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15.魔王城再び

VRMMO『ラブクラフト』。


狂気と深淵をテーマにした高難易度VRMMOである。


巨大ダンジョン。


旧支配者。


SAN値システム。


プレイヤー同士の領地戦争。


そして。


ルシフェリアが趣味全開で作った“魔王城エリア”。


そこには日々、戦闘狂と生産廃人が集まっていた。


『レイド行くぞ!』


『素材掘りじゃー!』


『神話級武器完成した!』


皆、強かった。


だが。


問題があった。


誰も運営をしないのである。




税制がない。


物流管理がない。


治安維持も適当。


倉庫管理はぐちゃぐちゃ。


資材は毎回足りない。


ポーションはなぜか消える。


レイド報酬で毎回揉める。


さらに。


『誰か新人対応して』


『知らん』


『畑誰が管理してる?』


『知らん』


『城壁壊れてるぞ』


『あとで』


完全に脳筋国家だった。


ルシフェリアは頭を抱えていた。


「なんで戦争は強いのに行政がこんな弱いのよ……」


ネクロは静かに言った。


「人類史でもよくある」




そんな時だった。


VR世界へやって来た幽霊老人たちが、それを見た。


そして。


『……駄目じゃな』


一言で切り捨てた。




最初に動いたのは、元市役所勤務の幽霊だった。


『物資管理表どこじゃ』


「え?」


『在庫管理』


「ない」


『は?』


数時間後。


魔王城には《中央物資管理局》が設立された。


木材。


鉱石。


食料。


薬草。


全ての資源が台帳管理され始める。


『誰が何を持ち出した?』


『許可証出せ』


『申請書書け』


「急に仕事感がすごい!?」


プレイヤーたちは震えた。




次に現れたのは、元銀行員と経理部隊だった。


『財政管理がない』


『レイド報酬の配分規定もない』


『税収ゼロでは国家運営できん』


「国家運営……?」


誰かが呟いた。


すると幽霊たちは当然のように答える。


『魔王城は国家じゃろ?』


違った。


少なくともゲーム運営側はそんなつもりではなかった。


だが幽霊たちは止まらない。


数日後。


《魔王領税務庁》が設立。


レイド報酬の一部が自動徴収され始めた。


『城壁維持費です』


『転移門保守費です』


『道路整備予算です』


「道路整備って何!?」


しかし。


実際に街が便利になった。


物流導線。


市場整理。


倉庫拡張。


物価安定。


生産職たちは驚愕した。


『……住みやすい』


『素材流通が安定してる』


『ポーション品切れしなくなった』


官僚制が強すぎた。




さらに。


元総務部長たちが動く。


『組織図が必要じゃ』


結果。


魔王城に大量の部署が誕生した。


・中央行政院

・物資管理局

・迷宮整備局

・冒険者登録庁

・魔物保護管理課

・精神汚染対策室

・深淵監視委員会


「なんか急に国家になってない!?」


ルシフェリアは困惑した。


だがプレイヤーたちは喜んだ。


『クエスト管理めちゃ楽』


『問い合わせ対応が神』


『新人支援制度ありがたい』


『迷子にならない』


特に初心者支援が異常に充実した。


なぜなら。


幽霊老人たちは“新人教育”に慣れていたからである。


『最初は皆失敗する』


『報連相大事』


『無理するな』


社会人研修みたいになっていた。




そして。


転機が訪れる。


大規模レイド戦。


外部ギルド連合軍が魔王城へ侵攻してきたのだ。


『敵襲ー!!』


『迎撃だー!!』


戦闘プレイヤーたちは盛り上がった。


だが。


幽霊官僚たちは違った。


『兵站は?』


『回復薬在庫確認!』


『負傷者搬送ルート確保!』


『交代勤務表更新!』


「戦争が本格的すぎる……」


結果。


魔王城側は圧勝した。


理由は単純。


補給が完璧だった。


敵軍は途中でポーション不足を起こし崩壊。


一方、魔王城側は。


『第二倉庫開放』


『温かい食事配給』


『仮眠所はこちら』


完全に近代軍隊だった。


プレイヤーたちは理解した。


「このゲーム……」


「戦闘だけじゃ勝てない」




それ以降。


ラブクラフトは変わっていく。


国家運営ゲームへ。


外交。


物流。


行政。


福祉。


教育。


税制。


軍事。


プレイヤーたちは次第に役割を持ち始めた。


『農業やる』


『交易商人になる』


『役人試験受けたい』


『観光業始めた』


「なんでVRMMOで公務員試験があるのよ!?」


ルシフェリアは叫んだ。


だが。


受験希望者は増え続けた。



◇◇◇



ある夜。


魔王城中央庁舎。


ルシフェリアとネクロは、巨大な組織図を見上げていた。


「……どうしてこうなったの?」


ルシフェリアが呆然と呟く。


ネクロは静かに答えた。


「老人たちは、“社会を維持する側”だったのだ」


戦士ではない。


英雄でもない。


だが。


会社を回し。


役所を回し。


物流を回し。


社会そのものを支えていた。


だから彼らは理解していた。


国家に必要なものを。


その時。


『魔王様ー!』


幽霊官僚たちが駆け込んでくる。


『来年度予算案できたぞー!』


『インフラ投資について会議じゃ!』


『あと職員福利厚生改善案!』


ネクロが即座に言った。


「福利厚生はやめろ」


『温泉旅行を』


「やめろ」


だが。


ルシフェリアは少し笑っていた。


狂気のVRMMO。


魔王城。


その中心で。


世界最強の官僚組織が、静かに育っていた。

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