2.新たなる侵略
魔王ルシフェリアは、テレビ画面を睨みつけていた。
「……つまり、この世界には“ネット”なる異界が存在するのじゃな?」
「異界じゃないよ、インターネット」
ソファでみかんを食べながら、鹿見まどかは気のない返事をした。
「そして、この“VRMMO”では、数万人規模の人類を支配できると」
「ゲームだからね?」
だがルシフェリアの目は本気だった。
三か月前、現実世界征服に失敗した魔王は、すっかり腑抜け――にはなっていなかった。
ただ、方向転換しただけである。
「よいかまどか。現実世界には法律と警察がおる。だがゲーム世界にはない!」
「運営はいるよ?」
「ふふふ……ついに見つけたぞ。ワシが再び覇道を歩む舞台を!」
翌日。
二人は秋葉原のショップへ来ていた。
ルシフェリアは最新VR機器を抱えて震えている。
「これが……異世界転移装置……!」
「ただのヘッドセットだよ」
帰宅後、早速ログイン。
ゲームタイトルは《ラブクラフト》。
プレイヤー数五十万人超の超人気VRMMOだった。
そして、ルシフェリアは開始三分で運営に目を付けられた。
『プレイヤー名:†冥界絶対覇王ルシフェリア† は使用禁止文字が含まれています』
「なぜじゃ!?」
「名前が痛いからじゃないかな……」
結局、名前は「ルシア」になった。
種族は当然“魔族”。
職業は“闇の支配者”。
キャラメイクだけで五時間かかった。
「見よまどか!完璧なる魔王の姿を!」
「角のサイズ、途中で三回変えてたよね」
ゲーム開始後、ルシフェリアは驚異的な速度で頭角を現した。
戦略、統率、資源管理。
現実で本当に魔王軍を率いていた彼女にとって、ギルド運営は遊び同然だった。
一週間後。
ギルド《終焉の黒き翼》設立。
一か月後。
サーバー最大規模ギルドへ成長。
三か月後。
ゲーム内経済の三割を掌握。
プレイヤーたちは震えた。
「なんだあのギルマス……」
「戦争が強すぎる……」
「外交で笑顔なのに、断ると翌日には拠点消えてる……」
「完全に魔王なんだが?」
だが問題もあった。
「ルシア様!次の侵攻作戦ですが!」
「うむ!」
「その前に学校の課題終わった?」
「ぐっ……!」
現実では、まどかに生活管理されていた。そしてなぜかまどかと同じ学校に通う学生でもある。
深夜二時。
ギルド会議中。
突然、ルシフェリアのアバターが消える。
『ルシア様!?』
『回線落ち!?』
実際は違った。
まどかがコンセントを抜いたのである。
「夜更かし禁止」
「あと五分だったのじゃあああ!!」
だが、そんな日々は不思議と悪くなかった。
現実では孤独だった魔王に、ゲームの仲間たちは本気でついてきた。
ある日、幹部プレイヤーが尋ねる。
『ルシア様って、なんでそこまで世界征服したいんです?』
ルシフェリアは少し黙った。
現実世界では恐怖でしか支配できなかった。
誰も本当には隣にいてくれなかった。
だがこの世界では違う。
皆、自分の意志で集まっている。
「……たぶんワシは」
ヘッドセットの向こうで、彼女は小さく笑った。
「誰かと同じ世界を作りたかったのじゃろうな」
その瞬間。
『ルシア様エモい!』
『スクショ!』
『これだからこのギルド辞められねえ!』
チャット欄が爆速で流れた。
「うるさいわ!!」
翌週。
《終焉の黒き翼》は大型イベント戦争で優勝した。
数万人のプレイヤーが歓声を上げる。
玉座アバターに座ったルシフェリアは、高らかに宣言する。
「聞け人類よ!本日よりこのサーバーはワシの支配下じゃー!!」
『うおおおおお!!』
『魔王様ばんざーい!』
『ログインボーナス増やしてー!』
「それは運営に言え」
隣では、まどかのアバターが笑っていた。
『結局、世界征服できてよかったね』
『……うむ』
ルシフェリアは少し照れくさそうに目を逸らす。
『ただし』
『?』
『次は現実でも文化祭を支配する』
『それは普通に手伝うよ』
こうして魔王ルシフェリアは、新たな世界を手に入れた。




