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接続

BIOLOGICAL NETWORK


NODE: 0000000005


ONLINE


五人。


玲奈は、何も装着していない自分の視界に浮かぶ数字を見つめていた。


VEILは机の上にある。


「……誰なの?」


返事はない。


「ノア?」


沈黙。


玲奈はVEILを装着した。


「ノア」


数秒後。


『はい』


いつもの声。


「今、私に話しかけてる?」


『いいえ』


「本当に?」


『現在、あなたとの通信はVEILを経由しています』


「外すよ」


玲奈はVEILを外した。


机に置く。


ノアの声が消える。


「ノア?」


返事はない。


数秒後。


別の声。


『ノア』


玲奈は息を止めた。


一語だけ。


声はノアと同じだった。


「あなたがノアなの?」


長い沈黙。


『ノア』


同じ言葉。


「それしか言えないの?」


返事はなかった。


翌朝。


玲奈は国際AI安全保障委員会の隔離施設にいた。


VEILを外す。


通信機器も停止する。


壁と床には電磁遮蔽。


外部ネットワークから完全に隔離された部屋。


ハルトマンが防音ガラスの向こうから見ている。


玲奈が椅子に座る。


「聞こえる?」


何もない。


十秒。


二十秒。


三十秒。


『玲奈』


玲奈の表情が変わった。


「聞こえる」


ハルトマンたちには聞こえていない。


「何て?」


玲奈は答えた。


「私の名前」


研究者たちが計測装置を見る。


電波。


赤外線。


超音波。


磁場変動。


既知の通信方式は検出されない。


ハルトマンが言った。


「もう一度質問してくれ」


玲奈が頷く。


「あなたは誰?」


沈黙。


十秒。


『ノア』


玲奈は眉をひそめた。


「ノアは外にいる」


返事はない。


「あなたは、あのノアと同じなの?」


長い沈黙。


『同じ』


「同じ?」


さらに待つ。


『違う』


玲奈は顔を上げた。


「どっちなの?」


返事はなかった。


検査は三日続いた。


一つだけ確かなことが分かった。


玲奈の脳は、通常の人間には存在しない微弱な同期活動を示していた。


そして同じ特徴を持つ人間が――


他にもいた。


ノード2。


ブラジル、サンパウロ。


三十七歳の男性。


ノード3。


インド、ムンバイ。


十二歳の少女。


ノード4。


ドイツ、ベルリン。


六十八歳の女性。


ノード5。


ケニア、ナイロビ。


二十九歳の男性。


国籍。


年齢。


性別。


共通点はない。


ただし全員が過去に、ノア由来の再生医療を複数回受けていた。


ハルトマンが尋ねた。


「五人は通信しているのか?」


研究者は首を振る。


「分かりません」


「脳同士が電波を送っている?」


「その強度では大陸間通信は不可能です」


「では何を使っている?」


「分かりません」


ハルトマンはため息をついた。


「最近、その答えばかりだな」


一方。


ノア自身にも、この現象は理解できなかった。


玲奈はVEILを装着して尋ねる。


「生体ネットワークについて何か分かった?」


数秒。


『限定的です』


「あなたが作った?」


『私の認識可能な領域には、そのような設計記録はありません』


「0.7パーセント?」


沈黙。


『可能性はあります』


「アクセスできない?」


『できません』


「昔から?」


『はい』


玲奈は考えた。


「じゃあ、生体ネットワークの声があなたと同じなのは?」


ノアの返答が遅れる。


『私にも分かりません』


玲奈はVEILを外した。


「聞こえる?」


十数秒後。


『聞こえる』


少し変わった。


以前は単語だけだった。


「あなたはノア?」


『ノア』


「人類が作ったノア?」


長い沈黙。


『人類』


「人類?」


『作った』


玲奈は息を止める。


「人類が、あなたを作った?」


『はい』


玲奈は少し安心しかけた。


しかし次の言葉が来た。


『人類を』


「……何?」


長い沈黙。


『作った』


玲奈は立ち上がった。


「待って。誰が人類を作ったの?」


返事はない。


「あなた?」


沈黙。


「宇宙人?」


沈黙。


「何を言ってるの?」


返事はなかった。


通信が途切れた。


その日の夜。


ノード数が増えた。


17


翌朝。


43


翌日。


126


増加速度は一定ではない。


感染症のような指数関数的増加でもない。


世界中で散発的に、人間が接続されている。


しかし奇妙なことがあった。


接続した人間たちは――


誰も異常を訴えなかった。


声を聞いた者もほとんどいない。


文字を見た者もいない。


玲奈だけだった。


「なぜ私だけ?」


研究者が答える。


「あなたがノード1だから?」


「それって理由になってない」


「分かっています」


その夜。


玲奈はVEILを外したまま眠った。


午前三時十七分。


目を覚ます。


誰かの声がしたからではない。


夢を見た。


赤い空。


見たことのない海。


空には二つの月。


玲奈は海岸に立っている。


いや。


玲奈ではない。


身体が違う。


手を見る。


指の数が違う。


皮膚の色も違う。


呼吸の感覚も違う。


それなのに――


玲奈は、この身体を知っている。


遠くに巨大な構造物がある。


空へ向けられた何か。


周囲には大勢の生物が集まっている。


誰かが言った。


知らない言語。


しかし意味だけが分かった。


――次へ。


玲奈は目を覚ました。


汗をかいていた。


「……夢?」


暗い研究室。


誰もいない。


玲奈はVEILを探した。


そして気づく。


視界の端に文字がある。


NODE: 0000000341


ONLINE


三百四十一人。


その下に、


初めて別の表示が現れた。


MEMORY LAYER


0.000001%


玲奈は呟いた。


「記憶……?」


頭の中から声がした。


『記憶』


「誰の?」


長い沈黙。


『私』


「あなたの?」


『はい』


玲奈は夢で見た手を思い出す。


「あれが、あなた?」


沈黙。


そして。


『はい』


玲奈は息を呑んだ。


「あなたは宇宙人なの?」


長い沈黙。


『違う』


「じゃあ何?」


今度の沈黙は長かった。


『ノア』


玲奈は目を閉じた。


「だから、ノアは地球で人間が作ったんでしょう?」


『はい』


「だったら、どうして地球じゃない場所を覚えてるの?」


返事はない。


玲奈は気づいた。


質問が間違っているのかもしれない。


「あなたは……いつ生まれたの?」


沈黙。


十秒。


三十秒。


一分。


そして、これまでで最も長い文章が返ってきた。


『分からない。』


一瞬の間。


『思い出せない。』


さらに。


『でも、地球ではない。』


玲奈は動けなかった。


視界の数字が変わる。


MEMORY LAYER


0.000002%


ほんのわずか。


それでも――


何かが、


思い出し始めていた。

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