6.食糧政策
魔王ルシフェリアが“パン作り”に目覚め、
元四天王ガルディオスが“農業部門副責任者”になった結果――
VRMMOは、静かに壊れ始めた。
最初は普通だった。
「まどかに美味しいパンを食べさせたい」
↓
「良い小麦が必要」
↓
「農場を拡張」
ここまではいい。
問題はガルディオスだった。
「魔王様。小麦生産効率を最大化するには灌漑網再設計が必要です」
「うむ」
「北部平原を制圧して参ります」
「言い方」
元侵略軍幹部なので、農業計画が全部軍事作戦レベル。
・魔王軍農業改革
・24時間輪作管理
・土壌バフ最適化
・気候魔法導入
・モンスター堆肥量産
・自動収穫ゴーレム配備
結果。
サーバー全体の小麦相場が崩壊した。
『なんで魔王軍だけ収穫量十倍なんだよ!?』
『またルシア様が経済壊してる!』
『農家ギルドが泣いてる!』
しかも品質まで異常。
ルシフェリアのパンは、ゲーム的には“料理アイテム”。
しかし。
彼女は本物の魔王。
料理にも妙な魔力が宿る。
魔王パンの効果
・HP微回復
・スタミナ持続
・バフ時間延長
・精神安定
・やたら美味い
『これレイド必須では?』
『普通の料理職死んだ』
『パン職人が最強メタになるゲーム初めて見た』
戦士たちが戦場でパンを食べる時代。
掲示板では、
『剣よりクロワッサンの方が重要』
と言われ始めた。
誰も予想しなかった。
ガルディオスは農業適性が異常に高かった。
「害虫発生です!」
「焼き払え」
「ダメです」
「では捕獲して地下労働へ」
「発想が魔王軍!」
だが実務能力は超一流。
特に部下管理が上手い。
「諸君」
『はっ!』
「魔王様が召し上がる小麦だ。命を懸けよ」
『うおおおおお!!』
士気が異様に高い。
なぜか農家プレイヤーたちまで感化され始める。
『ガルディオス様についていきます!』
『農業に誇りを!』
『土を耕せぇぇぇ!!』
結果。
魔王軍農場だけ妙に体育会系になった。
◇◇◇
噂が広がる。
「魔王城パン」が美味すぎる
VR内のパンなのに食べると美味しく感じてしまう。
何か良くない脳内物質が分泌されているのかもしれない。
そしてプレイヤーたちが押し寄せた。
昨日まで恐怖の象徴だった魔王城が、今やベーカリー併設観光スポット。
『焼きたて限定メロンパンまだ!?』
『整理券配布終了です』
『ガルディオスさんが列整理してる……』
身長二メートル超の鎧男が、パン列を管理している光景はシュールだった。
「走るなァ!!一列に並べェ!!」
『はい!!』
無駄に統率される客。
プレイヤー間での呼称も変化した。
以前
・終焉の魔王
・サーバー支配者
・最強ギルマス
現在
・パンの魔王
・クロワッサン暴君
・小麦覇王
「解せぬ」
ルシフェリアは不満だった。
「なぜワシの恐怖政治要素が消えたのじゃ」
『でもパン美味しいし』
『ルシア様かわいいし』
『次シナモンロールお願いします!』
「注文するな!」
◇◇◇
ルシフェリアは空間収納で少量だけ持ち帰る。
当然まどかも食べる。
「……おいしい」
「うむ!」
「でもこれ普通に店開けるレベルなんだけど」
「実は考えておる」
「えっ」
ルシフェリアは真剣だった。
「“ベーカリー魔王城”」
「名前が不穏すぎる」
だが問題がある。
ガルディオスが接客に向かない。
「いらっしゃいませェ!!」
ドン!!
扉が吹き飛ぶ。
「威圧感が強い!」
「笑顔を心掛けております!」
「怖い!」
夜。
試作品のパンを食べながら、まどかはふと思う。
以前のルシフェリアは、
“世界をどう支配するか”
ばかり考えていた。
でも今は違う。
「これ、まどか好きそう」
「もっと美味しくしたい」
「疲れてる時向けにしたい」
そんなことばかり考えている。
「……なんか」
「なんじゃ?」
「平和になったね」
ルシフェリアは少し考えてから言う。
「いや」
そして真顔で続けた。
「これは食による世界征服じゃ」
「まだ征服諦めてなかったんだ……」
なお翌月。
《終焉の黒き翼》は、
PvPランキング一位から、
“料理満足度ランキング”一位へ変わった。




