16.異世界開拓
魔王城中央庁舎。
そこでは今日も、幽霊官僚たちによる会議が続いていた。
『北部倉庫、物資飽和しています』
『人口増加率、予測上限超えました』
『住宅不足です』
『新規農地が足りません』
ルシフェリアは頭を抱えた。
「なんでゲームで住宅問題が起きるのよ……」
最初はただのVRMMOだった。
戦って。
素材を集めて。
魔王城で騒ぐだけの世界。
だが今。
人口は爆発的に増加していた。
理由は単純。
“住みやすい”のである。
物流が整っている。
治安が良い。
初心者支援が手厚い。
税制も意外と公平。
結果。
プレイヤーたちが定住し始めた。
『この国、なんか安心する』
『他のエリアより暮らしやすい』
『飯が安い』
完全に移民国家だった。
◇◇◇
そんなある日。
中央会議室へ、一人の巨漢が入ってくる。
漆黒の鎧。
巨大な体躯。
圧倒的威圧感。
元魔王軍四天王――ガルディオス。
ルシフェリア直属の将軍である。
「ルシフェリア様」
「ガルディオス?」
彼は地図を広げた。
現在の魔王領。
巨大都市化した魔王城。
周辺農地。
鉱山。
交易路。
そして。
未開拓地。
ガルディオスは静かに言った。
「そろそろ限界です」
「何が?」
「“都市国家”としての限界です」
会議室が静まる。
ガルディオスは続けた。
「人口増加に対して土地が足りません」
「うむ……」
「資源供給も中央依存が強すぎます」
物流が一本化しすぎている。
つまり。
魔王城が止まれば、国家全体が止まる。
危険だった。
「だから提案します」
ガルディオスは地図の外縁を指差した。
「新領土を開拓しましょう」
◇◇◇
数日後。
魔王領第一次開拓計画が始動した。
プレイヤーたちは歓喜した。
『新大陸だー!!』
『フロンティア開拓!』
『植民開始!!』
ルシフェリアは若干不安だった。
「なんか急に歴史シミュレーションゲームみたいになってない?」
ネクロは静かに答える。
「国家は拡大を始めると止まらん」
最初に建設されたのは――。
【第一農業開拓都市】
広大な平原地帯。
元農家の幽霊たちが主導した。
『土壌分析!』
『灌漑工事開始!』
『輪作計画作れ!』
異様に本格的だった。
しかも。
プレイヤー農業勢が妙にハマった。
『農地経営楽しい』
『収穫祭やるぞ!』
『家畜増えた!』
結果。
食料自給率が劇的改善。
魔王領は飢饉耐性を得た。
ルシフェリアは驚愕する。
「なんで農業だけでこんな盛り上がるの!?」
「農業は人類史の基本です」
ガルディオスは真顔だった。
次に建設されたのは。
【鉱山都市】
ここでは工業勢が暴走した。
『掘れー!!』
『製鉄炉増設!』
『蒸気機関実装!』
元工場技師幽霊たちが本気を出した結果。
技術ツリーの進化速度が異常化した。
プレイヤーたちは歓喜する。
『武器量産できる!』
『資源安定!』
『経済回る!』
そして。
自然発生的に。
労働組合まで生まれた。
「なんでVRMMOでストライキが起きるの!?」
ルシフェリアは叫んだ。
さらに。
【海洋交易都市】
港湾国家だった。
商人プレイヤーが集結。
海運。
漁業。
交易。
外国勢力との貿易。
ここで魔王領は決定的に変わる。
『輸入品入ります!』
『南方香辛料高騰!』
『交易船護衛募集!』
経済が回り始めた。
貨幣価値が安定。
市場が形成。
投資家プレイヤーまで現れる。
「なんでゲームで先物取引してるの……?」
ネクロは静かに言った。
「人類は市場を作る生き物です」
そして。
ガルディオス最大の提案。
【辺境要塞都市】
これは軍事拠点だった。
未開拓危険地帯。
旧支配者の眷属が徘徊する狂気領域。
そこへ要塞都市を築く。
「危険すぎない!?」
「だから必要なのです」
ガルディオスは断言した。
「辺境は防衛線になります」
結果。
戦闘プレイヤーたちが熱狂した。
『最前線だー!!』
『防衛戦イベント!』
『城壁建築急げ!』
軍事国家化が始まった。
しかも。
兵站管理は幽霊官僚たち。
異常に強い。
『補給線維持!』
『交代制導入!』
『弾薬管理!』
戦争が本格的すぎた。
◇◇◇
数ヶ月後。
ラブクラフトの地図は一変していた。
都市。
街道。
農地。
港湾。
鉱山。
要塞。
飛空艇航路。
国家インフラ。
そして中央には。
巨大化した魔王城。
ルシフェリアは世界地図を見ながら呆然とする。
「……なんでこうなったの?」
ガルディオスは静かに答えた。
「国家とは、土地を持った瞬間に変わるのです」
都市国家から。
領土国家へ。
税と行政だけではない。
土地。
国境。
物流。
地域格差。
防衛線。
それら全てが“国家”を本物にしていく。
その時。
『魔王様ー!!』
幽霊官僚たちが駆け込んできた。
『新規開拓民募集します!』
『北方鉄道敷設計画!』
『あと地方議会設立案!』
「地方議会!?」
『自治権問題がですね』
「やめて!急にリアルになるから!」
だが。
窓の外では。
プレイヤーたちが笑いながら街を作っていた。
農地を耕し。
商売を始め。
国家を育てている。
ルシフェリアはそれを見て、小さく笑った。
「……まあ、悪くないか」
その隣で。
ガルディオスは静かに頷いた。
かつて魔王軍を率いた四天王は理解していた。
文明とは。
誰かがそこに住み続けたいと思った瞬間から始まるのだと。




