3.文化祭も侵略
文化祭当日、朝六時。
まだ誰も来ていない校門前で、魔王ルシフェリアは仁王立ちしていた。
黒マントが朝風に翻る。
「ついにこの日が来たのじゃ……!」
「集合時間早すぎない?」
隣の鹿見まどかは眠そうだった。
「甘いぞまどか。世界征服とは準備八割じゃ」
「文化祭だけどね?」
今回、ルシフェリアが狙うのは“学校支配”。
ただし暴力は禁止。
先生にも止められる。
ゆえに彼女は考えた。
「ならば文化祭で全クラスを圧倒すればよい!」
その結果――
二年B組の出し物は、とんでもないことになった。
『魔王城からの脱出』
入場した客はまず、薄暗い廊下を歩かされる。
突然鳴り響く重低音。
赤く点滅する照明。
天井から垂れる謎の触手。
「文化祭レベルじゃない!」
「なんで校内に溶岩あるの!?」
「ドライアイスと照明で頑張ったのじゃ」
ルシフェリアは胸を張った。
しかも彼女、妙な方向に有能だった。
「予算管理は完璧」
「動線設計も優秀」
「演出タイミングは秒単位」
「シフト表に一切穴がない」
クラスメイトたちは震えた。
「魔王なのに仕事できすぎる……」
「ブラック企業の管理職適性が高い……」
「怖いけど頼れる……!」
さらに恐ろしいのは交渉力だった。
「隣のクラスが音響機材貸してくれないらしい」
「任せるのじゃ」
三十分後。
隣クラス代表が土下座していた。
「どうぞお使いくださいルシフェリア様!」
「何したの!?」
「少し笑顔で将来設計を語っただけじゃ」
「圧迫面接だったんだよそれ!」
そして文化祭開始。
『魔王城からの脱出』は大行列となった。
SNSでも話題沸騰。
『なにあれクオリティ高すぎ』
『ラスボス役の銀髪美少女、本物の魔王感ある』
『演技じゃなくて素っぽいの怖い』
ちなみに素である。
昼頃には校長まで視察に来た。
「いやあ素晴らしいですねぇ」
「うむ。貴様もワシの支配下に――」
「ルシフェリアちゃん!?」
「ごほん。楽しんでいくがよい」
まどかは頭を抱えた。
だが本番は最後だった。
閉会直前。
中庭ステージで、文化祭MVPの発表が始まる。
「今年の最優秀企画は――二年B組!」
大歓声。
クラスメイトたちが飛び跳ねる。
「やったあああ!」
「ルシフェリアのおかげだ!」
「魔王様ー!!」
担ぎ上げられるルシフェリア。
「わ、わわっ!?お、おろすのじゃ!」
だが彼女は途中で気づいた。
誰も恐怖で従っていない。
皆、笑っている。
その中心に、自分がいる。
「……なんじゃこれは」
隣に来たまどかが微笑む。
「支配、成功したね」
「違う」
ルシフェリアは少しだけ照れた顔で答えた。
「これは……」
言葉を探して、ようやく呟く。
「仲間、というやつじゃ」
その瞬間。
「ルシフェリア様ー!打ち上げ行くぞー!」
「カラオケも予約した!」
「今日は徹夜じゃー!」
「徹夜は禁止!!」
魔王の叫びが夕暮れに響く。
こうしてルシフェリアは文化祭を支配した。
恐怖ではなく、圧倒的な段取り力と演出力によって。




