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第三十八話 「助けた野良猫は、なんと野良猫だった。」
動物病院からの帰り道。
ムーンの入ったキャリーの重さが、腕にかかる。
私だけの特別な物語が始まってるんだ。
「ヒロインは悲劇に見舞われれば見舞われるほど、幸せになるのよ。ね、ムーン。」
私はキャリーの中のムーンに声をかける。
ムーンは不貞腐れた顔のまま無言である。
「ちょっと、あんた、私を幸せにしなさいよ?」
私は、ベンチに腰掛けて、キャリーを横に置く。
その途端、ムーンは大暴れして、キャリーが地面に落っこちる。
その拍子に、キャリーの扉が開いて、ムーンは外に飛び出した。
ムーンは一目散に走っていく。
「ちょ、ちょっと待って!」
一瞬、呆気に取られた私を尻目に、ムーンはどんどんと遠ざかっていく。
「待って!待ってってば!」
私は懸命に追いかけるが、どんどん離されていく。
「餌、餌あげるから!」
ムーンは振り返りもしない。
「一緒に住もうよ!大事にするから!あっ!」
私は、派手に転んだ。
ムーンは振り返りもせずに、どんどんと逃げていく。
そして、あっという間に見えなくなった。
「そんなに……一緒に住みたくなかったのかよ……」
助けた野良猫は、なんと野良猫だった……
私は、アスファルトの地面に転んだまま、シクシクと泣いた。




