最終話 「夜のハイウェイにガオー」
赤ちょうちんの屋台。
陸橋を走るトラックの音と、おでんが煮える音が混じり合う。
私だけの特別な物語が帰ってきた。
「おじさん!イスカンダルから帰ってきたのね!」
私は、暖簾の中に飛び込んだ。
中では、2人の禿げがコラボしていた。
「……嘘、館長……死んだんじゃないの?」
「ないよ!死んでないよ!誰だよそんな嘘言ったやつ。」
「……滝口館長代理?」
「ああ、悪人すからね。悪・即・斬してやりましたよ。」
私は、館長の横に座ってる女の子にようやく気がついた。
「あなた、何でここに?」
「なんでって、パパだから?」
「パパ?館長が?」
「はい。パパですけど?この禿げが。」
「でも、良く見て、館長禿げてないわよ。」
「禿げてるよ!」
「あれ?本当だ、パパ禿げてなかった。」
「ないよ!1本も毛がないよ!」
私たちは大笑いした。
「で、館長はなんで辞めたんですか?滝口さんは、個人情報だって教えてくれなかったんですよ。でも、もう戻って来ないって言ってましたよ?だから、てっきり死んだと思ったのに。」
「……クビになったんだよ。」
「クビ!?」
「あそこ、成績悪すぎだろ?」
「……たしかに。」
「たしかにって他人事みたいに、君も社員だろ。」
「たしかに。」
私たちは大笑いした。
「先輩、やっぱりノリ良いですね。パパがいつも家で、先輩の話ばっかりするんですよ。」
女の子が、ニヤニヤと笑う。
館長は恥ずかしそうにしてた。
「たぶん、パパは先輩の事が好きっすよ。だから、先輩のこと見てみたくてバイトはじめたんすよねぇ〜。でも、なんかパパがいなくなったのに、全然楽しそうにやってて、ちょっとだけイラッとしちゃって、意地悪しちゃいました〜さーせん。」
「え?え?えぇ!?」
私の頭が理解に追いついていかない。
館長は私の事が好き?
でも、それを娘から聞いてる?
どういうこと?
不倫?
あ、フリンライダーってキャラクターがいたっけなぁ……
「ちな、パパは独身ね。」
「え?独身なの?」
「ママは、私が4歳の時に酒の飲み過ぎで死んだ。だから、何にも思い入れないし、むしろそんな奴の血を引いてる私を大事に育ててくれたパパには、マジで幸せになって欲しいって思ってる。」
「ちょっと待って、情報多すぎ。」
「パパのこと嫌いか?他に付き合ってる奴とかいるのか?」
「……あ!館長のこと、好きだけど、好きとかそういうんじゃ」
「……ただの館長か?」
私は、黙って頷く。
「これからもか?」
私は、黙って頷く。
「そうか。」
「ふふふふ」
私たちは、どちらからともなく笑い出した。
そして大笑いする。
よく分かっていない館長が、とりあえず笑っていた。
「館長、あらためて言いますね。ごめんなさい。」
「いや、ないよ。告白してないよ。こいつが勝手に言ってるだけだから。」
「ちな、パパのどこが無し?」
「……禿げはちょっと」
「禿げてるよ、どうせ禿げてるよ。なんで僕は、告白してもいないのに傷つけられてるのだい?」
「先輩、よく見て、パパは禿げてないよ?」
「禿げてるよ!1本も無いんだよ!」
「あれ?本当だ、よく見たら禿げてない。」
「禿げてるよ!よく見てみろよ!」
館長は禿げを見せつけてくる。
ついでに屋台のおじさんも見せつけてくる。
私は、ゲラゲラと大笑いした。
その時、私のスマホに知らない番号から着信が入る。
ただ、スマホには、『中国の電話』の表示がされていた。
私は、胸が高鳴る。
私は、スマホの通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『フェラーリンの奴に伝えてくれるか。』
先輩だ!
私は泣きそうになる。
でも、ここはロールプレイしなくっちゃ
「馬鹿!あんたたち飛行艇乗りは、女を桟橋の金具くらいにしか考えていないんでしょ!ポルコ、そのうちローストポークになっちゃうから、私嫌よ、そんな葬式。」
『飛ばない豚はただの豚だぜ』
「馬鹿!」
私は電話をきった。
完璧なロールプレイだ。
……あっ!
電話が再びかかってくる。
「あ、もしもし、きってすいませんでした。」
『……変わんねぇな。』
「そうですか?けっこう変わったんですよ。私は、今はぽん吉ですの。」
『お、おう、そうか。』
「パンが無ければケーキを食べればいいんじゃない?って、感じですことよ。」
『ちょっと、よく分かりません。』
「ココココ、修行が足りませんね。あなた、今、死地に立ってますわよ。」
『……ごめん、マジ分かりませんので、本題に入らせていただいてよろしいでしょうか?』
「あ、すいません。お願いします。」
『実はねぇ〜今、面白い人に会って、あんたに連絡したがってるから連絡してあげたのぉ〜。誰だか分かるぅ〜』
「え、まさか……」
私は、ちょっとだけ胸が高鳴る。
『かわるねぇ〜』
電話口の向こうで、何やら話し声が聞こえる。
どうやら、電話に出るか揉めてるようだ。
先輩が『うるせぇーでろ!』って言って、電話を誰かに押し付けたみたいだ。
『もしもし?僕です。』
「……王くん。」
『あ、声だけで分かってくれましたか?嬉しいです。』
「……パパパ、パッパッパー!」
『え?』
「ううん、こっちの話。で、何の用?」
『好きです。もう一度会いたいです。』
「……馬鹿」
『え?』
「ばか、ばか、ばーか!」
『ええ!?』
急に直球投げてきやがって……
殺す気か……
「じゃあ、ママと私だったらどっちが好きなのさ?」
『え?あなたですけど?』
即答かよ。キュン死するわ。
……あんだけ好きなママより好きって、私のことがどんだけ好きなのさ。
「なら、なんで言ってくれなかったのさ?」
『僕、言ってました。今日、先輩さんにもそれ言われました。びっくりしたです。』
文化の違い怖っ!
お前、ママの話しかしてなかったぞ?
「なら会いに来いよ。そしたら、付き合ってやるかもよ?どうする?私、今日も他の人に告白されたぞ?」
『行きます!明日の飛行機に乗ります!僕の本気を見て欲しいです!』
このやろう。直球で攻めてくるじゃんか。キュン死するだろうが。
「ガオー!」
私は、思わず叫んでいた。
私の特別な物語2ndシーズンが、今から始まる……




