5.漆黒のガルディオス
VRMMO。
サーバー最強ギルド《終焉の黒き翼》。
その本拠地“魔王城アヴァロン”に、異様な緊張が走っていた。
『ルシア様』
「なんじゃ」
『城門前に変なNPCがいます』
「変なNPC?」
ルシフェリアは首を傾げた。
このゲームには高性能AI NPCも多い。
イベントか何かだろうと思った。
だが報告は続く。
『レベル表示が“???”です』
『門番が全滅しました』
『なんか“魔王様ァァァ!!”って叫んでます』
「…………」
ルシフェリアは嫌な予感を覚えた。
十分後。
城門前。
そこには、漆黒の全身鎧をまとった大男が立っていた。
身長二メートル超。
巨大斧を背負い、赤いマントを翻している。
そして。
「魔王様ァァァァァ!!」
大号泣していた。
「やはりご無事でしたかぁぁぁ!!」
ルシフェリアは頭を抱えた。
「……ガルディオス」
元魔王軍四天王。
忠誠心が重すぎる男。
現実世界で一度まどか宅へ来たあと、いつの間にかVRゲームへ侵入していたらしい。
『誰!?』
『NPCじゃないの!?』
『ルシア様の知り合い!?』
ギルドチャットが爆速で流れる。
ガルディオスは地面へ膝をついた。
「私はずっと探しておりました……!魔王様が“ネット回線”へ堕ちたと聞き!」
「その表現やめよ」
「この異界こそ、新たな侵略先だったのですね!」
「半分くらい違う」
(しかしVR空間に直接ガルディオスが来たということはワシも入れるということかの?)
問題は。
ガルディオスが強すぎた。
ステータスが完全におかしい。
というのも彼は、“本物の魔王軍幹部”だからである。
ゲームシステムが彼をどう扱うべきかわからず、
異常な補正をかけてしまった。
ガルディオス
・レベル:測定不能
・STR:上限突破
・威圧スキルで雑魚敵蒸発
・ログインしただけで周囲BGM変化
『なんだこのバグキャラ!?』
『運営案件だろ!』
『怖い怖い怖い!』
さらに厄介なのは。
ガルディオスがルシフェリアを崇拝しすぎていることだった。
「魔王様!本日の敵対ギルド殲滅リストです!」
「いらぬ」
「こちらは服従拒否したプレイヤー名簿!」
「いらぬ!」
「配信者どもへの見せしめ公開処刑案も――」
「やめぬか!」
まどかがいないと止まらない。
ギルド幹部たちは震えた。
『あの人、ルシア様より魔王っぽくない?』
『むしろ旧世代のガチ魔王軍だこれ』
『コンプラ意識ゼロだ……』
一方、ガルディオスは困惑していた。
彼の知る魔王軍と、今の《終焉の黒き翼》は全然違う。
会議中に雑談する。
イベント後に記念撮影する。
敵ギルドとも普通に交流する。
そして何より。
ルシフェリアが楽しそうだった。
「……魔王様」
「なんじゃ」
「なぜ侵略を止められたのですか」
ルシフェリアは少し黙った。
ギルドホールでは、メンバーたちが騒いでいる。
『料理バフ誰だー!?』
『農園また拡張されてる!』
『ルシア様が変なパン焼いてるぞ!』
うるさい。
だが悪くない。
「ガルディオス」
「はっ」
「支配とはな、恐怖だけではないらしい」
「……?」
「最近わかった」
ルシフェリアは小さく笑った。
「楽しい場所には、人が勝手に集まるのじゃ」
ガルディオスは絶句した。
かつて世界を恐怖に沈めた魔王が。
いま、
“居心地の良いギルド運営”
を語っている。
「……魔王様は、お変わりになられましたな」
「そうかもしれぬ」
そのとき。
『ガルディオスさん!一緒にレイド行きません!?』
『タンク不足なんです!』
『あとスクショ撮りましょう!』
ガルディオスは硬直した。
「……私を誘っているのか?」
『そりゃそうでしょ』
『同じギルドなんだから』
『はやくー!』
彼は戸惑った。
魔王軍で“四天王”とは恐怖の象徴だった。
畏れられ、距離を置かれる存在。
なのにここでは。
普通に遊びへ誘われている。
「……ふ、ふふ」
ガルディオスの口元が僅かに緩む。
「悪くありませんな。この“げーむ”とやらも」
その直後。
初レイドで敵ボスを一撃粉砕。
『バランス壊れたァァァ!!』
『ガルさん出禁!!』
『運営泣いてる!!』
こうして元四天王ガルディオスは、《終焉の黒き翼》へ加入した。
なお本人の役職は――
『農業部門副責任者』
である。
「なぜだ魔王様ァァァ!?」




