拉致帰りに拉致
空の旅は案外快適。
いや違うな、お父さんとの空の旅は快適なんだ。
前回の魔女のガサツな操作と違い、お父さんは風除けの魔法を使ってくれているから、速さの割にそよ風が頬を撫でる程度。
外では防風なのだろうに。
出来るパパン。
そういえばこの鳥は見たことがある。
スーパームキムキ巨人の時に僕に爆発する火を落とした鳥だ。
今となってはあれは僕にも落ち度が多大にあったと分かっているので恨んではいないけど、ちょっと複雑ではある。
「ラルフ、この先に港町があってな。
今日はそこで一日休んでから旅立とうと思う。
鳥は夜には飛べないのだ。」
そんなのお任せするよ。
わざわざ迎えに来てもらったんだから。
ガソリン代とかだそうか?なんてね。
ありがと。
「実はちょっと寄り道していくルートでな、ふふ。
そこは海の町で食べ物が美味しいんだよ。
ラルフは王国ではなかなか出掛けられなかったろう?
色々旅行の案とか考えてあったのだが、私も忙しくてな。
今回は怪我の巧妙で時間をいくらでも使えるからな。」
海の幸か!やったー!楽しみだね。
『我にもくれ!』
…え?
僕の中からふわっと赤い光が出て来て小さな龍になる。
何が起こったか呆然と小さな龍を見つめていると、そいつがまた話し出した。
「我も食べたい。」
は?なんでついて来てるのさ!
察するにあんた龍の偉い人でしょ?
「我は龍神だ。
我も魚が食べたい。」
それは良いよ。
分けてあげるよ。
そうじゃなくて、なんでついて来てるのかって聞いてるんだよ。
「願いがまだ終わっておらん。
一度離れたら脆弱な人間なんて違いがわからんのだ。
目印としてわけ身を与えておかないと、魔力を探ってもどれがどれか分からん。
我はザギギアが食べたい!」
願いがまだ終わってない…?
なんだ…?僕は叶えたよ。
エアリスを人間にして貰ったやつだ。
あの2人はそれぞれ若返るって願いを叶えていたはず…。
もしかして、リナリーンは美魔女だから、本当は使ってないってこと?
「いや、簡単な願いだからな。
あの、ほら、男の方の願いで二人とも若返らせたのよ。」
…じゃあ絶対リナリーンが願いを変なことに使ったんだ。
しかも僕に向けて。
ねぇ龍神さん。
僕へ掛かってる願いってなに?
「ザギギアが食べたい!」
えぇ…。
お父さん、ザギギアって魚知ってる?
「ん?あぁ、よくある魚だ。
大きな魚でな、遠洋で取れるから少し値は張るが、美味しいぞ。
なんだ?ザギギアを食べてみたいのか?
良いだろう。
食も経験、我が子の見聞を広めるのに貴賤は…。
ん?
…なんだその龍は。」
龍神のわけ身だってさ、ザギギアが食べたいんだって。
「なんと…!
ははは、ラルフといたら神話の様な話が当たり前に起こるなぁ。
ま、良いだろ。
龍神様にもザギギアも出してもらえるように頼もう。」
ザギギア食べられるって、よかったね。
「やった!
…あやつは誰だ?
良いやつだな。
歳の差的に父君か?ならばちょうど良いな。
明日の夕方迎えに行くから準備をしておけ。
2人を龍の国へ連れに迎えを寄越すから。」
いやいや、僕らは魚食べた後は家に帰るんだから、行かないよ。
なにさ龍の国って。
「龍の国は龍の国だ。
もう迎えはすぐそこまで来ているぞ。
ザギギアを食べるために少しゆっくり飛んでくる様に伝えたが、中止とはいかん。
楽しみだな!
ザギギア!」
お父さん…
あの、龍神さんがとんでもないことを言い出したんだけど…。
「龍の国か!実在したのだな。
招待してくれるのか?
行ってみたかったんだ。
私がお前くらいの頃に読んだ本に出てくる国でな。
天までそそり立つ雲の中に鎮座する国だとかで。」
そっか…。
吝かではないのね。
僕は躊躇しかないんだけどな。
「お、見えて来たな。
まずは魚を食べようではないか。
あそこが海の町、ルー…。」
さぁ本日のお宿へ、というところで上から大きな龍が鳥ごと僕らを掴んで来た。
「スピラヴェラ!ゆっくり来いって言っただろ!」
スピラヴェラと呼ばれた龍はボフンと息を吐いた。
デカ過ぎてピンとこないが、ため息だろう。
「龍神様がひっ付いてるって聞いてゆっくりしてられるわけないでしょ。
しかも何百年ぶりかのトカゲ殺しじゃなくて、マジもんのドラゴンスレイヤー様と一緒なんだし、早く回収しないと何しでかすかわからんでしょ。」
全然信用ないじゃない、龍神さん。
「スピラ!我を敬え!
じゃないとこやつらが誤解するだろう!
このままだと、とんだ厄介者だと思われるだろ!」
トラブルメーカーなのね、龍神さん。
「驚かせて悪いね、坊ちゃん、ご主人。
でも考えてみてよ、美味しい魚を食べてテンションが上がった龍が町にいる様子を。
ダメでしょ?
いう事聞く生き物じゃないよぉ?
この人こんな事ばっかりするから、逆によくわからない神話とかいっぱい作られててさ、龍の中でも警戒されちゃってんの。
そのまま龍の国に連れて行くからね。」
変な騒ぎになるくらいならその方がいいよね。
お父さんも頷いているから同じ気持ちなのだろう。
「嫌だ!ザギギアを食べるんだ!」
ほらほら
わがまま言わないの。
「分け身じゃなーんにも出来ないでしょ。
さ、飛ばしますよ。
鳥は戻しといた方がいいんじゃない?」
そういわれてお父さんが鳥を魔法陣の中へと戻すと、龍はより高く上がり、すごいスピードで飛び始めた。
ほう、この龍も出来るやつだ。
全然風が来ない。
「ザギギア!
せめて買ってから!
な?
分けてやるから!」
そんなに言われたら僕も食べてみたくなって来たな。
「なんか私もザギギアの口になって来たな。
帰りに食べようか。」
ね。
僕たちは帰りにでも食べようか。
トラブルメーカーのいない所でさ。
ゆっくりと。




