爵は手を止めて私の方を見た。
「おや、ティファレット嬢、本当によく会いますね。今日はまたどうされたんですか?」
「私は少し気分転換をするためにこちらにうかがいました。子供の頃によくここで遊んでおりましたので」
なんとなく本当の理由を話したくなくて、無難に返した。
「そうでしたか。私は錬金術に必要な材料を採取しに来たんですよ」
キーミル伯爵は話しながら水汲みを再開していた。
「ここの泉の水はとても綺麗ですものね。錬金術の素材にも使用できそうですわ」
私は澄んだ泉を見つめながら答えた。
「はい、水と言ったらここが一番ですね。泉の水も汲み終わりましたので、そろそろ私は帰ろうと思います。それではまた」
「はい。また」
キーミル伯爵を乗せた馬車は泉をあとにした。
(昨日、自然の多い場所にあるものを身体に取り入れるっていう答えに辿り着いたけど、具体的に何をどうやるかまでは思いついてないよ)
誰もいない広場にごろっと横になった。貴族の令嬢の行動にしてはしたないかもしれないけど、私はよく素材集めの時に同じことをしていた。
横を向いて、咲いている花を見た。
(咲いている花で花冠を作ったら、また何か閃いたりするかもしれない)
私は広場に咲いていた花を摘んで花冠を作り始めた。
(昔、花冠をタミルと一緒に作って、お互い頭に載せてお姫様、王子様ごっこをして遊んでたんだよね。懐かしいな。頭に花冠を載せたタミルはすごくキラキラしていたな〜)
私はできた花冠を自分の頭に載せて、泉の淵に行き、自分の姿を水に映した。
(うん、まだまだ似合うわね。あっ、タミルにも花冠を被ってもらおう)
妖精のことを書き写した内容に、妖精は花が好きだと書かれていた。昔、花冠を被ってキラキラしたタミルは花が好きで、花冠を嬉しそうにしていた。
私はタミルのために、もう一つ花冠を作ることにした。
(花冠はできたけど、これだけでタミルの調子が良くなるとは思えないな……)
少しは元気になるかもしれないけど、花冠がタミルの調子を治すようなものには思えなかった。
ーー昔、この泉に来た時に確かにタミルは元気になっていた。
(昔、ここでは花冠や花船を作って遊んでいたこと。それから……ルーシア様が……うーん、思い出せないな……)
(次は花船を作ってみようかな)
広場に咲いていたインパチェンスを次々に摘んで泉に浮かべた。
ーーしばらく私はぼーっと花船を見ていた。
泉に浮かぶ花船をぼーっと見ていると、不意にさっき思い出せなかったルーシア様の言葉を思い出した……。
『広場に咲いていた花と泉の水を使って、このままずっと花を浮かべておくと泉の水に花が持ってる大切なものが写るのよ。それが花のエッセンスよ』
(!! そうよ! そうだったわ。花を泉の水にずっと浮かべておくと花が持っている大切なものが写るって言ってたわ! 花を浮かべた泉の水を身体に取り入れたら花のエッセンスが身体に入ることになるわ。そしたら自然の多い場所にあるものを取り入れたことになるんじゃない!)
私は花を浮かべた泉の水を持って帰るための入れ物を持ってなかったので、裏山近くにある町でガラス瓶を購入して、再び泉に戻ってきた。
泉から離れてそんなに時間が経ってなかったので、インパチェンスはまだ綺麗に泉に浮いていた。
(……花のエッセンスを作って、それで錬金術をしてみたら、タミルの体調改善に効果のある生成品ができるかもしれない)
私は慎重にインパチェンスと泉の水を汲んで、ガラス瓶に詰めた。
このまま瓶の中に入れておけば、ルーシア様の言っていた花が持っている大切なものが瓶の中の泉の水に写るだろう。
(錬金術もうまくいくといいけど……。インパチェンスだけじゃなくて、他の花でも花のエッセンスは作ることができるから、広場に咲いている他の花も持って帰ろう)
私は広場に咲いていたインパチェンスと他の花も摘んだ。
(あっ、さっきのガラス瓶の中身は花船でもあるんだっけ。先にタミルに見せて、錬金術はその後にやってみよう)
私は作った花冠、ガラス瓶に入った花船と、摘んだ広場に咲いていた花を持って馬車に乗った。
馬車の中で、摘んできた花を見ていると、昔サラが話していたことを思い出した。
『今度、花を使ったオイルを生成してみようと思ってるんだ。いい香りがして良さそうだと思わない?』
(花を使ったオイルだったよね……結局あの話はあれっきりで、サラが本当に生成したのか聞いてなかったな……香りも鼻から身体に自然の多い場所にあるものを取り入れることになるのかも? それも体調改善に効果あるかもしれないから生成してみようかな)
私は一つ閃くと芋づる式に閃いていた。
お読みいただきありがとうございました。




